――お二人は今回のレジデンス・プログラムだけでなく、国内外のさまざまな場所で活動をされていますよね。
アーティスト・イン・レジデンスを利用する[後編]
アーティスト・サバイバル・メソッド
No.002トーキョーワンダーサイトのレジデンス・プログラム「二国間交流事業プログラム」に参加した2人のアーティストが語る、アーティスト・イン・レジデンスの活用術。後編では、アーティストの悩みや、日本で活動するメリットにも話が広がりました。
展覧会「C/Sensor-ed Scape」(2017/4/15-5/28)に参加した瀧健太郎さん(左)と山田健二さん(右)。
「二国間交流事業プログラム」では、瀧健太郎さんはベルリンに、山田健二さんはロンドンにそれぞれ滞在。
会場のトーキョーワンダーサイト本郷にて
Photo: Shu Nakagawa
瀧健太郎×山田健二
トーキョーワンダーサイト レジデンス・プログラム参加アーティスト
日本で制作するか、海外で制作するか
山田 僕は卒業制作でもらった賞の副賞で、ロッテルダムに行ったのが初めてのレジデンスでした。その頃オランダではアーティスト支援が盛んで、アーティスト・ラン・スペース(アーティストの運営するスペース)を運営すれば、働かなくても食べていけるというケースも目にしました。その日本とのギャップに驚きながら、滞在が長くなるにつれ、自分が日本のさまざまな地域性や文化を知らなさすぎる、ということも感じました。それをきっかけに国内でもいろいろな場所で滞在制作に参加しました。各地で受けた刺激はインプットとして重要だし、その文化的越境そのものが表現になっていく可能性もあります。日本だから、海外だから、という場所によるインプットの違いは自分の中では特に意識してはいません。
瀧 僕は助成金をとってドイツのカールスルーエに2年いました。2年経ったとき、このままもう少しドイツにいようか迷いましたが、やはり東京で戦っている仲間がいると考えたら自分もそこで一緒に戦おう、と思って帰国しました。
独自のサバイバル術が海外から評価される可能性
――日本で活動するメリットはどのようなところにありますか。
山田 自身の住む地域で、資金を集めながら人を巻き込んで活動するような姿勢は、アーティストとして生き抜く強さの表れです。日本なり東京なり、その都市の住人としていかに基盤をつくってやってきたかは、海外で評価を受ける重要な視点なのではないでしょうか。
東京にも海外からキュレーターや評論家もたくさん来ています。
彼らは些細な情報もキャッチしていて、意外とアンダーグラウンドなもの、その土地にしかないものに興味があるのを感じます。だから、東京でやることはやりがいも可能性もあるのではないでしょうか。
瀧 実際に東京にいると「もう道がない~、どっちの方向に行ったらいいんだ~」って思ってしまいます(笑)。
東京の公共空間で映像を投影するプロジェクトを試みると、いろいろな規制をクリアしなければならなかったり、地権者と相談したり、と実現までにハードルがいくつもあります。でもアジアやヨーロッパでは同じことがいとも簡単にできてしまう。そういう意味で東京はやりにくいけれど、そのぶんやりがいのある街だと思います。
日本のアートや文化政策に対する制度も、東京の街並みと似ていて、いつまでたっても工事中(笑)。アートスペースや助成金も、いつなくなってしまうのかと不安は常にあります。山田さんがおっしゃったみたいに、だからこそ外から見ると獣道を歩いているような姿勢を評価してくれる人もいるのかもしれません。どのようなアクティビティを展開するか、どのように生き残っていくのかはいつも試されているのでしょうね。
(2017年4月25日、トーキョーワンダーサイト本郷にて/文・構成:佐藤恵美)
瀧 健太郎|Kentaro Taki
(二国間交流事業プログラム<ベルリン>、2016年7月~9月滞在)
1973年生まれ。1996年武蔵野美術大学大学院映像コース修了。2002年-2003年文化庁新進芸術家海外研修制度、ポーラ美術振興財団在外派遣芸術家としてドイツに滞在、メディアアートを学ぶ。近年の主な展覧会に「再生運動 デジタル世代の反証的技術」(台湾国立美術館、台中、2016)、「ヴィデオアート・プロムナードin阿佐ヶ谷」(阿佐ヶ谷駅周辺、東京、2015)、「Les Instant Video2013 : 50 ANS D'ARTS VIDEO」(フランス、2013)、「TOTAL CITY」(バレンシア現代芸術院、スペイン、2012)、個展上映に「瀧健太郎ヴィデオ・コラージュ/パズル」(アップリンク・ファクトリー、東京、2014)など。
山田健二|Kenji Yamada
(二国間交流事業プログラム<ロンドン>、2016年6月~7月滞在)
1983年生まれ。2008年東京藝術大学先端芸術表現科卒業。2016年ポーラ美術振興財団在外派遣芸術家としてイギリスに滞在。近年の主な展覧会に「Smurfed remain」(チェルシー・カレッジ・オブ・アーツ、ロンドン、2016)、「Shanghai Project」(上海喜瑪拉雅美術館、中国、2016)、「BSIM App.」(3331Gallery、東京、2013)、「BSIM」(platform02、大分、2011)など。主な助成に「TERUMO Arts and Crafts Project研究助成」(2016)、「BEPPU ART AWARD 2011グランプリ賞」(2011)受賞。東京藝術大学卓越助教、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ客員講師等を経て、現在は東京藝術大学特別研究員。