国内外のコンテンポラリー・アートの最前線にふれることができるスポット、東京都現代美術館。7月17日から「借りぐらしのアリエッティ×種田陽平展」、7月24日から「こどものにわ」がはじまります。どちらもこどもと一緒に楽しめる展示構成なので、現代アートの入口に最適。大人にとっても、今までとは違った視点で展覧会を鑑賞することができるまたとない機会です。所蔵品を紹介する「MOTコレクション」展とあわせて、現代アートを体感してみませんか。 |
借りぐらしのアリエッティ×種田陽平展

『崖の上のポニョ』から2年ぶりの公開となる、スタジオジブリの新作映画『借りぐらしのアリエッティ』(企画/宮崎駿、監督/米林宏昌)。イギリスの女流作家、メアリー・ノートンの小説『床下の小人たち』を原作にしたこの物語は、人間の家の台所の下で展開します。身長10センチほどの小人の少女、アリエッティは、家族とともに古い家の床の下にひっそりと住み、必要なものは人間から借りるという「借りぐらし」の日々を送っていました。ところが、ある時、アリエッティは引っ越してきた人間の少年に姿を見られ――。映画では、人間と小人たちの交流を通じて、「借りぐらし」という生き方を描き出します。一方、展覧会「借りぐらしのアリエッティ×種田陽平展」では、アニメーションに登場する小人たちのくらしを立体化し、1200平方メートルを超える東京都現代美術館の展示室に巨大なセットを創出。アニメーションの中の2次元を3次元の世界に、「現実(リアル)と虚構(ファンタジー)を融合(フュージョン)させる」のが、映画美術監督の種田陽平さんです。
種田さんはこれまで美術監督として、『スワロウテイル』(監督/岩井俊二)、『キル・ビル Vol.1』(監督/クエンティン・タランティーノ)、『フラガール』(監督/李相日)、『ザ・マジックアワー』(監督/三谷幸喜)、『ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ』(監督/根岸吉太郎)、『悪人』(監督/李相日:2010年9月11日公開予定)といった実写映画だけでなく、テレビ番組、コマーシャルフィルム、舞台など、幅広い分野で活躍。「再現ではなく表現を、摸写ではなく創造を」という言葉通り、緻密に計算されたセットの組み立て、研ぎ澄まされたセンスによる仕上がりは、「神業」ともいわれ、高い評価を受けています。しかし、そのセットは通常、撮影終了とともに解体され、私たちは完成した映画の中でしか見ることができません。そういった状況から、直接目にする機会がほとんどない種田さんのセット。この世界を実際に体感できることは、本展最大の魅力といえるでしょう。
 映画美術監督 種田陽平さん
 展示イメージのイラスト
「“この展示は、再現ではない。実写映画美術の職人たちがアリエッティの世界をつくるとこうなる”ということをお客さんに観ていただけたら」と、展覧会では多くの人に「映画のセット美術の面白さ」を感じてほしいと語る種田さん。「映画のセットって、近くで見ると結構色が深かったりするんですよ。エイジング(経年を表現する汚し)も現実よりも強めにしますし。そんなセットの感じを、そのまま出してみたいんです。また、お客さんたちがキャメラマンになって見られるような、キャメラポジションもいくつかつくっています」。実際、アリエッティの部屋の壁には穴が開けられ、様々な角度で部屋の内部をのぞくことができるといった工夫も施されています。「光源にもこだわっていて、小人が暮らす地下は通気口から光が射すとか、その地下へ入っていくまでの庭のスペースでは大きな葉っぱ越しに木漏れ日があたってくるとか、そういう部分でも、映画セットが得意とする空間の臨場感を出していきたいです」。
 種田さんをはじめとする美術スタッフによって組まれたセット
その言葉通り、会場に一歩足を踏み入れると、そこは床下の小人たちがくらす世界です。アリエッティの部屋、家族が集う居間、台所などの巨大なセットが広がり、気がつくと私たちはアリエッティと同じ視点で、「借りぐらし」気分を疑似体験してしまいます。それは、細部まで一切妥協のない本格的なセットだからこそ味わえるもの。「遠近法を使ったり、遠くの背景をぼかしたり、いろんな実写映画の美術手法を使っています」と、セットのあらゆる部分で種田さんの映画美術の「技」にふれられるのも貴重な体験です。また、本物に見えるようですべて職人たちの手によってつくられた空間には、「お客さんが本物のレンガだと思って、触ってみると発泡スチロールだったとか。ばれたとき“面白いね”ということへ行き着いてくれれば成功なんです」といった遊び心も満載。迷路のように入り組んだ通路を歩くだけで、たくさんの驚きと発見が待っています。
