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現代アートで未来につなぐ街の脈動 歌舞伎町タワーのプレミアムエリアで見る最新アート

新しいアートスポット

No.012
歌舞伎町タワー地下2階、歌舞伎町由来の素材を使い描かれた壁画《大地のこだま》(淺井裕介)

今春4月14日に新宿歌舞伎町に開業(ホテルエリアは5月19日開業)した「東急歌舞伎町タワー」。地上48階、地下5階、国内最大級の超高層複合施設として話題を集めています。都市文化体験をテーマに掲げたタワー内部には、2階のエントランスそばにそびえ立つChim↑Pomの作品《ビルバーガー》をはじめ、多くの現代アート作品があります。その数、なんと190作品。ラウンジやホテルの客室などにも多くの作品が設置されているのです。今回はそんなプレミアムなエリアにある作品を中心にご案内します。


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2023.06.20

歌舞伎町をテーマにしたコミッションワーク

ライブホールやフードホール(レストラン)、アミューズメント施設、映画館、劇場にホテルまで、層ごとに異なる顔を持つ歌舞伎町タワー。現代アート作品は、そんな多様な顔を持つタワー全体に設置されています。愛知県美術館館長・拝戸雅彦氏と現代美術ギャラリーANOMALYの監修のもと、総勢26組のアーティストと、タワーの事業主および運営者である東急株式会社・株式会社東急レクリエーション・株式会社TSTエンタテイメント、株式会社THMとが、歌舞伎町の街が紡いできた歴史や文化、出来事、記憶、人の営みをテーマに、歌舞伎町タワーに展示する意味のある作品について話し合いを重ねました。その上で、多くの作品はコミッションワークとして新たに制作されています。

夜の街を象徴するミラーボールの進化系

まずは地下1階から地下4階の、ライブホール「Zepp Shinjuku (TOKYO)」/ナイトエンターテインメント施設「ZEROTOKYO」へ。
地下3階のダンスフロア「RING」のステージには、その名の通りリング状のオブジェが。リングは小さな鏡で覆われ、まるでミラーボールのようです。足立喜一朗による作品《Hollow Moon (Ring)》、《Hollow Moon (Donut)》、《Hollow Moon (Washer)》は、バブル期のディスコなどをイメージすると必ず出てくる、世俗の象徴のようなミラーボールを、より崇高な領域に高めたい、そんな意図のもと制作されています。

画像中央のリングと、右手前にある球体は作品《Hollow Moon (Ring)》と《Hollow Moon (Washer)》(足立喜一朗)
照明によってガラリと表情を変える作品と空間。光を反射し拡散する様子はまさにミラーボール 撮影:木奥惠三
リングの内側はLEDビデオパネル。VJの映像装置として使う場合も

歌舞伎町の土で描かれた地下壁画

地下2階のラウンジ「R BAR」で仄暗い照明に浮かび上がるのは、各地でその土地由来の土などを素材に絵を描き続けてきた、淺井裕介による壁画《大地のこだま》です。浅井は今回の制作に向け、歌舞伎町タワーの建設現場をはじめ、歌舞伎町公園や戸山公園内の内藤とうがらし畑、十二社熊野神社に多武峯内藤神社、花園神社の境内で土を採取しました。制作時には浅井がこれまで日本各地で採取した土に加えてそれらも画材とし、また土を溶く水には、花園神社で汲み上げた井戸水を使用しました。音楽や地層、水脈などをテーマに生命が生まれ、リズムをもって躍動するイメージが緻密に描かれています。

《大地のこだま》(淺井裕介)
バー壁面を埋め尽くす壁画は土を画材に描かれている
カウンター下のタイルにも、壁画から派生した小さな作品が

映画館ラウンジに留められた「ミラノ座の記憶」

地上10階に上がり、映画館「109シネマズプレミアム新宿」へ。CLASS Sチケット購入者(一般6500円)が利用できるプレミアムラウンジ「OVERTURE」の壁面には、35mmフィルムを素材に、フィルムのリールやボウリングのピン、ネオンサインなどのイメージを焼き付けた竹中美幸による作品が並びます。《ミラノ座の記憶》と題された本作は、かつてこの場所で親しまれた映画館、新宿ミラノ座をモチーフに、実際にミラノ座で使われていたものや、記録写真などを素材に制作されています。「新しいものをつくる中でも、そこに息づいていた歴史や文化の脈動を途切れさせることなく、未来に繋いでいきたい。それは弊社が強く持っている思いです」と話すのは、東急株式会社で歌舞伎町タワーのアート部門を担当する吉村健太さん。まさにその思いが、アーティストの力で結実した作品です。
なお、館内の8つのシアターには最新鋭のデジタル設備を揃えながら、その一つ、「シアター8」には、昔ながらのフィルム映写機も設置しています。それは映画館全体の音響を監修した、今年3月に死去した音楽家・坂本龍一の提案でもあったといいます。

