〈エレベーターガール〉シリーズなどの写真作品で注目を集め、演劇の作・演出も手がける、やなぎみわさんがデザインした、ステージトレーラーを制作するプロジェクトです。演劇作品「日輪の翼」(原作:中上健次)の舞台装置として、照明・音響・スモークなどの機能を備えた台湾独自のステージ「舞台車」を制作。その装飾費用、保管費、移動費や燃料費などに当てるため、そして「大衆文化の中で育った〈移動舞台車〉だからこそ、多くの人の名前を刻むことによって完成される」というやなぎさんの思いから、クラウドファンディングを行いました。車体はクラウドファンディング期間中、ヨコハマトリエンナーレ2014(2014年8月1日~11月3日)にて展示・使用され、実際に見ることができました。
「1万円以上の支援のリターンとして、翼に自分の名前が刻まれました。お金を出すと作品になる、というリターンが魅力的でわかりやすいですね」と大高さん。
プレゼンター(プロジェクトを行う人)は、2013年より京都の元小学校でミニシアター「立誠りっせいシネマ」を運営してきた田中誠一さんなど4人。2017年にこの映画館が閉館するという事態を受け、新しい場所にオープンさせる映画と本屋とカフェを融合させた施設「出町座」の運営資金を募りました。「立誠シネマ」は映画上映だけではなく演技・脚本・プロデュースなどを学べるスクールとしても機能していましたが、学校跡地活用事業により建物の運営を民間事業者に委ねることになったため、撤収が決定します。そこで「地域の映画文化を担う場をなくしたくない」と、さらにグレードアップをして新しいスタートを切ることになりました。
「コレクター(支援者)の属性は3種類。ミニシアターを絶やしたくない映画ファン、地元の人たち、そして昔出町柳に住んでいた元住民たちでした。元住民の方々は、完成した施設を見る機会も、リターンのチケットや回数券を使う機会もないかもしれません。それでも『学生が映画を見る機会があまりなく、将来役立つ体験ができる場所だから応援したい』と多くの支援が寄せられ、目標金額を大幅に上回る資金が集まりました。」大高さんは、文化を次世代につないで行きたいという熱い思いを感じたそう。出町座はオープン以降、映画の制作陣とふれ合えるイベントや上演作品と連動した読書会が開催されるなど、ユニークな文化発信拠点として注目されています。
型破りなケースとして紹介してくださったのが、独自の活動スタイルを貫く映像制作集団・空族(くぞく)による、タイ・バンコクにある日本人専門の夜の街を舞台にした映画『バンコクナイツ』です。大高さんはプロジェクトの申し込みを受け、日本でプロジェクトの告知を行い、90日の期間を設けるよう提案します。しかし、彼らは撮影のクランクインとクランクアップをクラウドファンディングと同期させ、期間は60日間という、“怒りのデスロード方式”と銘打った、自らを追い込むような条件で動き出しました。進捗報告として行った週一回のビデオレターやレポートには、ギリギリの状況で撮影を続ける彼らの姿がありました。ちなみに“怒りのデスロード”は、映画タイトルからとっています。
海外の映画祭でも評価されてきた彼らですが、現代社会の抱える問題に鋭く切り込んできたスタイルを崩さず、長年ファンをやってきた人たちを裏切らない選択だったのです。空族の信念に共感してくれたコレクターたちの応援もあり、目標金額を大幅に超えました。「このようなやり方は彼らにしかできませんが、自分たちは何を伝えたいのかを研ぎ澄ませていった例として勉強になりました」と大高さんは語ってくれました。
「資金を集めることが大前提ですが、お金にも色がある」と大高さんは言います。支援をする側と受ける側の価値観を共鳴させ、プロジェクトを行う意義が問われるクラウドファンディングは、アーティスト自身を見つめ直す機会になりそうです。
Text:浅野靖菜
画像提供:MOTION GALLERY