2020年は2カ月という短い準備期間にもかかわらず、メンバーがそれぞれの知り合いに声をかけ、12組の参加がありました。アーティストを生業にする人、本業とは別に創作活動を行う人、初めてアートイベントに参加する人など、地元に縁のある多様な参加者が集まりました。2021年の第2回目は、春先からオンライン説明会を重ね、参加者は30組に増えました。
本所・深川地区は、江戸時代の土地開発で湿地帯だった土地の埋め立てや干拓とともに運河が区画され、市街地となった場所。そして、避けて語れないのは2つの大きな災害です。
戦争体験をもとにしたプロジェクト「RUN to Survive」では、1945年の東京大空襲のときに小学生だった深川出身の上原淳子さんが火の海のなか逃げた道のりを走るイベントと、上原さんのトークを開催しました。企画したチーム・TreckTreckのメンバーでもある伊藤さんは、「過去を振り返るときに、災害時の体験談をきくことも大事ですが、以前までどのような生活をしてその後どのように災害を克服し、生き残ってきたかという、前後も含めた人生そのものを伝えたいと思い、企画しました」と話します。
また、「記憶」というテーマはこの地域だけにとどまりません。池田さんと後藤さんのスタジオ・gift_labでは、長崎の記憶に着目し、1996年から続く「時の蘇生・柿の木プロジェクト」を紹介。ワークショップやトークイベントを行いました。このプロジェクトは、現代美術家・宮島達男さんが、長崎で被爆した柿の木の2世を植樹し育てることを通して「戦争の愚かさ・平和の意味・生命の大切さ」などを伝えるものです。
「原爆や震災などを対岸の火事とするのではなく、遠い地域の記憶をあえてここに持ってくることで、違う形で記憶を共有できたらと思っています。10年以上清澄白河に住んでいる広島出身の方が、この展示を見て、地元・広島の陰惨な歴史をどのように伝えていけばいいかわからなかったが、こういう柔らかい伝え方もあるのですね、と感想をいただいたのが印象的です」と池田さん。
また、後藤さんは「私たち自身は、この地域の出身ではないですが、よそものだからこそ客体化できる良い側面もあると思います。そして、『本と川と街』は、新しいことをやるというよりすでにあることを引き出すお手伝い。それを継続した先に何かみえるかが大事だと考えています」と語ります。
まだスタートしたばかりの「本と川と街」。現在はクラウドファンディングと、パスポートブックの販売で運営しています。イワタさんは今後に向けた展望を話します。
「こういうのをやりたい、あれはどうか、と企画はどんどん集まってくるんです。でも、こんなおもしろいことをパッとやってもいいのだろうか、と思う企画もあって。だから、もう少しリサーチする時間を確保し、深掘りする仕組みを作っていく必要があるのかな、と考えています」。
本所・深川は、江戸三大祭の一つである深川八幡祭りをはじめ、祭りが盛んな地域。そうした土地柄か、手弁当で自主企画を行う文化も根付いています。住む人の地域への思いも強いだけに、こうしたアートプロジェクトがスムーズに受け入れられているのでしょう。住む、働く、企画する、運営する、楽しむなど、一人が何役にもなって関われる、アートプロジェクト。街のクリエイティビティを引き出しながら、記憶を未来につないでいきます。