樫山 本当にねえ、いつの間にか70年も経ってしまったんだなあって。私が入ってからは57年ですね。一番活動していた頃を体験しているので、感慨深いです。
宇野重吉先生ご存命中には「劇団一代論」(1971年に宇野が提唱した「劇団は創立者一代限りのものである」という理論)という、びっくりするような言葉もありましたし、宇野先生、滝沢先生がお亡くなりになった後などは、どうやって続いていくのかなと思った頃もあり、本当にいろいろなことがありました。今でもやっぱり創立者の先生方が築かれたものは、すごく私の中で栄養になっています。
宇野先生の功績の一つに、アントン・チェーホフ(1869~1904)作品の舞台化があります。1950年の劇団旗揚げ公演『かもめ』にはじまり、1969年の『かもめ』再演、1972年『三人姉妹』、1974年『桜の園』と上演されましたが、私は1969年の『かもめ』と1972年の『三人姉妹』に出演することができました。宇野先生がチェーホフ作品に挑んでおられた一つのピークの時代を共に過ごせたことは、特に貴重な経験でした。当時の綺羅星のごとく素晴らしい先輩がたとも稽古ができて、そこで本当の意味での演劇の醍醐味を味わいましたので、その後も「演劇こそが私の聖地」と思って続けてくることができたんです。
その頃の大先輩はお亡くなりになる方も増えてきましたが、劇団としてはまだまだ、時代に即した柔軟な作品を選べているんじゃないかと思っています。