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2012年9月
建築や美術の世界と社会との接点をつくりたかった
――建築や美術を専門に広報の仕事をすることになった経緯を教えてください。
大阪の短大在学中に、アレックス・カーの『美しき日本の残像』を読んで住まいをデザインするという課題が出たことがありました。その辺りから建築やインテリアに興味を持ち始め、卒業後、専門学校でインテリアを学び、建築事務所に勤めました。そこでは、建築のプロジェクトにかかわるとともに、レクチャーの企画なども手がけるようになりました。若手の建築家の仕事が世の中にあまり知られていないので、社会との接点をつくりたいと思ったんですね。東京に移住し、2000年から2年間、建築プロデュースの会社で広報を務めた後、現代美術のギャラリーで建築・美術のレクチャー企画や展示の補佐、広報活動を行ないました。
――建築や美術の世界では、つくることが中心で、それを伝える「広報」の手法はあまり確立されていない時代だったのではないですか?
そうですね。広報専門の会社にも勤めた経験がないので、最初は手探りでしたが、ジャスパー・モリソンや長大作らが参加した、デザインによる地域産業活性化プロジェクトの広報を務めてから、メディアとのコネクションが広がりました。2004〜2005年にはキリンビールが主催する「KPOキリンプラザ大阪」の展覧会広報を務め、批評家でキュレーターの椹木野衣さんやアーティストのヤノベケンジさんとも出会い、現代美術の世界により深く足を踏み入れるようになりました。この時、企業のCSRとPR、広告代理店の広報の手法も学ぶことができました。
――美術ジャンルでは、他にどんな展覧会の広報をされたのですか?
 広報素材の一つである「横浜トリエンナーレ2008」ポスター
「GEISAI#10」や「横浜トリエンナーレ2008」で広報を担当しました。情報を発信して待つだけでなく、雑誌やテレビ、ラジオなどそれぞれのメディアの特性とつなげたコラボレーション企画を持ち込み、提案するようになったのはこの頃からです。
――2009年に独立して「TAIRA MASAKO PRESS OFFICE」を立ち上げたきっかけは何ですか?
今でも地方の美術館には学芸員が広報も兼任しているようなところがありますが、当時「アートフェア東京」エグゼクティブ・ディレクターだった辛美沙さん(現MISA SHIN GALLERYギャラリスト)に「海外の美術館では、広報は広報専門の人が担っている。ぜひその道のプロに」と背中を押されたことがきっかけになりました。独立後は、2007年から担当していたアートフェア「ART OSAKA」に加えて、2010年から始まった「G-tokyo」、その翌年には「文化庁メディア芸術祭」など、徐々に仕事をいただけるようになりました。
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展覧会や作家のメッセージをいかに伝えるか
――展覧会広報の主な仕事の流れを教えてください。
まずはクライアントにその展覧会についてヒアリングをします。それをもとに、雑誌、ウェブ、新聞などへの発信時期についてタイムスケジュールを組み、企画書を作成します。媒体の読者層や特集などの情報をつかみ、どんな媒体にどう取り上げていただくか。そのためにどんな写真や資料などの素材、取材の場が用意できるか。クライアントとは目的を共有するためのコミュニケーションが大切です。現存作家には話を聞いたり、制作現場を見たりもします。
「第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ」(2011年)日本館に出品した束芋の取材現場
そうした話し合いや取材をもとにプレスリリースを作成し、郵送、メール、ファックスといった送付方法に応じて名簿を作成し、発信します。その後、媒体から依頼があれば、作品画像の送付や取材のセッティング、校正などを行ない、記事になったものはクリッピングします。この時、アプローチから結果までを記録し、掲載にならなかった場合はその理由も記した報告書を作成してクライアントに渡します。
――広報的な視点から新たに提案して実現した事例を教えていただけますか?
2010年から、ルーヴル美術館と大日本印刷の共同プロジェクト「ルーヴル - DNPミュージアムラボ」のPRを務めているのですが、広報ツールとしてフリーペーパーを提案しました。マルチメディアコンテンツを使った鑑賞方法を深めるためのミュージアムであると同時に、手に触れる感覚も伝えたいということでしたので、手にとってもらえるような印刷物をと思いました。
――これが発行されるようになって、どんな展覧会が行われているのかよくわかるようになりました。
ありがとうございます。また、国際交流基金の主催で、海外で行われる展覧会の広報を務めることもあるのですが、国内でもっと知っていただけるよう報告会としてのトークイベントを提案中です。時には、広報予算が少ない場合に展覧会を助成してくださるスポンサーを探して、少しでも広報予算を増やしていただくように努力することもありますよ。
「ルーヴル - DNPミュージアムラボ」のフリーペーパー
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見る人を育て、つなぐ広報のありかたを考えたい
――美術の広報で、他のジャンルと違う点は何ですか?
完成した映画や音楽の広報とは違って、現代美術の場合は新作ができていないことも多いので、いかにイマジネーションを掻き立てるかを考えますね。そのためにも自分自身がドキドキ、ワクワクするような広報をしたいと思います。
――これから取り組みたいことなどありますか?
観客に投げかけ、対話を促すような広報。個人個人がさまざまな感想を持つきっかけをつくり、そこで得た反応を次のPRに活かせるようになるといいなと思います。
――この仕事をしたい人にアドバイスをお願いします。
日頃からものごとを多角的に見て、どのように伝え、つなぐかを考えるのもいいのではないでしょうか。広報の仕事には工夫してつくる余地がたくさんあります。この仕事が確立していくためにも、仲間が増えることを願っています。
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平 昌子(たいら・まさこ) |
1974年、大阪生まれ。松本明建築研究所に在籍し、住宅のプロジェクトにかかわるほか、大阪INAXギャラリーにて建築の定期講演会アーキフォーラムの企画及び運営を柳々堂書店(大阪)と行う。その後、建築プロデュース研究所にて広報担当。企画事務所を経て、TAIRA MASAKO PRESS OFFICE発足。広報を務めた主な展覧会に「横浜トリエンナーレ2008」、2010年より「G-tokyo」など。現在、「フェスティバル/トーキョー2012」の広報チームに参加。
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