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オルセー美術館 エミール・ガレの神髄〈前編〉

パブリックドメインで巡る世界の美術館

No.010
《花立》 1878−1880年 高24cm 幅22cm 奥行14cm オルセー美術館 Emile Gallé, Pique-fleurs, vers 1878-1880, verre "clair de lune" craquelé avec applications, décor peint, émaillé et doré ; monture en bronze doré, H. 24,0 cm ; L. 22,0 cm ; P. 14,0 cm., Achat en vente publique, 1981, © GrandPalaisRmn (musée d'Orsay) / René-Gabriel Ojéda

パブリックドメインとは、著作権を有さない公共の知的財産のこと。世界には、そのような所蔵品をインターネット上で公開している美術館があります。パブリックドメインとなった所蔵品を取り上げ、その魅力をあらためて紐解きます。


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2024.08.07

世界の美術館がオンラインで公開している所蔵品をテーマを決めて紹介する本シリーズが、今回取り上げるのはエミール・ガレ。2024年は、ガレの没後120年にあたります。ガラス、陶器、家具などの幅広い分野で、花や植物などの有機的なモチーフや自由な曲線を意匠に取り入れた工芸作家です。

フランスのオルセー美術館は、ガレが生きた19世紀の美術に特化したミュージアムです。ガレが残した膨大なスケッチや、時代ごとの代表作がウェブサイトでも公開されています。そのコレクションから富山市ガラス美術館館長の土田ルリ子さんが選んだ「ガレ作品の神髄が伝わる名品」の解説を、前後編でお届けします。


エミール・ガレ

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、フランス東部ロレーヌ地方の古都ナンシーで、ガラス、陶器、家具の分野で、深淵なる造形表現を展開したエミール・ガレ(1846−1904)。40年ほどの活動において、ガレは特にガラスの分野で、次第に技術的にも造形的にも、精神性の高い表現を展開しました。最晩年の作品はそれまでのガラスの概念を遥かに越え、オブジェの世界へと昇華していきました。

エミール・ガレ(1889年)
Attribué à H. Duffray, Portrait d'Émile Gallé, 1889, photographie (détail). Photographie utilisée par Émile Gallé pour sa carte d'exposant à l'Exposition universelle de 1889.

花立

ガレの父シャルルは高級陶器とガラスの委託販売店を営んでおり、息子のエミールは1877年に家業を継ぎます。彼の代になって初参加となった翌年のパリ万博は、空前のジャポニスム・ブームを反映した博覧会でした。
《花立》はこの頃に考案されたモデルで、短冊形に縁取りされた絵柄のレイアウトや、蜻蛉や秋草のモチーフなどに、ジャポニスムの影響が見受けられます。また淡い水色のガラス素地は、本万博でガレが発表した「月光色ガラス」で、清々しい色合いが人気となり、欧州各地で模倣されるまでになりました。

© GrandPalaisRmn (musée d'Orsay) / René-Gabriel Ojéda
© GrandPalaisRmn (musée d'Orsay) / Tony Querrec
© GrandPalaisRmn (musée d'Orsay) / Tony Querrec

《花立》 1878−1880年 高24cm 幅22cm 奥行14cm オルセー美術館
Emile Gallé

Pique-fleurs
vers 1878-1880

verre "clair de lune" craquelé avec applications, décor peint, émaillé et doré ; monture en bronze doré
H. 24,0 ; L. 22,0 ; P. 14,0 cm.
Achat en vente publique, 1981

「たまり水」

当初は透明なガラスの世界に留まっていたガレでしたが、1880年代以降はさまざまなガラス素地や技法を考案し、これを駆使して色や装飾を重ね、密度の濃い作品を展開します。さらにガラス面に詩文を刻んでは、その物語性、象徴性を高めていきました。
《蓋付壺「たまり水」》は、ガレと同郷の友人で彼の芸術の良き理解者であった高官のロジェ・マルクスに献呈された作品です。陽の光を浴びて澱み、エメラルド・グリーンになった池面には、蜻蛉や蝶、蛾などが舞い、ヴィクトル・ユゴーの詩「心休まる光景」からの一節が刻銘され、神秘的な世界が展開されています。

© Musée d’Orsay, Dist. RMN-Grand Palais / Patrice Schmidt
© RMN-Grand Palais (Musée d’Orsay) / René-Gabriel Ojéda

《蓋付壺「たまり水」》 1889−90年 高24cm 胴径11cm オルセー美術館
胴部に陰刻と金彩で銘:La frissonnante libellule / Mire le globe de ses yeux
 /  Dans l’etâng splendide où pullule / Tout un monde mystérieux / V. Hugo
[蜻蛉は身を震わせて / 自分の目玉を映す / 光り輝く池の前に / そこには神秘の世界がひしめいている / V. ユゴー]
Emile Gallé
Eaux dormantes
entre 1889 et 1890

pot couvert : cristal soufflé à plusieurs couches, fond maté, couche superficielle partiellement martelée, cassons de verres gravés, inclusions de parcelles métalliques (argent et mica), application à chaud de cabochons gravés, décor gravé et taillé
H. 24,0 ; L. 11,0 cm.
Dation, 1995

(後編へ続く)

Text:土田ルリ子(富山市ガラス美術館 館長)

富山市ガラス美術館では2024年11月2日(土)〜2025年1月26日(日)、「没後120年エミール・ガレ:憧憬のパリ」を開催します。

オルセー美術館
オルセー美術館の建物は1900年のパリ万国博覧会開催に合わせて建設された鉄道駅舎兼ホテルがもとになっている。1986年、19世紀美術を展示する美術館として改修された。絵画、彫刻、家具、工芸品、建築、デッサン、写真など約7万点が所蔵され、4,000点の作品が常設展示されている。
https://www.musee-orsay.fr/fr

住所:Esplanade Valéry Giscard d'Estaing_75007 Paris フランス
入館料:一般料金(常設展と企画展)オンライン購入16ユーロ、窓口購入14ユーロ ほか

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