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劇団チョコレートケーキ〈後編〉

いまこそ語ろう、演劇のこと

No.004
次回公演『帰還不能点』チラシ

コロナ禍で混乱が続く演劇界。従来の観劇スタイルの復活がいまだ難しい状況下、劇団チョコレートケーキでも、劇場配信、アクターカメラの導入など、舞台を観客に届けるための模索が続けられている。本編では、2月の次回公演『帰還不能点』について、前編に続き、Zoom によるオンライン鼎談でさまざまな想いが語られる。


日澤雄介(主宰/演出家/俳優)
西尾友樹(俳優)
岡本篤(俳優)

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2021.01.27

劇団チョコレートケーキ[げきだんチョコレートケーキ]

2000年結成。コメディを中心に発表していたが、2009年より古川健が脚本を、2010年より日澤雄介が演出を担当して以降、現在のスタイルを確立。あさま山荘事件、大逆事件、ナチスなど歴史的な事象をモチーフにした作品をつくり続けている。2014年、大正天皇の一代記を描いた『治天ノ君』で、第21回読売演劇大賞選考委員特別賞を、2015年、劇団としての実績が評価され第49回紀伊國屋演劇賞団体賞を受賞。現在、日澤雄介(演出/俳優)を代表に、古川健(劇作家/俳優)、岡本篤(俳優)、浅井伸治(俳優)、西尾友樹(俳優)、菅野佐知子(制作/俳優)の6名が所属している。


次回公演『帰還不能点』チラシ
公演『無畏』より。左より近藤フク、原口健太郎、今里真、青木柳葉魚
左より林竜三、西尾友樹
左より林竜三、岡本篤
Photo:池村隆司(3点とも)

歴史的な題材を手がけること

日澤 次回の劇団公演『帰還不能点』は、戦時中に実在した「総力戦研究所」という、国家総力戦のシミュレーション機関の職員たちが戦後に集まり、当時を振り返りながら酒を飲み交わすうちに……、というあらすじです。
松岡洋右と近衛文麿という、文官であり、戦後は戦争犯罪人となった二人の男を主軸に据えつつ、日本がどこから後戻りができなくなっていったのかを、誰かが松岡を演じたり、誰かが近衛を演じたりという劇中劇で再現しながら、過去と現実を往還する構造になるはずです。うちはこれまで劇中劇はあまりやってきていないので、面白いものになりそうです。

西尾 今は台本待ちの状態ですが、おそらく、出ハケ(舞台に出る、または退場する段取り)がこんがらがったり、今誰が近衛で誰が松岡なんだろう、みたいなことが発生するのかなと予想しています。古川さんの本はいつも、回想の中にさらに回想があったりと複雑なので、今回はそれがどこまでいくのか、できてくるのが不安かつ楽しみです。

日澤 古川くんの書く本は、構造が複雑ということに加えて、歴史解釈のセンシティブなテーマが多いと言われることが多いですが、俳優の間で内容をめぐってぶつかるようなことは、これまであまりなかったですね。もちろん個々人で思うところはあるだろうけど。

岡本 ゼロといったら嘘になりますけど、座組みの方向が一致さえすれば、細かいところは話し合ってっていう感じですね。骨太な本が多いからか、劇団員が内容の解釈で殴り合っているようなイメージを持たれることもあるみたいですが(笑)。

西尾 真逆ですよね。

岡本 楽しくやっています。

日澤 稽古場を見学した方から「えっ、こんなに和やかなんだ」みたいなことは、よく言われますね。

岡本 深刻なテーマを、あまり深刻になりすぎないように見せていこうっていう姿勢はあると思います。

『帰還不能点』稽古場写真

コロナ対策の試みから生まれた「アクターカメラ」

日澤 2020年4月の緊急事態宣言以降、うちでもなんとか安心して舞台を観ていただけるための対策を考え、 7月、コロナ禍後初の劇団公演(第32回)となった『無畏(むい)』では映像配信を行いました。そして通常の上演の配信に加えて「アクターカメラ」も導入しました。キャストの1人である西尾くんの側頭部にボディカメラを固定して、上演しながら撮影してもらったんです。そして客席から5台のカメラで撮影した「スタンダード版」と、このアクターカメラの映像を盛り込んだ「アクターカメラ版」の2パターンの映像を配信しました。

