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『雨あがり』Yukariさんに聞く

フリーペーパーの世界

No.003
『雨あがり』。2018年7月に創刊して以来、年に2回の発行ペースで、第10号まで発刊されている(2023年6月現在)

フリーペーパーの世界を探るシリーズ。「CHANGE」「PASSION」に続き、3回目のテーマは「DIVERSITY」。今回お話を伺ったのは2018年に『雨あがり』を立ち上げたYukariさん。「多様な性を通して、さまざまな生き方について知ることができるフリーマガジン」として、創刊以来、年に2回のペースで発行。「夢」「結婚」「透明」「告白」など毎号のテーマに沿った、丁寧なインタビューを積み上げています。


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2023.07.18

ほぼ1人でつくるフリーペーパー

──『雨あがり』を立ち上げられたのが2018年7月ですね。なぜフリーペーパーを創刊されたのでしょうか。

以前、ワーキングホリデーでカナダに行ったとき、そこで出会ったXジェンダーの友人がフリーペーパーをつくっていたのです。私もLGBTQの当事者で写真の大学を出ていることもあって、日本に帰ったら一緒にフリーペーパーをつくろう、という話になりました。

──2人で立ち上げたんですね。

それが、友人が帰国後に体調を崩してしまい、私1人でつくることになりました。資金集めのためにクラウドファンディングもスタートしていたので、後には引けない、という感じで。私も当事者ですがLGBTQのコミュニティに属しておらず、知り合いもほとんどいなかった。LGBTQという言葉は知っているし私もLだけれど、「LGBTQってどんな人たちなんだろう」という疑問もあり、もっといろいろな人の話を聞いてみたいなと。文章も好きでインタビューにも興味があったので、今続けられています。

──そうすると企画から取材、原稿執筆、レイアウトまで1人で手がけられているんですか。

レイアウトを手伝ってくれる人が2人いますが、ほとんど1人ですね(笑)。1人なので、毎号のテーマも自分の興味から設定していますが、アイデアがないときは周りの人に「知りたいテーマはある?」と聞くこともあります。初期の頃はインタビューを承諾してくれる人も少なかったので、インタビューする人が決まったあとでテーマを決めることもありました。

『雨あがり』編集長のYukariさん

──現在は発行部数3,000部だそうですね。『雨あがり』が知られて、雑誌を中心にした新しいコミュニティも生まれているのではないでしょうか。

そうですね。不定期ですが、イベントもやっています。例えば小説の広告を出してもらっているのですが、作家との交流会を開いて小説好きの人を集めたり、「地方と都会」をテーマにしたLGBTQオンラインイベントでは場所による大変さや住みやすさを話したり。コロナ禍の前は対面で集まることもありました。

──そうやって情報やコミュニケーションのハブになっていくのが、雑誌をつくり続ける醍醐味でもありますね。読者からの反応で印象的なものはありますか。

当事者の方から「こんな生き方もできるんだ」という話をいただいたことがうれしかったです。それから、80代以上の方から「こういう人たちがいることを知り、勉強になりました」と声をかけていただいたこともありました。インターネットを使いこなせる人はSNSでつながることができたり、情報を得る機会も多かったりしますが、そうではないと情報にたどりつけない。紙だからこそ届いたのだな、とフリーペーパーをやってよかったと思いました。

──インタビューのなかで専門的な言葉も出てきますが、誰にでもわかるように開かれた雰囲気を感じました。文字も大きめで読みやすかったです。

幅広い層を意識していて、誰でも手に取りやすいよう、表紙もあえてLGBTQっぽくない写真やデザインにしています。生きづらいと考えている人が少しでも救われてほしい、多くの人に届いてほしいという思いがあります。

『雨あがり』4号の表紙写真。毎号の表紙写真はすべてYukariさんが撮影している
最新刊である第10号(2023年3月発行)のテーマは「働く」。3組のインタビューを通して、就職活動や多様な働き方を紹介するほか、コクヨ株式会社とコラボレーションした記事も掲載。コクヨのワークショップで出会ったメンバーも編集に参加した

いつか、雨があがった空を

──10号までほとんど1人で続けるのは簡単なことではないと思いますが、続ける秘訣はありますか。気になる制作費のことも教えてください。

たぶん「知りたい」という気持ちが大きいのだと思います。「LGBTQ」とひとくちにいっても、一人ひとり生き方も考えもまったく違います。だから、インタビューのたびに新しい出会いや発見があって楽しいんですよね。それから社会的にもまだまだ生きづらさがあるので、そういったものが少しでも解消されてほしい、という気持ちで続けています。制作費はほとんど広告でまかなっていて、印刷費や発送費に充てています。

