集まってもらったのは、さまざまな芸術系の学科が揃う日本大学芸術学部の美術学科、演劇学科、映画学科の現役学生4人と、音楽学科を卒業した社会人の2人です。まずは自己紹介と将来の目標を教えていただきました。
喜始 芸術系の学生は、ある程度の目的意識を持って入学してくる一方、大学生活を通じてやりたいことを見つけようとする人が多い[図1]。将来の職業まで具体的に考慮して入学する人ばかりではないですね。入学したてのお二人はいかがですか。
永田 僕が所属する版画専攻でも、まだ将来何になりたいか決めていない人は多いですね。就職だと、出版系を志望する人がいます。僕はずっとペン画を描いていて、将来は絵本作家になろうと思っています。そのために、出版社でアルバイトを考えています。
新田 僕は絵画専攻に所属していますが、絵は油彩でもデジタルでも描きますし、アコースティックギターで曲づくりや文章を書いたりもしています。将来はアートをプロデュースする側になろうと考えています。
喜始 小笠原さんと中澤さんは3年生と4年生ですが、いつ頃、本格的にアーティストになろうと思い至りましたか。
小笠原 1~2年の時は一般企業に就職しようと思っていました。でも3年の5月に商業的な舞台にヒロイン役で出演する機会を得ました。その時にメディアにも取り上げていただいて、役者さんや事務所の方とつながりができたこともあり、「一般企業に就職するのはやめよう」と決心しました。
3年になって進路が現実味を帯びてくると言いますか、具体的に考え始めるようになりますね。
中澤 3~4月から就職活動を始めて、コマーシャルなどの映像制作を行うプロダクションを5~6社受けたのですが、どこも落ちてしまって……。でも落ちた時にそんなにショックじゃない自分がいて、やっぱり映画を撮りたいんだと改めて気づきました。就職活動と卒業制作とを並行して行うのは私には難しいと感じたので、今は卒業制作に集中して、30分の短編映画を制作中です。
喜始 卒業したお二人は、現在は他のお仕事をしながらアーティスト活動をされていますが、その経緯を教えてください。
林 現在、制作会社にアーティストとして登録・勤務という形で、歌の仕事をやらせてもらっています。3年の時に勤務先の会社が主催する学内イベントでシンガーとして参加した時にお声がけいただきました。シンガーソングライターを目指していて、知名度が上がったら事務所と契約しようと考えています。
小針 私はピアニストを目指してずっと勉強してきました。演奏家は卒業後、演奏する機会を待っている人が8~9割なんですね。でも自分から働きかけないと実際に活動するのは難しい。そこで、演奏家が自ら企画・提案できる会社を立ち上げました。今はピアニストとして活動しながら、会社経営のための勉強もしています。
アーティストになる決心をしたきっかけとなったのが、学校で学んだことを実践する場のようです。では、自分の作品を発表したり活動を紹介したりする機会を、学生さんたちはどのように得ているのでしょうか。
喜始 小笠原さんや林さんは、学生時代に外部の人と活動して自分のことを知ってもらったことが、アートに関わる進路決定に繋がっていった。「観客をつくる」ということが大事なんですね。そういった、実際に現場で活動するための情報はどこで得ていますか。
中澤 サークルのOB・OGから紹介されることが多いですね。女子美術大学付属の高校に通っていたのですが、高校時代の友人の紹介で商業的な現場に手伝いに行ったこともあります。
林 音楽系だと、楽器屋さんやレッスン講師の就職口は紹介されていますが、その他の業種は少ないんです。そうすると、インターネットで就活サイトに登録して探すことになる。音楽を生かせる職業はもっと幅広いはずだと思っています。
新田 美術系だと、掲示板の募集では教員が多いですね。教授からは公募団体への所属を促されることがあります。公募展に出して会員になると仕事がもらえると聞きます。
永田 僕は、SNSに作品を投稿しています。学校で勉強や制作を行って、家では「自分も絵を描く」という人たちとインターネットを通じて交流しています。先日その一人とイベントでライブドローイングを行いました。
喜始 サークルや友人同士の繋がりに加えて、インターネットも情報源・交流手段として重要と言えますね。一方、以前は団体に所属して作家活動を行う人が多くいましたが、今は公募展に出品して仕事がもらえる時代ではなくなってきているようです。学校や団体といった組織内で得られるもの、学べることもたくさんありますが、現代に即したサバイバル術を自分たちで編み出していく必要があるでしょう。
後編では、作品制作から作品を観客に届けるまでに何が必要か、どんなところが不安か、具体的に考えていきます。
(後編に続く)