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2012年1月
アーティストとして生きていくにはいろいろな方法がありますが、理想的な生き方のひとつに「作品の売り上げで生計を立て、創作活動を続けること」が挙げられるでしょう。その環境づくりの第一歩は作家として自立し、作品の販売から売り上げ管理まで、セルフマネジメントできる力を身につけることです。今回は、販売ルートはどんな種類があるのか? 作品にはどうやって値段をつければいいのか? お金の管理は? について紹介します。
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作品を売る |
作品販売ルートは大きく、「作家が直接販売する」「画廊を仲介して販売する」の2つのケースが考えられます。
作家が直接販売するには、画廊などのスペースを借りて、販売場所を確保する必要があります。画廊以外でも、アートフェアやGEISAIをはじめとする販売ブースを伴うイベント、タグボートなどの各種ネット販売などが考えられます。
スペースを借りて販売する場合は、作品リスト(作品名、サイズ、値段の一覧)と、作品の「売約」「予約」を示す書面を用意します。書面には、いつ、誰が、どの作品をいくらで購入(予約)し、どのような入金方法で受渡しを行うかなどの約束を記載して購入者に渡し、コピー(控え)を自分で保存します。作品が売れたら、小さなシールを展示プレートに貼り、売約済みであることを示しましょう。
作品の引渡しと代金の支払いは、同時に行うのが最もトラブルがない方法です。郵送や宅配も考えられますが、手渡しを基本としましょう。そうでない場合は、入金のタイミングなど、あらかじめお互いに条件を確認しておきましょう。
画廊を仲介して販売する場合は、煩雑な手続きが軽減されますが、手数料を支払うことになります。企画画廊はもちろん、作家にスペースを貸す貸画廊でも、スペースの賃料のほかに、売上げに応じて手数料を徴収するシステムが一般的です。展覧会前には、仲介者と売上げの一部を手数料(マージン)として収める契約を結びます。手数料の比率は条件によって異なりますが、20〜40%の範囲が一般的なようです。仲介者との契約時には契約書をつくり、最低限、以下のことが記されているかをチェックしましょう。
チェック! □委託する作品のタイトル、素材、サイズ □販売価格と手数料 □所有権の所在(作家→購入者へ。仲介者にはない)、支払い方法や期限などの販売条件 □仲介者はリストにない作品に関しては、販売する権利はないこと □売却する前であれば、作家は作品をいつでも返却してもらえること

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値段をつける |
自分の作品には、自分で値段をつけるのが基本です。値段のつけ方には、決まりがあるわけではありません。他の同世代のアーティストの値段を参考にしたり、制作時間を時間給で計算してもよいかもしれません。作品に対する思い入れの深さや、自分ならいくらで買うのかを考えてみるのもよいでしょう。
ただし、値段をつけるときには、コスト管理を考慮に入れることが大切です。画材費、材料代は最低限と考え、それ以上の値段をつけるのが基本です。プロになると、アシスタントへの支払いや、アトリエの賃料、生活費、展覧会開催までの経費などをどう値段に反映させるか、シビアに考えるようになります。
値段の相場というのも、オークション市場に出まわる有名作家以外は、アートマーケットのアニュアルレポートなどに公式な数字が発表されることはありません。日本画の世界では、作家の知名度と作品サイズによって値段を決める慣習がありますが、日々変化する現代アートにはあまり馴染まないようです。
販売する作品の形態については、平面作品を額装する場合は、作品と額をセットで販売する方法と、額代を別に表示し、額なしで販売する方法があります。作品によっては、値段のつけにくい形態もあります。映像作品はDVDなどに加工し、インスタレーション作品はパーツと組立て指示書を添えるなど、販売するための工夫が必要です。
また、ネット販売のサイトに登録して作品を販売したり、自分のHPで販売したりする方法もあります。ネット販売に委託すると、販売上の煩雑な手続きがなく、作品の値段はサイズによって決められるケースが多く、買い手にとっては利用しやすいメリットがあります。しかし登録作家が多い場合は、なかなか人目につかないデメリットもあります。自分のHPで販売する場合はマージンなどがかからないので、売値がそのまま収入になるのが最大のメリットです。その反面、入金の確認、配送などの手間や「特定商取引に関する法律」を守るなど、販売に関する予備知識と細かい金銭管理が必要になります。
チェック! 初めて値段をつけるときは、ギャラリーや友人の作家、学校の先生などの経験者に相談してみるとよいでしょう。また、「アートフェア東京」「エマージング・ディレクターズ・アートフェア ULTRA」「ワンダーシード」など、若手作家が参加しているアートフェアに足を運んでみると、具体的な事例、相場について情報を得ることが可能です。

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確定申告と著作権 |
自分の作品が売れたときは、領収書を発行します。一般的に作品が売れた場合、購入者が個人、法人に関わらず源泉徴収はされませんので、売れた金額が収入になり、課税金額に応じた税額を納付することになります(1年間の収入から、必要経費や控除分を差し引いた金額が所得金額となり、課税の対象となります)。この手続きは毎年1回、2月15日から3月15日まで(土・日・祝日にかかる場合は変動あり)に税務署で行いますがこのように、作品の収入や創作活動の支出を申告することを確定申告と言います。アーティストの場合、アトリエの家賃や光熱費、作品の材料費、DM代などを必要経費として申告することができます。初めて申告する場合は税理士さんに相談するとよいでしょう。また、市区町村によっては申告時期に無料の相談会などもあるので、利用してみましょう。
作品の売買・管理に関しては、著作権にも注意する必要があります。とくに映像作品を販売する場合は、購入者に対して無断複製や転売等を禁止するのが一般的です。また、作品販売後も著作権は、画廊ではなく作家に帰属することを確認しましょう。ゆくゆくは、作品がオークションに出品されることもあるかもしれません。フランスやドイツなどでは、著作権法に、美術作品が転売されるたびに売上額の一部を作者が受け取れる「追及権」の規定がありますが、日本では「追及権」は認められていません。しかし作家として身を立てていくためには、ときには作家本人の権利を守り、主張することも大切です。例えば、国内のオークション会社と「転売時の落札価格の1%を受け取る」契約を結んだ村上隆氏は、版権管理のあり方に一石を投じたアーティストの一人と言えるでしょう。このように、作家はさまざまな法律と契約に基づいて、セルフマネジメントする必要があります。無料相談や専門書などを参照し、マネジメントへの理解を深めていきましょう。
チェック! Arts and Law(アーティストの為の無料法律相談NPO) 作品の売買や著作権など、法律に関する専門家が無料相談受付を行っているサイト。代表を務める作田知樹氏の著書『クリエイターのためのアートマネジメント ―常識と法律―』は、クリエイティブな活動を続けて行く上で必要な「常識と法律」の基礎知識が身につきます。 http://www.arts-law.org/
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ステップアップ |
美大生やプロのアーティストを目指すみなさんの疑問に応えます。2011年4月から毎月1回、1年間を通してアーティストとして活動するためのノウハウを、実例をまじえて紹介していきます。
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