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アーティスト・サバイバル・メソッド

No.004
講師の布山浩司さん(奥)と、アーティストの山田勇魚さん(手前)。ペン型3Dハプティックデバイスを使ってモデリングの方法を学ぶ。

先輩クリエイターやサポーターによる、アートの制作現場で役立つ情報をお届けします。


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FabLab Setagaya at IID

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2017.01.04

自分の手で制作してきたアーティストは、デジタル技術とどのように向き合っていけば良いのでしょうか。デジタル工作機械によって表現の幅を広げる手段を模索する、市民工房の「FabLab Setagaya at IID(ファブラボ セタガヤ アット アイアイディー)」と美術ギャラリー「八犬堂(はっけんどう)ギャラリー」が行うアーティスト支援プログラムを取材しました。


講師の布山浩司さん(奥)と、アーティストの山田勇魚さん(手前)。ペン型3Dハプティックデバイスを使ってモデリングの方法を学ぶ。

ギャラリーと工房が協働するアーティスト支援

旧池尻中学校をリノベーションし、3階建ての建物に約50のクリエイティブなオフィス・SHOPが入居する「IID 世田谷ものづくり学校」。入り口近くの教室に、3Dプリンター、レーザーカッター、3Dスキャナーなどの工作機械がところ狭しと並べられた「FabLab Setagaya at IID(以下、ファブラボ世田谷)」があります。最新のデジタル工作機械を誰でも借りることができる工房です。

2004年に開設したIID 世田谷ものづくり学校。各教室は、オフィスとして利用されるほか、ワークショップ、展示、セミナーなどを行うイベントスペースとしても活用。

デジタルが加わることで立体表現の幅が広がらないだろうか。その実験的な試みとして、ファブラボ世田谷が同じフロアにスペースを構える八犬堂ギャラリーとアーティスト支援プログラムをこの春から協働で始めました。教育、3Dメディアを専門に大学で研究する布山浩司(ぬのやま・こうじ)さんが講師となり、八犬堂ギャラリーの所属アーティスト5名がデジタルを使った作品制作に挑戦しています。

参加している5名は、いずれもギャラリーや百貨店で展示を行うなどキャリアを積んでいる若手アーティスト。立案者の一人、八犬堂ギャラリーの横井誠二(よこい・せいじ)さんは言います。
「美大を卒業しアーティストとして活動し実績を残すためには、より多くの方に作品を見ていただくことがとても重要です。そういった目的を果たす一環として、今回のプログラムで制作面から作家のバックアップができればいいと考えています」

2010年にスタートした八犬堂ギャラリー。若手作家を中心とした作品の展示・販売のほか、美術品の撮影、展覧会のパンフレットや図録のデザインなども行う。

デジタルによって広がる表現の幅

プログラムに明確なカリキュラムはなく、4月から毎週1回、2時間ほど講習を開いています。
「受講しているアーティストは、デジタル技術をどのように有効活用すればいいかわからない人がほとんどでした。まずはデジタルの基礎知識を習得し、個別に打ち合わせをしながらその人に合った活用方法を探るところから始めました」と布山さん。

アーティストにとって、デジタルを使うことで具体的にどのような飛躍につながるのでしょうか。
「ある人形作家は、普段は人形の関節部分を複数のパーツから組み立てていますが、複雑な造形ができる3Dプリンターでは、それらを一つのパーツに集約できます」
コンピューターの利用によって手作業ではできないことが可能になったり、複製ができたり、と表現の幅が広がっていく、と布山さんは言います。

手書きの文字をスキャナーで取り込み、レーザーカッター(左)で切り出したオリジナルのハンコ(右)。

アーティストとして生きていくために

受講生の一人、山田勇魚(やまだ・いさな)さんは、透き通った樹脂の中に建物や船の模型を閉じ込めた作品で、海外でも注目を集めるアーティスト。現在は東京藝術大学で教育研究助手を務めながら作品制作をしている山田さん。今回のプログラムを受講したのは、今後の作家としての生き方を考えてのことでした。

「いまは大学の仕事があるので学校の設備が使えますが、任期が終了したら使えなくなります。また立体作品はコストがかかる割には著名な作家でない限り、なかなか高値がつきません。大学の任期が終わっても生活ができるよう、良い意味での作業の効率化と、作品の幅を広げるために今回応募しました」

山田勇魚《帰港8-01》2016年(幅18.5cm、樹脂成型)

クジラをかたどった「帰港」シリーズでは沈没船がクジラの姿となって港へ帰っていく、というストーリーを込めている。

山田さんのように大学の仕事を得ていても、どのように生きていくか、アーティストは常に問われ続けています。

「現在、樹脂に入れている模型は、建築模型や食玩などの既製品です。これまでは作品に合う既製品を探さなくてはなりませんでしたが、3Dプリンターを使えば、自由なサイズや形をつくることができる。3Dスキャナーを使えば、複製もできるでしょう。いろいろな可能性が広がることが楽しみです」

プログラムは実験段階ですが、丁寧な個別指導とアーティストの熱意によって、大きな成果となるでしょう。ファブラボ世田谷には誰でも参加できるワークショップも多数開かれていますが、要望のある講習も新たに開講できるそうです。このソフトを使いたい、この機械を使って作品をつくりたいというアーティストはぜひ相談してみてください。

左から、布山さん、山田さん、八犬堂ギャラリーの横井誠二さん。山田さんは二子玉川アレーナホール&サロンで開催のグループ展「見参ーKENZAN 2017」(2017年9月16日~18日)に出品。

文・構成:佐藤恵美
Photo: 中川周

FabLab Setagaya at IID(ファブラボ セタガヤ アット アイアイディー)
住所:東京世田谷区池尻2-4-5 IID 世田谷ものづくり学校 116号室

[お問い合わせ]
◎TEL:03-6804-0200
◎E-mail:setafab@r-school.net
◎時間:11:00-19:00(18:00最終受付)
◎休業日:月曜日

http://fablabsetagaya.com

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