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ファン・ゴッホ美術館 浮世絵に惹かれて

パブリックドメインで巡る世界の美術館

No.007

パブリックドメインとは、著作権を有さない公共の知的財産のこと。世界には、そのような所蔵品をインターネット上で公開している美術館があります。パブリックドメインとなった所蔵品を取り上げ、その魅力をあらためて紐解きます。


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2022.09.26

パブリックドメイン(公共の知的財産)となった所蔵品をオンラインで公開している、世界の美術館を巡るシリーズ。第7回は世界で最もゴッホのコレクションを保有するファン・ゴッホ美術館から、ゴッホ自身がその魅力にとりつかれコレクションまでしていたという浮世絵の影響が顕著にあらわれた作品たちを、東京都美術館学芸員の大橋菜都子さんにご紹介いただきます。


フィンセント・ファン・ゴッホ《花魁(溪斎英泉による)》1887年

1886年2月、ファン・ゴッホはジャポニスムに熱狂するパリに移り住みました。しだいに浮世絵版画に魅了され、自らの芸術の糧としていきます。中央の花魁は、『パリ・イリュストレ』誌の表紙に印刷された浮世絵、溪斎英泉の《雲龍打掛の花魁》を基に描かれています。太くくっきりとした輪郭線は木版画の名残をとどめますが、オリジナルにはない鮮やかな色彩が用いられています。花魁の周りに見える竹や葦、鶴や蛙などは、他のさまざまな浮世絵から抜き出されたモティーフです。ファン・ゴッホは、多くの浮世絵に学び、独自の表現を模索していきました。

フィンセント・ファン・ゴッホ《アイリスの咲くアルルの風景》1888年

1888年2月に南仏アルルへ移ったファン・ゴッホ。5月、花咲く野原に囲まれた小さな町の風景と出合い、「まるで日本の夢のようだ」と喜びました。この風景を描くにあたり、ファン・ゴッホは浮世絵から学んだ技術を存分に生かしています。野原の黄色と明るい緑は、色彩で帯をつくるように置かれ、その境界は画面を斜めに横切ります。前景のアイリスは、繊細な線描が加えられ、くっきりと細部まで描かれています。対角線を応用した構図、簡潔に本質を捉える線、前景のモティーフの強調など、ファン・ゴッホが日本の美術に見出した特徴が、見事に組み合わされています。

フィンセント・ファン・ゴッホ《花咲くアーモンドの枝》1890年

亡くなる5か月前に描かれた本作品にも、浮世絵の影響を認めることができます。ファン・ゴッホは、かねてから「たった1本の草」を研究する日本の画家たちを称賛しており、つつましい自然を見つめ、描いてきました。ここでも、花咲く枝のみに注目し、穏やかながらも力強く、装飾性の高い画面を生み出しています。青空を背景に木を見上げる大胆な構図も、浮世絵に類例が見られるものです。本作品は、ファン・ゴッホにちなんでフィンセント・ウィレムと名づけられた甥の誕生を祝い、弟夫妻に贈られました。ファン・ゴッホの没後に弟テオが引き継いだ絵画や、兄弟が収集した浮世絵コレクションは、のちにこのフィンセント・ウィレムが相続します。彼はファン・ゴッホ家のコレクションを散逸させぬよう財団を設立し、ファン・ゴッホ美術館の礎を築きました。

Text:大橋菜都子(東京都美術館 学芸員)

ファン・ゴッホ美術館
アムステルダム中心部の運河群の南側、「ミュージアム広場」の一角にあり、油彩画約200点、素描約500点、弟テオとの手紙など800通以上に加えて、親交のあったゴーガンらの作品や、ゴッホ自身が集めていた浮世絵も収蔵されている。近代建築の祖リートフェルト最後の作品として知られる本館の隣の新館は、黒川紀章が手がけた。

https://www.vangoghmuseum.nl/nl
住所:Museumplein 6, 1071 DJ Amsterdam オランダ
入館料:€19(2022年10月7日以降は€20)  18歳までは無料

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