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稽古場を利用する

アーティスト・サバイバル・メソッド

No.005
小スタジオで稽古するFUKAIPRODUCE羽衣の様子

先輩クリエイターやサポーターによる、アートの制作現場で役立つ情報をお届けします。


稽古場を利用する
水天宮ピット(中央区)

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2017.01.05

劇団にとって、稽古場を確保することは大きな課題です。今回は、6つのスタジオや制作室を備えた稽古場である水天宮ピット(正式名称:東京舞台芸術活動支援センター)にスポットを当て、稽古場の活用術について紹介します。東京芸術劇場が運営を担うこの場所は、プロから若手まで演劇やダンスなどさまざまな舞台芸術を行うクリエイターの交流・創造の拠点となっています。今回は施設及び公演本番を控えて稽古を行う2つの劇団、大人計画とFUKAIPRODUCE羽衣(フカイプロデュースはごろも)を取材しました。


小スタジオで稽古するFUKAIPRODUCE羽衣の様子

実寸で舞台セットを組むことができる「大スタジオ」

東京都心、隅田川が3つに分かれる中州のほど近くにある水天宮ピット。敷地内には、都立日本橋高校の旧校舎を利用したスタジオと新設された大スタジオがあります。新設された大スタジオではこの日、俳優で演出家の松尾スズキさん率いる劇団・大人計画の舞台美術のセットが組まれていました。稽古が始まる前の静かなスタジオにお邪魔しました。

「1カ月以上前からここで美術のセットを仕込んで稽古しています」と説明してくださったのは制作スタッフの方。「これは仮のセットですが、稽古をしながら演出家と舞台美術家が相談し、この後さらに舞台を作り込んでいきます」。

大スタジオは約260㎡の広さに、6mの高さを誇る水天宮ピットで一番大きなスタジオ。舞台美術を公演会場と同じサイズで組めるのもこの広さと高さがあるからこそです。

大スタジオで稽古中の『業音(ごうおん)』のセット。「わかっちゃいるけどやめられない」といった人間の“業”に焦点を当て、悲劇と喜劇が入り乱れ不協和音のような音楽を響かせていくような作品『業音』。2002年に初演し、今年はパリを含め6都市で公演

元高校の教室を利用した「中スタジオ」

続いて3階建ての元校舎へ。ここには中スタジオ、小スタジオ、ミーティング・スペースやシャワー室などが完備されています。2階の小スタジオ1では、女優の深井順子さん率いるFUKAIPRODUCE羽衣が稽古の真っ最中。

FUKAIPRODUCE羽衣は、歌と踊りを中心にしたミュージカルならぬ「妙(みょう)ージカル」という舞台で注目される演劇集団です。

入り口を入ると券売機が(左)。事前予約をした団体はここで利用券を購入し、追加でスタジオを借りることも可能

教室を改修した約50㎡の広さの小スタジオは、リノリウム(ビニールの黒い床材)に白い壁。全体の4分の3ほどのスペースを舞台に見立て、7名の役者が輪になってポジションやステップの確認が行われていました。観客席側に3つ並んだ長机の中央に座っているのは、劇作家で演出家の糸井幸之介さん。

「ではやってみましょうか」と糸井さんが声をかけ、音楽がかかると、役者の顔つきがさっと変わります。一定のリズムのBGMを背景にモノローグ(一人語り)が続き、ある場面で一斉にダンスが始まる、というメリハリのあるシーンが展開されたかと思うと、一旦中断してもう一度。何度も同じシーンを繰り返し、わずか15分ほどの間にみるみるうちに演技がブラッシュアップされていきました。

小スタジオで、数週間後に本番を控えた新作『瞬間光年』の稽古をする出演者

新しいクリエイションに欠かせない稽古場とは

これまで何度も水天宮ピットを利用してきたFUKAIPRODUCE羽衣。忙しい稽古の合間をぬって、代表の深井さんがインタビューに応えてくださいました。

「私たちの公演は歌や踊りが中心ということもあり、やはり稽古の際に周囲へ音が漏れることが気になります。でも水天宮ピットではそれを気にせず、のびのびと稽古ができるのでとてもありがたいです」

地域センターを使用することもあるそうですが、音の問題から周辺環境を気にしてしまう、と言います。

FUKAIPRODUCE羽衣の代表で女優の深井順子さん

公演前に1カ月ほどまとめて借りて、稽古にあてることが多いそうです。

「地域センターは帰るときにはいちいち片付けなければなりません。ここでは借りている間は舞台セットや小道具を置いたままにできますし、立ち位置などを示すテープも床に貼ったままで帰れます。各スタジオには制作室も付いていて、そこで制作担当が制作業務や衣装を作るなどの作業もできる。役者も同じ場所で毎日練習できるので集中力も上がると思います」

水天宮ピットは、公営(指定管理者:東京都歴史文化財団)ということもあり利用料金が比較的安価な点も大きなポイントでしょう。限られた予算のなか、一つの公演に対して稽古場にどのくらいの予算をかけられるかはどの団体にとっても切実な問題なのです。利用価格が抑えられている一方、誰でも使えるわけではなくスタジオの長期利用には審査があります。「初めて審査に通ったときは私たちも認められた気がして嬉しかった」と深井さんは言います。

スタジオのほか、休憩したり飲食をしたりできる「サロン」(左)、取材や会議などに使える「アーティスト・スペース」も備える。廊下には大きな鏡も(右)

演劇・ダンスなど舞台芸術人口の多い東京。「稽古場はまだまだ足りないと感じます。水天宮ピットのような場所がもっと増えてほしいです」と深井さん。常に新しいことに挑み続けるFUKAIPRODUCE羽衣のようなクリエイターにとって、創作を生み出す稽古場は必須です。水天宮ピットのような条件を揃えた稽古場が増えれば、東京のクリエイションはさらに勢いを増すのかもしれません。

FUKAIPRODUCE羽衣の新作『瞬間光年』は、物語は一定のリズムが流れているなか役者のモノローグが積み重なり、お芝居が進んでいく

Photo:金子愛帆

Text:佐藤恵美
Photo: 中川周

水天宮ピット(東京舞台芸術活動支援センター)(すいてんぐうぴっと)
◎住所:東京中央区日本橋箱崎町18-14
◎TEL: 03-6661-6901
◎E-mail:s-pit@geigeki.jp
https://www.geigeki.jp/suitengu/
水天宮ピット(東京舞台芸術活動支援センター)(すいてんぐうぴっと)

[今回取材した劇団の作品]
大人計画『業音(ごうおん)』
大人計画公式サイト
http://otonakeikaku.jp

FUKAIPRODUCE羽衣『瞬間光年(しゅんかんこうねん)』
FUKAIPRODUCE羽衣公式サイト
https://www.fukaiproduce-hagoromo.com/

[1日の利用料金]
大スタジオ(約260㎡):96,000円
中スタジオ1(約120㎡):26,000円
中スタジオ2(約71㎡):16,000円
小スタジオ1・2(約50㎡):3,000円
小スタジオ3(約40㎡):2,000円
ミーティング・スペース:8,000円

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