配信は、スタンダード版はもちろん、アクターカメラ版も登場人物の目線で作品を楽しむカスタム映像として好評をいただき、視聴数的にもありがたかったです。

次の『帰還不能点』でも、同様の形の配信をお届けしていく予定ですが、前回を振り返ると反省点も多かった。西尾くんには撮影のために、何回も同じシーンをやってもらってしまいましたしね。

西尾 最後のほうは、カメラもぐらぐらになっちゃって。アクターカメラ版の映像を確認して感じたのは、もっと登場人物の1人の視線として見られるのかと思いきや、意外に画角が広くて、客観的なんだなということでした。それと、これは僕だけでなく、一緒に演じている相手もやりづらかっただろうなと。

日澤 でも新鮮な映像ではあったよね。アクターカメラ版の前にスタンダード版を見ておいていただけると、「あ、このシーンはこういう全体像なのか、その中で俳優さんがこっちを向いてるんだな」ということがわかりやすいので、より面白いと思います。

岡本 作品の性質上、なかなか突飛なことができにくいんですが、コロナ禍の中、できうる限りのことをということで、たどり着いた一つがアクターカメラでした。結果、地方の人にもたくさん見ていただけて、非常に大きかったなあと思います。『帰還不能点』では、アクターカメラは誰につけるか決まっているんですか。

日澤 まだだけど、つけるなら全体的に出番が多くて、頭から最後まで出てる人になるでしょうね。けっこうゴツいカメラがここ(右側頭部)について、それを固定するためにヘッドギアでぐるぐる巻きにして、撮影しつつ演技もするという、俳優さんには肉体的にも精神的にもストレスを強いる作業。なので、やってもらうなら外部の人ではなく劇団員でしょうね。

岡本 みんなでつければいいんじゃないかな(笑)。

日澤 お客さんからも「1人だけじゃなく他の人の視線も見たい」という要望をいただいてはいるんだけど、たとえばキャストが10人としてその全員につけたら、側頭部にカメラをつけた人がそこらじゅうにいる画面になっちゃう。そういうカメラが常にみんなの頭についている近未来とか、整合性が取れる世界観の設定のときはいいと思うんだけどね。

岡本 なるほど。カメラがもっと目立たないものになるまでは難しそうですね。

日澤 かといって、交代で全員につけてもらって10回撮ればいいのかというと、それはそれで色々な人の視点が増えて、どこを見ればいいのかわからなくなりそうだったり。まだそのへんは僕も整理がついてない状況です。

でも、アクターカメラ自体はすごくポジディブには考えています。西尾くんはつけてみてどうでしたか。大変だったと思うけど、いい点もあったんじゃないですか。

西尾 稽古場で初めてカメラをつけたとき、何もないところを見たりという、通常の舞台で普通にしていた動きがしづらくなることに驚きました。でも本番になってからはだんだんと、自由自在とはいかないまでも「通常の上演なら見ない角度だけど、ここは見ちゃおう」「一緒に演じている相手のこの表情押さえとこう!」みたいな、俳優として演じながら撮影者としても立ち回る頭と視点が、自分の中にうっすらできた感じですね。もし今後、僕がつける機会があるなら、効率的な撮り方と、役としてのその場へのうまい存在の仕方との両立を試行錯誤していきたいです。

いずれにしてもアクターカメラの映像は、今後も演出に関わってきそうですね。

日澤 映される役者に、そこに映ることを想定して目線や表情を変えてもらったり、カメラをつけた役者が小道具の手紙や本を読みつつ、カメラに写し出される文章にキーになる言葉を含ませてみたりといった、アクターカメラありきの仕掛けはまだまだあるなと考えています。機材や編集、配信の経費も大変ではあるけれど、やらないよりはやったほうがいいので、今後もいろいろと新しいことに挑戦して、少しでも視聴数を伸ばしていけたらいいなと思っています。

画像 公演『無畏』のアクターカメラ映像

さまざまな切り口を共有する

日澤 『帰還不能点』では、13公演中4公演で、「アフターアクト」も行う予定です。これは劇中の登場人物にスポットを当てて、本編では語られないスピンオフの物語としてつくられた一人芝居を5分から10分ほど行うもので、より重層的な観劇が体験していただけると思います。

西尾 うちはコロナ禍前から、本編以外でも劇団のさまざまな面を、お客さんと共有して楽しんでいただこうという試みをしていましたよね。

日澤 2019年の『治天ノ君』再再演(第31回公演、東京芸術劇場シアターイースト他)のとき、それまでの『治天ノ君』公演を観てくださったお客さんから抽選で20人を、劇場ロビーを仕切った席に招待して、そこで本番中の上演をモニターに映しつつ、僕と古川くんがコメンタリーをしたのが最初でした。出番の合間をぬって西尾くんや岡本くんがロビーに来てちょっと話してくれたりとか、裏方もちょっとお見せするような感じでした。

