──本には「白鳥流 会話型美術鑑賞のすすめ」として12個のポイントも紹介されています。たとえば「好きな作品を観る」とありますよね。
白鳥:一つの作品を観るのに時間がかかるから、展示されている全部の作品は見られないよね。だから、好きな作品や気になる作品を選んで観ていく。
佐藤:一つに15〜20分かかるから、一回の鑑賞会で鑑賞できるのは多くて3〜4点くらいかもしれません。そこにいろいろな人の体験が言葉で混ざると、抽象的な表現ですが、作品が立体的になるんです。全部の作品を見ても、結局何を見たかよく覚えていない、というよりはその方が豊かだなと思います。
──「後からジワジワくる」というのもいいですね。鑑賞時にピンとこなくても気にしないというコツです。
白鳥:そうね、答えを急がない。作品を楽しめるか、深められるかどうかは、一つの側面にしか過ぎないもの。
──作品を観ているときって、何かを感じなきゃというプレッシャーがあったりします。でもそこじゃない。何を目的にするか、ということですね。
白鳥:俺の場合は、美術館での体験自体が大事だからかな。
──ちなみに佐藤さんは、白鳥さん以外の人と美術館に行くときもしゃべるんですか。
佐藤:しゃべるときはしゃべります。「しゃべりながら観る」ことが通常な体になってきてしまって。
──「しゃべりながら観る」の方法だと、たとえば図録を広げてあれこれ話しながら、というのも成立しますよね。でもやはり美術館での鑑賞とは違いますか。
白鳥:似たようなことはできるけれど、俺が求めているのは体験なんですよね、きっと。だからたとえば彫刻に触れるとしても、触っただけでは鑑賞にならないわけです。触って、それが特別な体験になるためには何かが加わらないといけない。最近は野外彫刻が好きなんですけれど、その場所に詳しい人と一緒に行くと「この作品は遠くから見るとこんなふうに見える」「光が当たると見え方がこんなふうに変わる」とか、その人の体験にもとづいた話が聞けるんですよね。そういったときに、「ああ、いい体験ができたな」って思うんです。
佐藤:美術館に行くまでの道、周りの環境、一緒にいる人の話し方のトーンとか、さっきの蕎麦屋やブローチの話みたいに作品に関係ないことも含めて楽しみたい、ということだよね。
白鳥:それで知り合いが増えるとその人に会うために行く、ということにもなってくるんです。
──本のなかで白鳥さんは「美術が好き」ではなくて「美術館が好き」と書かれているのですが、体験を重視されているということですね。
白鳥:俺は美術には関心がないんですよね。「アートの力」とかってよく聞くけど、そういう言い回しが自分には合わないなあと。
佐藤:私は美術館も美術も好きですよ。美術って同じものを見ていても、違う反応が出る。それぞれのバックグラウンドによって見方が変わる。でもそれが対立につながるわけではなくて、「そう見えるんだね」と話すことができるところが面白いですよね。
──この本をどんな人に読んでほしいでしょうか。
佐藤:美術館は自分とは関係ないとか、情報や知識がないから面白くないと思っている人でも、言葉にしてみると、案外作品を観るのが楽しくなったりします。以前、親子でしゃべりながら観る鑑賞会に参加されたお母さんが、自分の子だけれど普段とは違う話や知らない話ができたと言っていました。作品を介して、一緒にいる相手の違う側面を観るきっかけにもなるんですよね。
白鳥:自分は誰に読んでほしいとか、そういうのがまったくないんだよね。
佐藤:最初の打ち合わせでも「自分たちもぜんぜんスタイルないから、本になんてなるのかな」と言っていたよね。でも、話しているうちに責任編集の森司さん(アーツカウンシル東京)に「それがスタイルなんだよ」って言われて。
白鳥:そうそう。以前、マイティと水戸芸でプログラムをつくっていたときも、マニュアル化したくないって言っていたよね。その時々でスタイルはどんどん変わっていくものだし、自分たちも変わっていきたいから。
──この本を読んで、自分なりのスタイルに変えることで、さらに新しい美術館の楽しみ方が生まれるかもしれませんね。