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工房を活用する[後編]

アーティスト・サバイバル・メソッド

No.003
カワラボの1階部分、銅版画室とリトグラフ校正機室。地下と2階には銅版腐食室のほかリトグラフ室、描画室、休憩できるスペースも

先輩クリエイターやサポーターによる、アートの制作現場で役立つ情報をお届けします。


工房を活用する[後編]
版画工房 Kawalabo!

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2017.01.03

アーティストを目指す人にとって作品づくりの場所をどのように確保するかは切実な問題。今月からいくつかの役立つ事例を紹介していきます。

町田市立国際版画美術館の近くにある「版画工房 Kawalabo!(カワラボ!)」は約200㎡の空間に、版画に関する設備がそろう民間の工房。プレス機をはじめとしたさまざまな機械や道具を利用できるほか、研究生制度、版画制作・出版なども行っています。作品づくりを続けてほしい、との思いでこの工房を立ち上げたチーフプリンターの河原正弘さん、この春に研究生となった今泉奏さんに話を伺いました。


カワラボの1階部分、銅版画室とリトグラフ校正機室。地下と2階には銅版腐食室のほかリトグラフ室、描画室、休憩できるスペースも

版画に関するすべてが揃う工房

町田駅から坂のある道を歩いて約15分、豊かな緑を有する芹ヶ谷公園の隣に「版画工房 Kawalabo!(以下、カワラボ)」があります。

もと精米工場だった地下1階から2階の広々とした空間に、10台以上のプレス機や紫外線製版機、ジグレープリンター、ドライラック、ライトテーブル。壁には版画に使うさまざまな道具が並び、あらゆる版画技法に対応した工房です。

カワラボを立ち上げた河原正弘(かわら・まさひろ)さんは、「美大を出ると、いろいろな理由から作品制作をやめてしまう人が多いですが、その一つに制作する場所がないという問題が挙げられます」と話します。河原さんは自身も作品制作をするかたわら、横浜の版画工房で15年勤めたのち、2009年にカワラボを立ち上げました。

「日本では、版画は版画家と肩書きのつく限られた作家だけが取り組むものというイメージがありますが、海外ではピカソやブラック、マチス、マン・レイ、デュシャンといった名だたる作家もみんな版画を制作している。アーティストにとって、身近な表現技法なんです。大学で版画を専攻していなくても、もっと気軽に版画に取り組める環境を整えたいと思い、カワラボを続けています」

平版自動校正機。製版も刷りも難しいと思われがちなリトグラフだが、ここでは1時間の利用で、職人が2人補助に付き、50枚くらい擦ることができる。作業をしているのは河原正弘さん

学校とは別の、新たな選択肢

「アーティストを育てたい」という思いから、2012年からスタートしたのが「Kawalabo! 研究生」制度。毎月約9,000円で18カ月間、カワラボの機械や道具、スペースをいつでも利用できます。毎年2-4名ほど採用され、技術・制作指導、講評会もあり、集大成としてギャラリーで発表の機会を設けています。

4月から第6期の研究生として、カワラボに通うのは今泉奏(いまいずみ・そう)さん。今泉さんは社会人をしながら武蔵野美術大学の通信教育課程に通い、3年目で通学の版画専攻に編入しました。

「卒業を迎えても技術的にまだ学び足りず、でも大学院への進学は金銭的に難しかったんです。それで当時の担当教員に相談し、カワラボを紹介してもらいました」

「これだけの設備を自由に使えるのが嬉しい」と話す今泉奏さん

プロのアーティストが身近にいる環境

今泉さんは、週に5-6日、夜間にアルバイトをしながらカワラボに通っています。現在制作しているのは、ウォーターレス・リトグラフという技法を使った作品。

「大学では技法ごとに工房が分かれていて、私は銅版画を専攻していました。でもリトグラフの授業も面白かったので続けたくて。『ウォーターレス・リトグラフ』は初めてでしたが、新しいことにチャレンジできるのが楽しいです」

ウォーターレス・リトグラフは、リトグラフと仕上がりはほとんど同じですが、従来のリトグラフと比べ、技術的にも易しいので取り組みやすい技法です。

「比較的新しい技術なので、まだ美大でも取り入れているところは少ないんです」と、河原さんは言います。こうした最新の技術を利用できるのも、カワラボの魅力です。

今泉さんが制作中の描版風景

Photo: Shu Nakagawa

「大学と違い、刷りの職人さんがいること、またプロの作家さんの作品や制作の様子を実際に近くで見られることが、カワラボで研究生をする大きなメリットだと思います。ほかの作家さんに『どうやって展示場所を選んでいるんですか』と質問したり、『こうしたほうがいいよ』とアドバイスをもらったりしています」

先輩アーティストの仕事を間近で見ることができ、技術をしっかりと修得できるカワラボの研究生制度。学校以外の場所で、アーティストとしてさらに技術を磨くための、新たな道と言えるかもしれません。

チーフプリンターの河原正弘さん(左)と、サブプリンターの平川幸栄さん(右)
近隣には世界でも数少ない版画を専門とした美術館、町田市立国際版画美術館も!

住所:東京都町田市原町田4-28-1

TEL:042-726-2771

文・構成:佐藤恵美
Photo: Shu Nakagawa

版画工房 Kawalabo!(カワラボ!)
住所:東京都町田市高ヶ坂3-5-1

[お問い合わせ]
◎TEL:042-719-7150
◎E-mail:kawalabo@ac.auone.net.jp
◎時間:10:00-22:00(水曜・第3土曜休み)
http://kawalabo2010.web.fc2.com
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