岡本 その時は、常連のお客さんへ感謝の意味をこめた単発的なイベントで、まさか翌年からこんな状況になるとは思わなかったですね。

日澤 うちはそれまで公演の記録映像を表に出していなかったんだけど、2020年ゴールデンウイーク前の「ステイホーム週間」呼びかけを受けて、YouTubeに無料で流し始めました。それが好評だったので、次にお客さんと劇団員をZoomに入れて、僕とか西尾、岡本といった関係者が解説しつつ、過去5公演の本編映像に、お蔵出し映像を編集で加えた公演の映像を画面共有で鑑賞する、コメンタリー上映なんかも行いました。

これも一種のファンミーティングの形で、出演していた西尾くんが袖にハケて早替えしているところや、楽屋とかパネル裏のごちゃごちゃした感じ、舞台監督さんの仕事っぷりといったさまざまなオフショットが見られて、とても喜んでいただけました。

西尾 やむを得ない状況下で始まった取り組みでしたが、結果的に、作品を何度も繰り返し楽しんでいただけるツールになってきているように思います。

日澤 そうですね。俳優が舞台上でお客さんと接する機会とか、僕が作品を通してお客さんと接する機会は多いですけど、公演以外の場面での交流はあまりやってこなかったので、そういう意味でもいいのかなと。あとは西尾くんや岡本くんの素の面もお客さんに見ていただくと、舞台とのギャップやその人の個性が見えてきて、さらに俳優として愛してもらえるきっかけにもなるんじゃないかなと思います。西尾くんは以前から劇団とは別にSNSや、ツイキャスのラジオ番組(「オカノウエノラジオ」)などもやっていたりして、かなり発信しているほうですけど、岡本くんはそういうことがあまりなかったので。

岡本 僕は確かに西尾くんとは真逆ですね。もちろん終演後にロビーでご挨拶とかはちゃんとしてますよ(笑)。隠したいわけでもないけど、わざわざITを使っての発信は、そんなに自分からはしてこなかったので、コロナ後のコメンタリー上映などを通して、「岡本さんて、普段こんなことを考えているんですね」ということをおっしゃっていただくことが増えています。

日澤 それだけインパクトがあったということでしょうね。今後も、この状況でこそできることとして、キャストや作品の魅力を共有できる方法は、さまざまな切り口で考えていけたらと思います。

第30回公演『遺産』アフターアクト

〈完〉

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構成:合田真子

日澤雄介[ひさわゆうすけ]

1976年生まれ。2000年、駒澤大学OBで劇団チョコレートケーキ旗揚げ。主宰を務めながら俳優として活動していたが、第17回公演『サウイフモノニ...』(2010)より演出を兼務。以後、演出家としても劇団内外で活動。2012年、若手演出家コンクール最優秀賞。2014年・18年、読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。近年の劇団公演を除く主な演出に、ホリプロ『Little Voice(リトル・ヴォイス)』(2017)、梅田芸術劇場『まほろば』(2019)、トム・プロジェクト『A列車に乗っていこう』(2019) など多数。

岡本篤[おかもとあつし]

1979年生まれ。劇団チョコレートケーキ第2回公演『ヒーロー』(2002)以降、全作品に参加。近年は俳優で構成された落語会にて夏葉亭夕顔の高座名で出演。劇団公演を除く主な出演に、トム・プロジェクト『挽歌』(2016)、風琴工房『penalty killing-remix ver.-』(2017)、トム・プロジェクト『Sing a song』(2018)、夏葉亭馬鈴薯プロデュース(2019)、JACROW #29『「闇の将軍」シリーズ第3弾』(2020)、映画『無頼』(井筒和幸監督・2020) など多数。

西尾友樹[にしおゆうき]

1983年生まれ。早稲田大学入学を機に演劇を始め、在学中より学内外で俳優として活動。2010年の劇団チョコレートケーキ第17回公演『サウイフモノニ...』以後客演を重ね、2012年入団。2014年、読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。近年の劇団公演を除く主な出演に、まつもと市民芸術館プロデュース『白い病気』、NHK連続テレビ小説『半分、青い』(2018)、加藤健一事務所『プレッシャー-ノルマンディの空-』(2020) など多数。

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