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「for ALL(すべての人に)」を考え続けるためのサービス

THEATRE for ALL

SDGs × アート

No.002

2021年2月、コロナ禍という厳しい状況が続く中、新たな劇場「THEATRE for ALL」(以下、TfA)が誕生しました。その舞台は、駅近でも、ショッピングモールに併設されているわけでもありません。どこからでもアクセスしやすい場所、そう、インターネットの中にあります。だれでも、いつでも、どこからでも、作品を楽しむことができる「アクセシビリティ」を念頭に置いてつくられたオンライン劇場、TfAの取り組みを紹介します。


アクセシビリティに特化したオンラインシアター

パフォーミングアーツ・映画・メディア芸術・ドキュメンタリーなどの作品を、映像で視聴可能なオンライン劇場、TfA。そこでは、リアルな劇場で行った公演の映像記録や映画など、既存の作品に字幕や音声ガイドなどを付加したものや、配信を前提に、制作段階からアクセシビリティを意識し新たに生み出された作品など、さまざまなコンテンツを楽しむことができます。作品毎に、いくつかのアクセシビリティが用意されており、選んで視聴することができます。中にはアクセシビリティを念頭に置いて制作した結果、ほかに類を見ないような、ユニークな作品に仕上がっているものも。

TfAの使い方。無料会員登録のみで楽しめるコンテンツも豊富にあり、さらに月額会員などになることで見られるコンテンツが増えるほか、作品毎に個別でチケットを購入することも可能
視聴可能なコンテンツの一覧。各コンテンツに、「多言語対応」「字幕」「手話」「音声ガイド」など、アクセシビリティを示すタグが付く
アクセシビリティの付加の仕方がユニークな、異言語Lab.による「没入型映像 イマージュ」のワンシーン。登場人物の手話に、モーショングラフィックスが重なる。映像上部に表示された複数のタブからセレクトすることで、異なるバージョンを観ることができる
異言語Lab.『イマージュ』より

TfAの統括ディレクターである金森香さんは、その運営会社である株式会社precogで執行役員を務める人物でもあります。precogは、国内外さまざまなイベントの企画・運営を行うパフォーミングアーツの制作会社。コロナ禍以前から、障害・性・世代・言語・国籍など、垣根を超えた企画の制作や事務局の運営を手がけていたといいます。

「ちょうど、ダイバーシティをテーマに掲げた芸術祭・日本財団が主催する「超ダイバーシティ芸術祭 - True Colors Festival」をprecogがフェスティバル運営事務局として担当していた矢先に、コロナ禍による制限を余儀なくされました。多くの団体がそうであったように、オンラインでの試みを早急に始める必要が出てきたわけですが、そこで、私たち独自の観点として掲げたのが、オンラインにおけるアクセシビリティでした」と金森さん。

「劇場に足を運ぶことを考えた時に、ハードルとなる要因はたくさんあります。物理的な場を持たないオンラインの劇場は、移動や距離といったバリアをなくしてくれるのはもちろんのこと、映像配信なら、夜中にお菓子を食べながら寝転んで観ることだってできる。一時停止やリピートも可能です。オンラインシアターという在り方は、身体障害や知的障害がある人や、育児や介護、距離など地理的な要因も含めて思うように時間が取れない人などにとっても、アクセシビリティの向上になり得ると思います。反面、『for ALL(すべての人に)』で開かれたものにすることの難しさもあります。常に、色々な人と議論を重ねながら、このシアターをより『for ALL(すべての人に)』なものにする道を探っています」。

お話をきいた統括ディレクターの金森香さん

「for ALL(すべての人へ)」の模索の場としてのTfA

作品本編とは別に、有識者(作家や専門家など)による作品解説動画が、「ラーニング」コンテンツとして用意されているのも、TfAの大きな特徴といえます。「どう見ればいいの?」と、見方にハードルを感じている人も多いのが芸術作品です。作品の背景を紹介するこれらのコンテンツは、思考面でのアクセシビリティを向上させるものといえるでしょう。2021年11月時点で、TfAで配信されている全77コンテンツのうち、約3割にあたる26本がラーニングコンテンツです(https://theatreforall.net/news/news-2717/)。

ラーニング動画、【2つのQ】毛利悠子「I/O」のワンシーン。作品の背景について、関係者が気さくに対話する様子が、作品を見ることへのハードルを下げる
【2つのQ】毛利悠子『I/O』より

さらに、TfAの取り組みは映像コンテンツの配信にとどまりません。トップページにはいくつかの入り口が設けられ、「見る」「学ぶ」からは映像コンテンツへ、「参加する」からはワークショップへ、「読む」からは、アクセシビリティや多様性についてより理解を深めたり、考えたりするためのヒントになるような記事を読むことができます。「つながる」では、アートと多様な人々を結ぶ活動や、身体や言語、環境などが異なる人同士のコミュニケーションについて考え、議論していくための場づくりを行なっています。

「読む」に進むと、障害やアクセシビリティ、多様性について、理解を深めるヒントになる記事がずらりと並ぶ

なお、TfAにおけるアクセシビリティへの意識は、サイト全体の構造やデザインにも向けられています。企画の立ち上げ段階から、専門家をメンバーに加え、音声読み上げをした場合にもわかりやすい情報の配置や、知的障害のある人にとって負担の少ない配色などにも配慮しているといいます。そのお話をお聞きしてから、改めてTfAを開くと、それまで何気なく見ていた文字や色が、少し違って見えるような気がしました。

アクセシビリティが充実することで、何らかの理由で劇場で芸術作品を楽しむことが難しいと感じている人にとってはもちろんのこと、そうでない人にも、さらなる気づきをもたらす可能性があります。芸術作品の楽しみ方をより豊かにするためのヒントを、TfAはさまざまな方法で与えてくれます。

Text: 坂本のどか

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