劇団の成り立ち
日澤 もともと僕が駒沢大学時代に演劇研究部で活動していたんですが、そこで卒業を控えた僕を含む5人の間で「卒業までに、学内だけじゃなく外小屋で1回やりたいね」という話が出たのが始まりです。その第1回公演『それが、こたえのような。』が2000年で、そこから数えると、2020年で20周年を迎えました。
劇団として継続的に動き出したのは、2002年の第2回公演『ヒーロー』からのことで、岡本くんはそのときから参加しています。
西尾 僕は2008年、まだ会社勤めをしながら演劇活動をしていた頃、タカハ劇団(2005年旗揚げ)の『プール』に客演して、そこで同じく客演の岡本さんと一緒になったのが、関わりの始まりでした。日澤さんとも翌2009年にあるワークショップで出会い、そこから2年ぐらい客演して、2012年に入団しました。僕と出会ったときの印象とかは、岡本さんは何かありますか。
岡本 タカハ劇団で共演したとき、実はあまり話した記憶がないんですよ。
西尾 岡本さんは最初はなかなか話してくれませんでした。
岡本 ええ、人見知りで(笑)。
日澤 西尾くんは、なかなか劇団員になってくれなかったね。
西尾 やっぱり劇団の名前がね、ちょっと大丈夫かなって(笑)。
日澤 作風に合わない劇団名だとよく言われています。
岡本 もともと、深く考えてつけられたものじゃないんですよね。
日澤 第1回公演の打ち合わせを喫茶店でしていたとき、そこのメニューの「本日のおすすめ:チョコレートケーキ」というくだりが目に入って、スッと決めました。当初はコメディタッチの作品が中心でしたので、そこまで違和感なくこれていたんですが、2009年頃を境に現在のスタイルになってきてからはもうさんざん「チョコレートケーキはないよねー」と言われつつ、自分たちでも思いつつ、でした。でも2000年からずっとこの名前でやってきて、覚えていただけたし、いいんじゃないかなと。今は意味を聞かれたときは「チョコレートケーキを嫌いな人はいないから」ということにしています。名前って大切だよね(笑)。
台本なしでの外部オファー
日澤 劇団公演は、古川の本、僕の演出、浅井、岡本、西尾の3人のメイン俳優がいてというところからの勝負で、そこをどう活かしていくかというところから始めます。
客演で呼ぶ外部の俳優さんは、劇団会議で「一緒にやりたい人は誰か」「いま素敵な俳優は誰か」というところから話して決めていきます。
岡本 僕から提案するのは、以前共演したり、公演を客として観に行ったりしていいと思った人が中心です。
西尾 僕もそういうパターンがほとんどです。
日澤 判断基準は、僕や古川、そして岡本や西尾ら俳優たちが、以前その人に相対したときの肌触りの記憶が頼りで、「この人にやってもらったらいろいろ素敵なんじゃないか」といった感じで進めていきます。呼ぶ時点で台本はできていないので、「この作品のこの役をお願いします」ではなく、「こういう作品をやります。ここにあなたの個性が欲しいんです」という依頼になります。
西尾 客演オファー時にまだ配役を決めていないというのは特殊ですよね。よく受けてくれるなと思います。
日澤 きっと岡本くんや西尾くんが外の現場で、ちゃんと仕事してきてくれてるから来てくれるんだろうなと思っています。
そして外部へのオファーも決まり、みんなで集まって本の読み合わせを重ねて行って、その本読みの状況で、ようやく僕が中心になってキャスティングを決めていきます。
岡本 役の割り振りを日澤くんから受けた時に「ちょっと違うんじゃないかな」とか「他の役がよかったな」みたいなことは往々にしてあります(笑)。自分の役がどうこうというより、全体的なバランスを含めてですけれども。
西尾 結構毎回そうですね。意外なことになっている。
岡本 でもこっちが予測した通りの配役にならないことが、いい意味で意外性を生むということも多いです。
日澤 こういう決め方って他ではあまり聞いたことがないよね。
岡本 よそだったら、役を決めてから本読みするのが普通です。
西尾 それに台本も仕上がった状態で来ますしね。うちはかなり特殊な形態だと思います。
第25回公演『追憶のアリラン』 Photo:池村隆司
外部と内部での違い
日澤 西尾くんや岡本くんは、外部で仕事するときと劇団公演のときで、何か違ったりしますか。
岡本 「一つのものを一緒につくり上げていくという点ではどこでも同じだけど、他では演出家が日澤じゃない」っていう感覚ですね。
西尾 確かにそれは僕もあるな。
岡本 劇団だからこう、外部だからどうというのはないけれども、やっぱり芝居は演出家ありきだから、当然変わりますよね。日澤くんがよしとすることも外部ではダメだったりすることもあるし、その逆もあるし。ひとりの役者として、そこをいかに柔軟に対処するかってことなんでしょうね。
日澤 台本に関してはどうですか。古川くんの本と外部の本って、けっこう違うと思うけど。
