「SUPER OPEN STUDIO」は、女子美術大学・桜美林大学・多摩美術大学・東京造形大学といった美術系大学が集まる神奈川県相模原市、東京都町田市・八王子市で開催されます。これらの大学を卒業・修了し、周辺のスタジオで活動するアーティストが主体となって運営しています。取材に応じてくださった千葉正也さんと小山維子さんも、それぞれLUCKY HAPPY STUDIOと、REVというスタジオに所属するアーティストです。
先輩アーティストを訪ねる SUPER OPEN STUDIO 2019[前編]
アーティスト・サバイバル・メソッド
No.018先輩クリエイターやサポーターによる、アートの制作現場で役立つ情報をお届けします。
先輩アーティストを訪ねる
SUPER OPEN STUDIO 2019[前編]
アーティストを目指す人々の悩み・疑問を解決するコラム。今回は「制作環境と社会との接点」をテーマに、オープンスタジオに着目します。オープンスタジオは同じスタジオに所属するアーティストが制作現場を一般公開するものですが、10月12日~11月4日に開催された「SUPER OPEN STUDIO 2019」では、23軒のスタジオと100名以上のアーティストが同時期にスタジオ公開を行います。
前編では、この企画の立ち上げメンバーで今回のディレクターも務める千葉正也さんと、同じくディレクターの一人、小山維子(おやま・ゆきこ)さんにお話をうかがいました。
多様な世代・分野のアーティストが集まる場所
――オープンスタジオを企画したきっかけを教えてください。
千葉 なかなか作品を発表する場がなくて、アーティストの組合のようなものをつくりたかったんです。海外の学芸員がリサーチに来ても、美術館の学芸員に作家やスタジオを教えてもらうことが多く、すると特定のアーティストしか紹介されない。そこで、自分たちのようなアーティストが活動している姿をもっと見せたいと思い、オープンスタジオを企画しました。
――相模原周辺にはどのくらいアーティストがいるのでしょうか。
小山 今回参加していないスタジオもありますし、厳密なアーティストの数はもっと多いはずです。
千葉 はじめは自分や友達のスタジオなど数軒しか知りませんでした。実際に開催に向けて動き出してみると、相模原周辺には100軒以上のスタジオがあることがわかりました。しかも、自分と同世代の人だけでなく、この地でずっと活動してきたという50~60代のアーティストもいる。そういった世代の違う人たちに、僕らのような若い世代が新しいことを提案するのは勇気がいりましたね。
――たくさんのスタジオがここに集まっているのはどうしてなのでしょうか。
小山 私は学部を卒業するにあたり、大学院に進むかどこかに制作場所を借りるか考えていて、その時にSUPER OPEN STUDIOのことを知りました。当時お世話になっていたアートラボはしもとの学芸員の加藤さんと一緒に回らせていただいたのがきっかけで、今のスタジオに入ることになりました。
千葉 ここは物流のポイントで倉庫や工場が多い。空いている場所をいろいろな人に貸したそうですが、アーティストが一番きれいに使ってくれるそうなんです。アーティストに理解のある大家さんと良好な関係が築きやすいのも理由の一つでしょうか。
周囲の人との関係性
――地域の人ともいい関係性ができているのですね。違うスタジオのアーティスト同士が交流する機会もあるのでしょうか。
小山 スタジオ同士の関係づくりの一環として、千葉さんはトークイベント「Super Open Dialog」を2016~18年の2年にわたり、月1回のペースで開催していました。異なるスタジオに所属するアーティストが自身の活動について紹介します。でも堅苦しいものではなく、ある時は千葉さんのギター演奏から始まって、その間は自由時間のような雰囲気で(笑)。そうやって少しずつ関係を広げていきました。
千葉 エリアの広さで言うと地方の芸術祭くらいの規模があって、今回は一番遠いところで埼玉県の嵐山町にあるスタジオも参加しています。条件をつくって区切ってしまうと、多様なアーティストたちがいるのにお互い動きが取りにくいし、閉じた集まりになってしまう。それもあって、エリアの上限は定めていないんです。
小山 それぞれ目的もビジョンも違うけれど、年に一度集まって協力する。そのくらいスタジオ間、アーティスト間のつながりはゆるやかです。
千葉 周辺の大学に通う学生がスタジオを覗きにくることもあります。学生にとっても、リアルな将来像が見られるのはいいですよね。
アーティスト活動を次世代へつないでいく
――SUPER OPEN STUDI0は今年で7年目になりますが、その間で変化したことはありますか。
千葉 SUPER OPEN STUDIOではバスツアーも用意していますが、友達や知り合いを自分たちの車に乗せて案内することも多いです。そうすると「ここが面白いよ」とか自然にツアーガイドのようなことをするので、案内が上手くなりましたね。
小山 過去のSUPER OPEN STUDIOで公開制作の手伝いに来ていた高校生が美大生になってバスツアーに参加したり、同級生が別のスタジオに入ってきたり、何年か続いているといろいろな人のつながりがあって面白いです。
千葉 それと、オープンスタジオはニューヨークやロンドンでは当たり前に行われていますが、7年前の日本では、まだ一般的ではありませんでした。また、東アジアでは美大を卒業したアーティストが地元のアートシーンを引っ張っていく、自分一人が活躍するのではなくみんなで盛り上げていくのが主流なんです。SUPER OPEN STUDIOもそういった場所になって行けたらいいですね。
若いアーティストのスタジオも増えてきましたし、今後は小山さんのような若い世代に引き継いでいければと考えています。
小山 千葉さんは「50年続けるのが目標」とよく言っています(笑)。
美術系大学が近くスタジオに使える物件が多い立地はもちろん、それぞれのアーティストがお互いの存在を程よく感じられる距離感が、のびのびと活動を続けられる秘訣なのかもしれません。
後編では、いくつかのスタジオを巡って先輩アーティストたちに会いにいきます。
Text:浅野靖菜
Photo:稲葉真
SUPER OPEN STUDIO 2019
日程:2019年10月12日(土)~11月4日(月・祝)
場所:神奈川県相模原市、東京都町田市・八王子市、埼玉県比企郡嵐山町
主催: SUPER OPEN STUDIO 2019 実行委員会(Super Open Studio NETWORK・アートラボはしもと)