東京のアートシーンを発信し、創造しよう。

MENU
MENU

本と川と街(本所・深川)

Next Tokyo 発見隊!

No.010
「本と川と街」を立ち上げたメンバー。左から、後藤寿和さん、池田史子さん、伊藤薫さん、イワタマサヨシさん(撮影=編集部)

東京各所の知られざる歴史や文化を掘り起こして取材し、クリエイティブに進化を続ける東京の、ディープな楽しみ方を紹介する「Next Tokyo 発見隊!」。今回は隅田川の東側に位置する、本所・深川地区を舞台に展開するイベントを紹介します。


話題の飲食店やミュージアム、ギャラリーなどが点在する一方で、下町風情を残した新旧の文化が交差するこの地域で、2020年より「本と川と街」というアートプロジェクトが開催されています。「本」をガイドに川の街に点在するプログラムをめぐると、そこから見えてくるのは、江戸時代からの長い年月が重なる土地の記憶でした。プロジェクト立ち上げの経緯を、地元に住む4名の方々にうかがいました。


深川地域を流れる小名木川(上)と隅田川(下)

街の記憶を掘り起こすアートプロジェクト

「本も川も街も、様々な歴史や文化、そして人々の思いを内包している記憶装置のようなもの」。公式サイトのコンセプト文にあるように、「記憶」をテーマにした「本と川と街」は、本を片手に川の街をめぐるアートプロジェクトです。2021年は10月30日から11月28日までの約1カ月間開催し、北は本所吾妻橋駅から南は門前仲町駅まで、約5kmのエリアにプログラムが点在しました。船上で落語や音楽を鑑賞するクルーズ、かつての水路の姿をたどる観察会、地域に伝わる怪談をテーマにした作品展示、下町の工場を撮影した写真展など、テーマも分野も多様な28のプログラムが行われました。

来場者はパスポート代わりの「本」をガイドに、かつて物や人を運ぶ役割を果たした「川」が流れる「街」を巡ります。本に付属された地図には、プログラムが開催されるスポットはもちろん、歴史的な遺構やミュージアムなど、地域の記憶にまつわる重要な場所が解説されています。こうしてまち歩きを楽しみながら、地域や歴史がテーマのプログラムを体験することで、自然とまちの「記憶」に触れられる仕組みになっているのです。

「本と川と街」のパスポートブック(1,600円)。パスポートブックを購入すると、各有料イベントを鑑賞できる。地図やシールが付属された、豪華な仕様。公式サイトでもマップを見ることができる。

このイベントを主催するのは「本と川と街 実行委員会」。委員長のイワタマサヨシさん、理事の池田史子さん、後藤寿和さん、伊藤薫さんの4名を中心に運営する任意団体です。はじまりは、2019年から東京都現代美術館を会場に開かれている「TOKYO ART BOOK FAIR」(TABF)でした。2020年、それまで清澄白河のエリアでアートプロジェクトを展開してきた東京都現代美術館から「TABFと連携して地域でイベントを開催できないだろうか」と以前美術館の企画に協力した伊藤さんに相談がありました。そこで伊藤さんが声をかけたのが、隅田川テラスでマルシェなどの地域イベントを開催していたイワタさん、清澄白河にショップとギャラリーを併設したスタジオを構えるデザインユニット・gift_(ギフト)の池田さんと後藤さんでした。

「どんなひとにも自由なくつろぎ」という理念のカフェやコインランドリーを併設する森下の「喫茶ランドリー」では写真家・鹿野貴司さんによる展覧会「MADE IN HERE」を開催。墨田区・江東区の町工場と職人を撮影した写真を展示した。

ウェブデザイナーを営むかたわら、ボランティアチームをつくり地域の活動をしていたイワタさん。「アートプロジェクトをやりたい、と考えていたところに伊藤さんから声をかけていただきました。この辺りは江戸時代から水運で栄えたまちです。ここに住む人にとって水辺は大事な資源でした。そして関東大震災と東京大空襲という二つの試練を乗り越え、いまの姿があります。そうした歴史を掘り起こしたい。『記憶』をテーマに、まずはコンセプトの文章のようなものを書いてみました」。その文章にあった「本」「川」「街」というキーワード。4人の議論のなかで、それが自然とタイトルになったそうです。

「KAIKA 東京 by THE SHARE HOTELS」(左上/右上)では、岡村昌範さん(右下)による「怪段-KWAIDAN-」を開催。この地域に伝わる怪談をテーマに展示。岡村さんは深川でグラフィックデザイン・ライティングの仕事を営む

戦争、震災を乗り越えた本所・深川をめぐる

2020年は2カ月という短い準備期間にもかかわらず、メンバーがそれぞれの知り合いに声をかけ、12組の参加がありました。アーティストを生業にする人、本業とは別に創作活動を行う人、初めてアートイベントに参加する人など、地元に縁のある多様な参加者が集まりました。2021年の第2回目は、春先からオンライン説明会を重ね、参加者は30組に増えました。