西尾 外部の本は、やっぱり、セリフが喋りやすくて、人間関係がわかりやすい(笑)。でも自分の劇団では、キャスティングや企画の段階から関わっているから、そこが違いますよね。外部ではそれら全部お膳立てしてもらった状態で臨むので、対演出家という形のつくり方になる。
岡本 それは本当にそうですね。
日澤 なるほど。そういえば劇団公演だと、岡本くんがけっこう僕に反抗してくるんだけど。「その態度で外部でもやっているの」って聞いたら「やってない」って言うし(笑)。
岡本 それは劇団ではただの俳優としてではなく、劇団員という立場から意見するんであって。外部では演出家には「ハイ」しか言いません(笑)。
西尾 僕も外部では同じです。元気に「ハイ!」「ハイ!」(笑)。
日澤 まあそうかもね。僕も劇団で客演さんに話す話し方と、劇団で劇団員に話す話し方と、外部で演出として出たとき俳優さんに話す話し方はそれぞれ言葉の選び方が違うから。
岡本 もちろん外部に出ていても言いたいことは言った方がいいときもあるし、それは状況によりけりです。
日澤 じゃあ、他の演出家ともたくさん仕事をしてきたなかで、僕の演出の特徴とか、面白いところがあったら教えてください。
岡本 やはり日澤くん自身俳優出身なので、俳優からの視線を大事にする演出家だという点は大きいでしょうね。初めから「舞台のここに立って、このセリフをこう言う」とがっちり具体的につけていくというよりは、まず俳優の個性や姿勢を尊重するところから始める点が大きな特徴だと思います。
西尾 俳優同士の関係性を凄く大事にしますよね。これが他の劇団だと、セリフのニュアンスとか立ち位置とかでサクサク演出していく人が結構多いので、それは日澤さんの特徴かなって思います。
岡本 演出の進め方として効率的ではないのかもしれない。
西尾 そうですね。特に暗礁に乗り上げたときは(笑)。
岡本 そういうこともありますね(笑)。でもその手間が最終的には何かにつながるんじゃないかと。
日澤 僕も外部でやるときは、効率を求められたりしますね。俳優さんたちから「お前は演出としてこれをどうしたいのか、もっと具体的に言ってくればすぐできるのに」みたいなことは言われちゃいます。
第21回公演新作2本立て『熱狂』
第21回公演新作2本立て『あの記憶の記録』
空間を意識した舞台づくり
日澤 次の公演『帰還不能点』(2021年2月)の会場は、2年ぶりの芸劇(東京芸術劇場 シアターイースト)です。初めて出たのは2015年の第25回公演『追憶のアリラン』でした。これは劇団としては一つのステップアップというか、それまでと比べて格段にの大きな劇場で、決まったときは嬉しかったですね。
岡本 それまでは収容人数100名に満たないところでの公演も多かったですからね。
日澤 嬉しかったのと同時に、キャパの多さ(324名)にビビって、けっこう客席を削った記憶もあります(笑)。前2、3列はつぶしたんじゃなかったかな。
岡本 劇場の大きさによって演出の仕方を変えることってありますか。
日澤 たとえば2012年の『熱狂』『あの記憶の記録』を初演したギャラリー・ルデコは、収容人数マックス60名で、2013年に再演したサンモールスタジオ(収容人数約110名)、2017年に再再演した芸劇のシアターウエスト(270名)と、どんどん出世魚的に会場規模が大きくなっていったということがありましたけど、基本的にはキャパの大小で変えているという意識はなかったつもりです。でも、演じる方からすると違うのかもしれない。西尾くんどうですか。
西尾 小さな箱ですぐ近くにお客さんがいるのと、大きなところでお客さんが遠くの方にいるのとは、やっぱり意識の仕方が変わってきます。同じ作品でも違うことに挑戦していく感じです。
岡本 僕もそうですね。演出を受ける身としては、会場の大きさは結構大きいです。
日澤 確かにそうかもしれない。演出家としては本質的にやること自体は変わらないつもりなんだけど、空間を意識したものづくりはしていると思います。
西尾 昔は日澤さんのつくる舞台は、囲みで多角的に見せるものが多かったですもんね。
岡本 一時期までは多面舞台をちょっと売りにしていたようなところも劇団としてはありましたよね。小さい空間で多方面から見てもらうことによって空間を共感してもらうというか、覗き見しているような感覚というか、そういうものを大事にしたいということで。
日澤 客席と舞台を分けたくないという思いはありました。ただ、劇場の機構が上手く使い切れない時の苦肉の策だったりしたことも往々にしてあった。そして規模の大きな劇場になっていくと、囲み舞台をつくることの方が大変になってきて、最近はあまりやっていませんでした。でも次の公演では、久々に囲み舞台にしてもいいかなとはちょっと考えています。
後編に続く
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