ガラス張りのエントランスに迎えられ、ニットで彩られた螺旋階段を上がると「reboot(リブート)」があります。ブースで仕切られたシェアオフィスのようなスペースですが、メンバーは必ずしもパソコンを広げて作業しているわけではありません。活動するのはデザイナーや職人、アーティストたち。
「reboot」は2014年、台東区入谷にオープンしました。仕掛けたのは、まちづくり会社ドラマチック代表の今村ひろゆきさん。元サンダル屋をDIYリノベした「LwP asakusa(ループアサクサ)」(浅草)や、シェアアトリエ「インストールの途中だビル」(品川)なども立ち上げ、既存の建物の利活用により、クリエイティブな活動やネットワークを生んできました。その実績から「reboot」のビルオーナーのメトロ設計(株)が、空いているスペースを街のために一緒に活用しませんか、と声をかけられたそうです。
「東東京エリアで、モノづくりや場づくりをしている人を盛り上げたい、と2010年から活動してきました。『reboot』で目指したのは、クリエイターが24時間365日使えて、音も匂いも大丈夫という場所をつくること。それからクリエイターが活動しやすいような生態系をつくることでした」
音や匂いを発することは、都会のシェアオフィスでは難しいのが現実。ですが「日々さまざまな音や匂いがあるほうが面白いし刺激になる」と今村さんは話します。奥にあるシェアキッチンでお菓子づくりが行われたり、ワークショップスペースではキャンドル教室が開かれたり、革の商品づくりが行われたりと美味しい匂いや癒しの香り、創作する音もするそうです。
「reboot」に入居するのは、革プロダクトデザイナー、ジュエリーデザイナー、日本画家、和紙職人、パペットシアター、行政書士、編集者、アニメーター、グラフィックデザイナーなどあらゆるジャンルのクリエイターたち。このクリエイターの「生態系」を生むため、今村さんはどのような工夫をしているのでしょうか。
「ここに入るための基準はコミュニケーションをキチンと取れる方かどうかだけ。他は特にありません。メンバーは、2カ月に一度のペースで定例ミーティングも行い、メンバー同士を紹介したり、小さな問題が起きてもそこで解決するようにしています」
2年前から入居しているパペットシアター・Utervision Company Japanは、同じメンバーである和紙職人・東京和紙にオーダーメイドで和紙を発注したこともありました。
「私たちにとっての利点は、こうしたコラボレーションが生まれることはもちろん、1階のスペースSOOO dramatic!(ソードラマチック)が地域の方に開いていてパペットの公演に適していることです」と制作を担当しているともい江梨さん。最寄りの入谷駅から近いこともイベントでお客さんを呼びやすい一因だと言います。「パペット公演のチラシの配布や設置先、区の担当者を今村さんに紹介してもらったりしています」と、ともいさん。
メンバー同士はもちろん、地域や外部とつながる機会も設けています。誰でもrebootを体験利用やメンバーとの交流ができる「オープンオフィス」という日をつくったり、1階のイベントスペースSOOO dramatic!(ソードラマチック)で「入谷家の食卓」という一品持ち寄りの交流イベントやトークイベントをしたり。今村さんが「このメンバーに会ってほしい」と思う企業や行政を連れてきて直接紹介することもあります。このようにさまざまな方法でクリエイターを支援する原動力はどこからくるのでしょうか。
「僕は浅草に住んでいますが、まちの影響は大きいかもしれません。モノづくりのまちとは知らなかったけれど、浅草を歩いていると革屋さんから革の香りがしたり、工場の軒先で型抜きされた製品を見たり、と日々モノづくりに出会うんです。また、このあたりはアーティストやクリエイターもたくさん住んでいてどんどん交流の輪が広がり友人が多くできました。それで自然とモノづくりや芸術やデザインが身近に感じ、好きになりました。でも僕は手先が不器用でつくる側になれない(笑)。だから応援側にまわって、モノづくりを楽しむ人たちが活用できる場所と機会を提供することで、この地域全体がいよいよモノづくりや表現活動が盛んになればと思っています」