――トーキョーワンダーサイト(以下、TWS)のレジデンス・プログラムでは、山田さんはロンドンに1か月間、瀧さんはベルリンに3か月間滞在されたということですが、どのような経緯で参加されたのですか。
瀧健太郎×山田健二
アーティスト・イン・レジデンスを利用する[前編]
アーティスト・サバイバル・メソッド
No.001先輩クリエイターやサポーターによる、アートの制作現場で役立つ情報をお届けします。
10年以上続くトーキョーワンダーサイトのレジデンス・プログラム「クリエーター・イン・レジデンス」。東京から海外へ、海外から東京へという相互のアーティスト派遣を行なっています。2016年度の参加アーティストの中からトーキョーワンダーサイト本郷で開催された成果発表展「トーキョーワンダーサイト レジデンス2016-2017『C/Sensor-ed Scape』」(4/15-5/28)にも参加した瀧健太郎さんと、山田健二さんにアーティスト・イン・レジデンスを活用したサバイバル術を伺いました。
瀧健太郎×山田健二
トーキョーワンダーサイト レジデンス・プログラム参加アーティスト
その土地と深く関わるための時間
山田 僕は2012年からロンドンに住んでいました。「ミルバンク」という旧刑務所の跡地でプロジェクトをしたいと思っていた矢先、ロンドン芸術大学のCCWカレッジというキャンパスがTWSとレジデンス・プログラムを結んでいたことを知って応募しました。
CCWカレッジは、ロンドン内に点在していた3つの美術大学の連合組織。世界的なギャラリーでもあるテート・ブリテンの隣という好立地で、ギャラリーや宿泊施設といったサポート体制もしっかりしている施設です。
ミルバンクは繊細な歴史が絡む遺構でもあって、移住者の僕がそこで何かをするのは容易ではありません。でもTWSとロンドン芸術大学という2つの公的な機関のバックアップで、個人ではなかなか踏み込めない場所でプロジェクトを行うことができました。
瀧 TWSのレジデンス・プログラムは以前から知っていたのですが、仕事があって長期の参加は難しかった。でも数年前にアーティストとして生きていくか、仕事を続けるか悩んだとき、思い切って仕事を辞めました。家族もいるので路頭に迷っている感じもありますが(笑)。ただ仕事をやめた途端にいくつか海外の展覧会も決まって、昨年は台湾の美術館とフランスのビデオフェスティバルなどに参加しました。
僕のビデオ作品の多くは、その土地と関わり、現地で制作して発表しています。ですので、海外で展覧会に参加するときは、限られた滞在時間の中で作品をつくって、発表して、いろいろなアーティストたちと交流してと、とても忙しい。そうすると、街をじっくり見る時間がとれません。街の歴史的な背景やそこで生活する人が抱えている問題、社会的なトピックスなどには、いま一歩踏み込みにくいのがいつも心残りでした。それで長期のレジデンスに行きたいと思い、ベルリンへのレジデンスに応募しました。
山田 瀧さんはロンドンのプログラムにも応募されていて、面接のときお会いしましたね。
瀧 でもそのときはライバルだったのでほとんど話しませんでしたね(笑)。このプログラムには20代後半から30代が応募するという噂を聞いていましたが、年齢は「不問」って書いてあったので、僕みたいに40歳を超えていても気持ちさえ若ければ、若手ですし。「何をやるにしても遅いことはない」ってよく言いますし、それで応募しました。
世界で何が起きているのかを確かめる機会
――それぞれの場所に滞在しながら、制作もされていたのですか?
瀧 TWSのレジデンス・プログラムのいいところは、作品の制作は課されていないところです。
山田 リサーチでもいいし、ビジネスのきっかけをつくってもいいし、スタジオでゆっくり制作するだけでもいい。間口が広いところがいいですね。
瀧 リサーチや交流をしながら、世界でいま何が起きているのか、どんな時代なのかといった再確認ができました。毎日滞在先に帰ってくると、その日のことを記録してインターネットで調べます。そのうちにまた気になることが出てリサーチしに行く。3か月という時間があったからできたことで、貴重な時間でした。滞在前には予定していませんでしたが、今の考えを一度アウトプットしておきたいと思って、滞在の最後に急遽、展覧会もしました。
山田 そのときはどんな作品を作ったのですか?
瀧 廃材に風景の映像を投影した作品で、ベルリンの都市像をテーマにしました。でも帰国してから、もっと日常的な「ボーダー」の問題に焦点を当てたいと思って、今回の展示につながっています。
インタビューは後半に続きます。
文・構成/佐藤恵美
[アーティスト・イン・レジデンスとは]
アーティストが国内外の地域に一定の期間滞在し、活動を行う事業。またその活動を支援する制度。海外では欧米を中心に1970年代から普及している。日本では、1990年代から主に地方自治体により取り組まれ、現在では60件近くのレジデンス・プログラムがある(ウェブサイト「AIR_J」掲載数参照)。通称「AIR」。
[アーティスト・イン・レジデンス情報]
◎日本全国のアーティスト・イン・レジデンス総合データベース「AIR_J」
http://air-j.info
◎アーティストのためのアートの旅サイト「Move arts Japan」
https://movearts.jp
◎海外のアーティスト・イン・レジデンス情報「Res Artis」
http://www.resartis.org/en/
瀧 健太郎|Kentaro Taki
(二国間交流事業プログラム<ベルリン>、2016年7月~9月滞在)
1973年生まれ。1996年武蔵野美術大学大学院映像コース修了。2002年-2003年文化庁新進芸術家海外研修制度、ポーラ美術振興財団在外派遣芸術家としてドイツに滞在、メディアアートを学ぶ。近年の主な展覧会に「再生運動 デジタル世代の反証的技術」(台湾国立美術館、台中、2016)、「ヴィデオアート・プロムナードin阿佐ヶ谷」(阿佐ヶ谷駅周辺、東京、2015)、「Les Instant Video2013 : 50 ANS D'ARTS VIDEO」(フランス、2013)、「TOTAL CITY」(バレンシア現代芸術院、スペイン、2012)、個展上映に「瀧健太郎ヴィデオ・コラージュ/パズル」(アップリンク・ファクトリー、東京、2014)など。
山田健二|Kenji Yamada
(二国間交流事業プログラム<ロンドン>、2016年6月~7月滞在)
1983年生まれ。2008年東京藝術大学先端芸術表現科卒業。2016年ポーラ美術振興財団在外派遣芸術家としてイギリスに滞在。近年の主な展覧会に「Smurfed remain」(チェルシー・カレッジ・オブ・アーツ、ロンドン、2016)、「Shanghai Project」(上海喜瑪拉雅美術館、中国、2016)、「BSIM App.」(3331Gallery、東京、2013)、「BSIM」(platform02、大分、2011)など。主な助成に「TERUMO Arts and Crafts Project研究助成」(2016)、「BEPPU ART AWARD 2011グランプリ賞」(2011)受賞。東京藝術大学卓越助教、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ客員講師等を経て、現在は東京藝術大学特別研究員。