──これまで媒体を通して出会った方のなかで印象に残った言葉などありますか。

まだ『雨あがり』を始める前のことなので記事にはしていないんですけれども、あるゲイの方に会って話を聞いたときに、「親が厳しいので絶対に周囲にはカミングアウトしない。自分のセクシュアリティは墓場まで持っていく」と言っていて。隠し続ける自分は、「透明」な存在なんだと。その言葉がとても衝撃的でした。私自身は周りに理解ある人たちが多かったのか「女性が好き」といっても「へえ、そうなんだね」という感じであまり自分のセクシュアリティについて悩んでこなかったので。だからこそ、心にグサッと刺さった言葉でした。

──創刊されてから5年が経ち、LGBT法案(LGBT理解増進法案)も可決されるなど(2023年6月16日可決)、ここ最近の社会の変化をどのように見られていますか。

もちろん少しずつ社会は変化していますが、当事者としては、あまり状況は変わっていないと感じています。たとえば、私は最近同居するパートナーと家を購入しましたが、パートナーシップ制度は全く効力がありませんでした。同性同士だと住宅ローンを組むことも一苦労でした。

都内ではONLY FREE PAPER(目黒区)、loneliness books(新宿区)ほか各所にて配布中。
https://zine.ogrykr.com/%E9%85%8D%E5%B8%83%E5%A0%B4%E6%89%80/
公式サイトでも全号読むことができる

──まだ法律や制度が追いついていないのですね。

でも自分たちの人生は進んでいくので待っていられません。以前は結婚願望がなかったのですが、長くパートナーと一緒に暮らしていると家を買う話になりましたし、今後子供のことを考えるかもしれないし、歳をとったら健康の問題も出てくるでしょう。多くの人にとって簡単に進むことがなかなか進まず、そのぶん時間も労力もお金もかかるのですよね。

──一方で、10号ではコクヨ株式会社と協力して記事をつくられていましたが、企業単位、自治体単位でダイバーシティに取り組むところも出てきています。

個人でできることの限界はありますので、そうした動きはうれしいです。今は変化の途上だと思いますが、だんだんとセクシュアリティについての話題も「よくあること」になるといいなと思っています。

──『雨あがり』のインタビューの中で、「いつか血液型を話すような感覚で、性的指向なんてなんでもないことになるといい」とおっしゃっていた方がいました。まさにそういうイメージですね。今後の展開は何か考えられていますか。

まずは続けていくことが大前提ですが、10号のように企業とコラボレーションするなど、雑誌に関わる人を増やしたいなと思っています。新しいコーナーをつくるなど新鮮な企画も取り入れていきたいです。
ゆくゆくは「LGBTQ」という言葉自体がなくなること、そして『雨あがり』で取り上げている内容なんて「みんな知っているよ」という世界になるのが理想です。

写真館で撮影の仕事をしているYukariさん

■『雨あがり』雨あがり編集部発行
・創刊年:2018年7月
・年2回(不定期)発行
・本文頁数:13頁
・判型:297×210mm
・発行部数:3,000部
・URL:https://zine.ogrykr.com/
・配布場所:全国の本屋、カフェ、文化施設、コミュニティスペースほか

DIVERSITY2
多様な生き方を知ることで、新たな出会いや発見がある2冊を紹介。

■『DIVERSITY IN THE ARTS PAPER』 日本財団DIVERSITY IN THE ARTS発行

障害と芸術文化の支援活動の一環で立ち上がった「日本財団DIVERSITY IN THE ARTS」プロジェクトによるタブロイド誌。ウェブメディア「DIVERSITY IN THE ARTS TODAY」と連動し、障害のある人たちによるアート、周辺の文化を伝えることを軸に、幅広く情報発信を行っている。
・創刊年:2017年6月
・年2回(不定期)発行
・本文頁数:23頁
・判型:タブロイド版
・発行部数:15,000部
・URL:https://www.diversity-in-the-arts.jp/projects/paper-diversity-in-the-arts-paper-2

■『NT(Nisseki Tokyo)』 日本赤十字社東京都支部発行

日本赤十字社東京都支部の広報誌として、「読者の心からやさしさや思いやりを引き出す広報誌」をコンセプトに、都内にある赤十字施設(支部、病産院、血液センター、福祉施設)の情報を総合的に発信することを目的に創刊。これまで日赤の国際活動のほか、災害、防災、認知症、SDGs、献血、見えない・聞こえない世界を知るなど幅広いテーマで発信している。
・創刊年:2014年4月
・年4回発行
・本文頁数:32頁
・判型:AB版
・発行部数:75,000部
・URL:https://www.jrc.or.jp/chapter/tokyo/public/

※各データは2023年6月現在。

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