アニメーション映画と実写映画の美術が見事に融合した本展、種田さんの言葉では「美術館を訪れた人に、実在の空間に迷い込み、アトモスフィアに浸ってもらうことができる。ディテールにふれ、バーチャルな世界でなく実在する空間を楽しんでもらうことができる。スリリングな展覧会」は、71日間の期間限定です。会期中は、『借りぐらしのアリエッティ』の資料や、種田さんがこれまで美術監督した作品の資料も展示されます。なかでも、巨大な写真でよみがえる三谷幸喜監督の『THE 有頂天ホテル』のセットは必見。実写映画のセットにいるかのような気分を体感することができるでしょう。この機会に是非「映画美術の世界」の魅力を全身でご堪能ください。
こどものにわ
 大巻伸嗣 ECHOES - INFINITY; Kumamoto(部分) 2009 顔料、フェルト、蛍光灯 撮影/矢加部咲 会場・写真提供/熊本市現代美術館 参考図版
「借りぐらしのアリエッティ×種田陽平展」と同時期に開催される企画展「こどものにわ」は、赤ちゃんや小さなこどもの認識、知覚、身体能力などに焦点を当てた展覧会です。展示室の床一面に色とりどりの花が広がり、動きが光の反射と連動するような空間、身体能力の異なる大人とこどもが一緒に楽しめる作品などが「にわ」として出現し、こどもの視点や心の動きが捉えた美術の世界を、まわりの大人が共有、追体験することで、人と美術の関係や年齢の異なる他者とのコミュニケーションの可能性を探ります。
出品作家は5組の若手アーティスト、建築家で、出田郷さんは、約8000枚の鏡を約6メートル四方の床にはめ込み、その上を歩くことで万華鏡のように光が反射する新作《reflections》とアニメーション作品《lines》を発表。建築家の遠藤幹子さんは、親子がくつろげる空間をアトリウムに創出し、大巻伸嗣さんは、約250平方メートルの床一面にフェルトの花模様を描き、鑑賞者がその上を歩くことで変化する作品に時間を刻みます。KOSUGE1-16は、巨大なサッカーボードゲームや、自転車と三輪車で競争できる《サイクロドロームゲーム》などのアクティブな作品を出品し、サキサトムさんは乳幼児の視覚世界を再現するような、映像作品を公開します。
こどもを連れて現代アートを体感するのに最適な本展。展示作品だけでなく、それらに反応するこどもたちの姿は、なかなか日常生活では見られないものです。また、こどもの世界を大人が追体験することで得られる感覚も貴重なものといえるでしょう。関連プログラムには、アーティスト・トークのほか、大人とこどもが参加できるワークショップ、赤ちゃんと一緒にミニ実験を行う、MOT美術館講座などが開催されます。詳細は公式ホームページをご確認の上、お気軽にご参加ください。
 遠藤幹子 「おうえんやま」のためのプラン 2010
 サキサトム メーヤの部屋 2010 (c) サキサトム
Information |
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■借りぐらしのアリエッティ×種田陽平展 会期/7月17日(土)〜10月3日(日) 休館/月曜日(ただし7月19日、8月16日・23日・30日、9月20日は開館)、7月20日(火)、9月21日(火) 会場/企画展示室1F、3F 料金/一般・大学生1200円、中学生・高校生900円、小学生600円、小学生未満無料 主催/公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館、日本テレビ放送網、マンマユート団 企画制作協力/スタジオジブリ、三鷹の森ジブリ美術館 http://www.ntv.co.jp/karigurashi/
■こどものにわ 会期/7月24日(土)〜10月3日(日) 休室/月曜日(ただし8月16日、9月20日は開室)、9月21日(火) ※「こどものにわ」のみ、「借りぐらしのアリエッティ×種田陽平展」「MOTコレクション 入口はこちら―なにがみえる?」開催中の8月23日(月)、8月30日(月)は休室となります。 会場/企画展示室地下2F、アトリウム 料金/一般1100円、大学生・専門学校生・65歳以上800円、中学生・高校生600円、小学生以下無料
■MOTコレクション 入口はこちら―なにがみえる? 会期/7月17日(土)〜10月3日(日) 休館/月曜日(ただし7月19日、8月16日・23日・30日、9月20日は開館)、7月20日(火)、9月21日(火) 会場/常設展示室 料金/一般500円、大学生400円、高校生・65歳以上250円、中学生以下無料
<展覧会共通> 会場/東京都現代美術館 開館/10:00〜18:00(入場は17:30まで) ※「借りぐらしのアリエッティ×種田陽平展」「こどものにわ」展覧会セット券 一般・大学生1750円、中学生・高校生1200円 ※「MOTコレクション」は、企画展のチケットでご覧いただけます。 http://www.mot-art-museum.jp/
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