落ち着いたラウンジに鮮やかな色彩が映える《ミラノ座の記憶》(竹中美幸)
35mmフィルムを素材に、映画や映画館を思わせるイメージが焼き付けられている

耳で味わう歌舞伎町

タワーの上層の2つのホテルには、レセプションやエレベーターホールに加えて、客室内に設置された作品が多くあります。18階から38階に位置する「HOTEL GROOVE SHINJUKU, A PARKROYAL Hotel」には、3組のアーティストが手がけた、一室丸ごと作品と言えるユニークな客室が用意されています。その中の一室、35階の開発好明による《開発好明アーティストルーム/カセットテープ》の扉を開けると目に飛び込んでくるのは、壁一面に並んだカセットテープ。壁という壁を埋め尽くす約2,000本のカセットテープは、実際に手にとり、客室内のラジカセで再生することができます。開発が本作のために近隣で収録した音や、街の歴史を感じさせる歌謡曲など、さまざまな時代に歌舞伎町の空気を震わせた音のアーカイブを楽しむことができます。

歌舞伎町の「音」が壁を埋め尽くす、《開発好明アーティストルーム/カセットテープ》(開発好明)。ラジカセ型のソファーもこの部屋のために制作

伝統的な民俗芸能の所作をモチーフに

39階から47階に位置するのは、「BELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotel」。こちらにも作品を展示した客室があり、案内されたのは40階、水戸部春菜の作品を展示している客室です。洗練されたラインと色面が印象的な作品、そのモチーフは日本各地に今も残る伝統的な「風流踊り」と呼ばれる民俗芸能とのこと。一見抽象絵画のようですが、見ていると、躍動感にあふれた踊りの所作が感じられます。

民俗芸能をモチーフにした水戸部春菜の作品《踊 永井の大念仏剣舞》
上と別室。水戸部春菜《踊 下平井の鳳凰の舞》 撮影:木奥惠三

そして、ペントハウス「sora 天」には、対照的な二人の写真家の作品が。リビングルームは、森山大道による、新宿のビル群を写したダイナミックなモノクロームの写真。そしてベッドルームは、日常の光景を写した川内倫子による写真作品が、プライベートな空間を演出します。

ホテル最上階のペントハウスの一室を飾る、「Untitled 『記録51号』より」(森山大道)
「無題(シリーズ〈as it is〉より)」(川内倫子)はベッドルームに
サイドテーブルには作家の写真集も

現代アートを通じて、歌舞伎町の歴史や文化に触れる

「歌舞伎町タワーは新たな都市文化観光拠点の創出を目指してその内容を検討しておりましたが、その中でアートを、映画や舞台、音楽などと並ぶ都市文化体験の一つの大きな切り口として捉えました。新宿・歌舞伎町という街の歴史や文化についてさまざまなアーティストと対話できたことは、これからこの館を運営していく私たちにとって刺激的で勉強になる、いい機会でした。今後はそんな制作の背景も含めて、お客さまに伝えていきたいと思っています。ゆくゆくは施設内のギャラリーツアーも企画してみたい」と吉村さん。施設の各所にある作品を、ギャラリーや美術館を巡るように鑑賞できる日を心待ちにしたいです。
今回は有料エリアに絞ってご紹介しましたが、パブリックエリアにも多くの作品があります。また、歌舞伎町タワーのウェブサイト内「アートギャラリー」では、各作品の写真や解説のほか、一部の作品には作家の声や制作の様子を記録した動画も視聴できます。まずは気になる作品を見つけ、アクセスしやすいエリアから楽しんでみてはいかがでしょうか。

ご案内いただいた、東急株式会社の歌舞伎町タワーアート部門担当、吉村健太さん。2階エントランスの《ビルバーガー》(Chim↑Pom)の前で

Text:坂本のどか
Photo:中川周(クレジットのあるもの以外)

東急歌舞伎町タワー アートプロジェクト
住所:東京都新宿区歌舞伎町1-29-1 東急歌舞伎町タワー
参加作家:青木野枝、大巻伸嗣、細倉真弓、荒木経惟、川内倫子、野村佐紀子、羽永光利、山本糾、水戸部春菜、沢村澄子、新城大地郎、佐々木類、玉山拓郎、開発好明、鷲尾友公、ぬQ、西野達、竹中美幸、SIDE CORE、SIDE CORE×しょうぶ学園、Chim↑Pom from Smappa!Group、篠原有司男、森山大道、ムラタタケシ、淺井裕介、足立喜一朗〈2023年6月現在〉
https://www.tokyu-kabukicho-tower.jp

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