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和洋折衷の土産物が西洋人の間で大流行

江戸アートナビ

No.011
江戸アートナビ11

江戸絵画の専門家・安村敏信先生と一緒に、楽しく美術を学ぶコラム「江戸アートナビ」。今回は、幕末から明治にかけて来日した西洋人の間で流行した、「日本土産」を紹介します。日本土産と言いながら、写真や油絵など、西洋文化の最先端の技法を駆使した和洋折衷の表現に注目です。


監修/安村敏信氏

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2015.02.11

Point.1 日本土産は西洋の薫り

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作者不詳《和装⻄洋男⼥図》東京都江⼾東京博物館蔵

――来日記念に夫婦でコスプレですか?

日本に来ているのは、男性の方だけでしょう。船員として来日し、奥さんの顔は写真を渡して描いてもらっていたんだね。絵師たちは船が停泊している間に絵を仕上げないといけないので、着物や背景は先に描いておいて、注文が来たら顔だけ描き足す。そんなやり方で、量産していたようです。

こういう外国人相手の商売を始めたのが、五姓田芳柳(ごせだ ほうりゅう)という人。芳柳の「芳」は国芳の「芳」と言われていて、歌川国芳に学んだり、狩野派を学んだりしていたようです。でも、もう浮世絵の時代は終わると感づいていたんじゃないかな。そんな時に香港で流行していた土産物、ご当地の衣装を着る肖像画の存在を知って、これは日本でもできると気づいた。独学で油絵を始め、リアルな表現技法を会得。工房形式で《和装西洋男女図》のような土産物をつくっていたんですね。日本土産ながら、写真や油絵などの西洋文化がごっちゃ煮になっていて、面白いでしょう。

Point.2 写真の伝来で広がる表現。油絵茶屋という見世物小屋も登場

――西洋文化が日本に入ってきたことで、だいぶ表現が変わったんですね。

写真の伝来は大きいですね。例えばパノラマ写真。フェリーチェ・ベアトという写真家が江戸市中を見渡せる横長の写真を撮影していますが、パノラマというのは日本にない視覚だった。だから、目新しさとともにパノラマが大流行。最初期の写真家で画家の下岡蓮杖(しもおか れんじょう)も、《箱館戦争》などのパノラマ油絵を残しています。こういった珍しい油絵は見世物になっていて、油絵茶屋なんていわれる浅草の見世物小屋に置かれ、庶民は木戸銭を払って作品を見ていたようです。

浮世絵師たちも写真のリアルさを表現に取り込もうとしました。立体感を出すために役者絵に積極的に影を取り入れてみたり、影の重要性に気づいた絵師は影だけでリアリティを出すために横顔の役者絵をつくったり、試行錯誤している様子がよくわかります。ただ、浮世絵は写真が入ってきたことで、その役割を終えてしまうんです。新聞の役割を果たしていた浮世絵も、報道写真には勝てませんからね。

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Point.3 美術史から落ちこぼれた作品が面白い

――今回驚きだったのは、《和装西洋男女図》が土産物で油絵が見世物だったということです。

写真や油絵表現の過渡期、今回紹介したような作品は、芸術というジャンルでは出てこないものでした。だけど、ながらく写真史から外れていた手彩色の写真、彫刻史に取り上げられてこなかった生人形など、美術史から落ちこぼれたもの、歴史のどこかで突然消えてしまったものを発掘していくと、珍品がいっぱい出てきます。歴史に埋もれてしまっているもの、日本が否定し捨ててきたものを改めて見直すと、新しい発見がたくさんありますよ。

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監修/安村敏信(やすむら・としのぶ)

1953年富山県生まれ。東北大学大学院博士課程前期修了。2013年3月まで、板橋区立美術館館長。学芸員時代は、江戸時代の日本美術のユニークな企画を多数開催。4月より“萬美術屋”として活動をスタート。現在、社団法人日本アート評価保存協会の事務局長。主な著書に、『江戸絵画の非常識』(敬文舎)、『狩野一信 五百羅漢図』(小学館)、『日本美術全集 第13巻 宗達・光琳と桂離宮』(監修/小学館)、『浮世絵美人解体新書』(世界文化社)など。

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