「The Bee's Knees」アーティスト/ライターの平井有太さん(写真右)が発起人のプロジェクトチーム「The 10th Fukushima, Nippon Awakes」による展覧会。3.11から10年を機にした福島の写真などを展示。左は、メンバーで写真家の中筋純さん。
The Bee's Knees
展示「堀の記憶II」(上)にて、企画者の旧水路ラボさん(下)。かつて存在していた水路「五間堀」をテーマに、展示のほか探索体験や観察会を開催。江戸東京の大きな出来事と深く関わる水路をたどることで、歴史を振り返る

本所・深川地区は、江戸時代の土地開発で湿地帯だった土地の埋め立てや干拓とともに運河が区画され、市街地となった場所。そして、避けて語れないのは2つの大きな災害です。

戦争体験をもとにしたプロジェクト「RUN to Survive」では、1945年の東京大空襲のときに小学生だった深川出身の上原淳子さんが火の海のなか逃げた道のりを走るイベントと、上原さんのトークを開催しました。企画したチーム・TreckTreckのメンバーでもある伊藤さんは、「過去を振り返るときに、災害時の体験談をきくことも大事ですが、以前までどのような生活をしてその後どのように災害を克服し、生き残ってきたかという、前後も含めた人生そのものを伝えたいと思い、企画しました」と話します。

本所にある厩橋地域安全センターは、1928年に建造され東京大空襲でも消失を逃れた交番だった。地図を見ながら古い建造物に出会うことで、歴史が紐解かれる
両国駅の近くにある東京都復興記念館。関東大震災の惨禍を伝えるために1931年に建設された。中央展示室には深川地区の運河の歴史を伝える模型も
「記憶のカケラ」。JR両国駅に残っていた古いアルバムから写真を選び、駅構内の閉鎖されている階段に展示
写真提供:イワタマサヨシ

地域をつなぎ、記憶をつむぐ

また、「記憶」というテーマはこの地域だけにとどまりません。池田さんと後藤さんのスタジオ・gift_labでは、長崎の記憶に着目し、1996年から続く「時の蘇生・柿の木プロジェクト」を紹介。ワークショップやトークイベントを行いました。このプロジェクトは、現代美術家・宮島達男さんが、長崎で被爆した柿の木の2世を植樹し育てることを通して「戦争の愚かさ・平和の意味・生命の大切さ」などを伝えるものです。

「原爆や震災などを対岸の火事とするのではなく、遠い地域の記憶をあえてここに持ってくることで、違う形で記憶を共有できたらと思っています。10年以上清澄白河に住んでいる広島出身の方が、この展示を見て、地元・広島の陰惨な歴史をどのように伝えていけばいいかわからなかったが、こういう柔らかい伝え方もあるのですね、と感想をいただいたのが印象的です」と池田さん。

gift_labにて開催した「カキノキ⇄ギフト」

また、後藤さんは「私たち自身は、この地域の出身ではないですが、よそものだからこそ客体化できる良い側面もあると思います。そして、『本と川と街』は、新しいことをやるというよりすでにあることを引き出すお手伝い。それを継続した先に何かみえるかが大事だと考えています」と語ります。

まだスタートしたばかりの「本と川と街」。現在はクラウドファンディングと、パスポートブックの販売で運営しています。イワタさんは今後に向けた展望を話します。

「こういうのをやりたい、あれはどうか、と企画はどんどん集まってくるんです。でも、こんなおもしろいことをパッとやってもいいのだろうか、と思う企画もあって。だから、もう少しリサーチする時間を確保し、深掘りする仕組みを作っていく必要があるのかな、と考えています」。

「本と川と街」をめぐっていた3人は「2020年の開催時に来られなかったため今年こそは」と来場した

本所・深川は、江戸三大祭の一つである深川八幡祭りをはじめ、祭りが盛んな地域。そうした土地柄か、手弁当で自主企画を行う文化も根付いています。住む人の地域への思いも強いだけに、こうしたアートプロジェクトがスムーズに受け入れられているのでしょう。住む、働く、企画する、運営する、楽しむなど、一人が何役にもなって関われる、アートプロジェクト。街のクリエイティビティを引き出しながら、記憶を未来につないでいきます。

「つながるライトバルーン」(11/28 木場公園 野外ステージ)。会期最終日に公園に集った参加者が、それぞれ手にした携帯電話など光るデバイスを一斉に消灯し、暖かな色のバルーンを見つめた
写真提供:イワタマサヨシ

Text: 佐藤恵美
Photo: 中川周(クレジットのないもの)

本と川と街 実行委員会
〒135-0006
東京都江東区常盤2-8-2
satff@honkawamachi.com
http://www.honkawamachi.com/

公式アカウントをフォローして
東京のアートシーンに触れよう!