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先輩アーティストを訪ねる SUPER OPEN STUDIO 2019[後編]

アーティスト・サバイバル・メソッド

No.019
オープンスタジオの他にも、参加アーティストが企画した展覧会を、アートラボはしもとと東京造形大学 CSLABで開催。トークイベントなども行われた

先輩クリエイターやサポーターによる、アートの制作現場で役立つ情報をお届けします。


先輩アーティストを訪ねる
SUPER OPEN STUDIO 2019[後編]

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2019.12.18

神奈川県相模原市を中心に開催される「SUPER OPEN STUDIO」では、例年20軒以上のスタジオが一斉に公開され、普段見ることのできない制作現場や作品を見ることができます。オープンスタジオは若手アーティストにとって、世代や表現、制作環境や活動の仕方もさまざまなアーティストの話を直接聞くことができる、貴重な機会です。

プロジェクト立ち上げの経緯を企画者に伺った前編に続いて、後編では、5つのスタジオの先輩アーティストに、スタジオに所属するメリットや自身の制作について、後輩へのアドバイスなどをいただきました。


LUCKY HAPPY STUDIO

かつて植木屋の事務所だった場所を多摩美術大学の卒業生が改装して出来たスタジオです。4つの建物に絵画や木彫作品などを制作する9人が所属しています。

高山陽介

周りに民家がないので、音を気にしなくていいですね。オープンスタジオでは美術関係者だけではなく一般の人も、いろいろな人に会えます。

木彫を制作する高山さん。スタジオには木材加工用の大きな機械が置いてある

相原スタジオ

2016年に店舗用の一軒家を改装してオープン。現在は20代半ばの4人が油絵などの平面作品や造形作品、インスタレーションなどを展示しています。

元鳥専門のペットショップ兼住居を使用
1階の仁禮洋志さんの制作スペース

小川潤也

隣に座っている渡辺実さんは、僕が介助の仕事をしているCIL(自立生活センター)の利用者です。コーヒーが好きで、CILでは月一回、内外部の人にコーヒーを振る舞う「ほっとカフェM」を開催しています。スタジオ解放中の3日間、パフォーマンスとして同じようにコーヒーを振る舞っています。

品川はるな

1階と2階で二人ずつスペースを割り振っていますが、大きいスペースが必要な人がいたら譲り合ったりもしています。

星伶音

私は今回、作品制作に使用する鹿の皮と薬莢(やっきょう)を展示しています。この鹿の皮は自分で鞣(なめ)したんですよ。

コーヒーを淹れる小川さん(右)とそれを見つめる実さん(左)
2階を使用している星さん(左)と品川さん(右)。左奥の床に置かれているのが星さんの作品、右上は絵具をキャンバスから引き剥がした品川さんの作品

TANA Studio

2006年に設立したスタジオで、4人のアーティストが所属しています。スタジオでは音楽を流しながら活動しているそう。
https://tanastudio.tumblr.com

スタジオ外観

井出賢嗣

今は制作が始まっていないので、制作環境のみを見せています。ここで制作するというよりは、メールチェックをしながらアイディア出しをして、思いついたらデスクでちょっと作業してみて、制作が始まるとアトリエの広い場所に素材を広げていきます。

別棟の2階では、メンバーの斎藤玲児さんの作品を展示しています。ここは大家さんの息子さんが仕事の合間休憩するための部屋で、大家さんのご好意で使わせてもらっています。

井出さんは、千葉さんとともにオープンスタジオを企画した一人。お客さんが来るたびに、その人に合う曲を選んで流してくれる
斎藤玲児さんの展示。置いてあるレコードはすべて大家さんの息子さんのもの

studio kelcova

自動車修理工場だったガレージを改装し、2010年の7月にオープン。3人のアーティストがペインティングと立体作品を制作しています。
https://www.facebook.com/Studio-kelcova-1376534492589908/

久野真明

一昨年までアートラボの職員をしながら、今は一般企業に勤めながら作品制作を続けています。家でも制作はできるのですが、スタジオに来ることで気持ちが切り替わって何か思いつくこともある。何より他のアーティストの活動を見て勇気づけられるというか、孤独な気持ちが和らぐんです。

久野さんの制作時間は、主に週末の土日だそう

REV

2010年に大学院を修了した7人で始めたスタジオで、現在では9人が絵画を中心に制作をしています。オープンスタジオでは、ゲストに鹿野震一郎を迎えて展示を行いました。
http://www.rev-studio.com

佐藤修康

大学卒業後は、今回のオープンスタジオにも参加しているSTUDIO 牛小屋に所属し、その後ドイツに渡って、帰国してからREVに所属しました。ギャラリーに在籍していた時期もあったのですが、締め切りなど制約もあって、3年くらいで辞めてしまいました。

今は作品制作が生活の一部となって、自分が信用できるものをゆっくり突き詰めて描ける環境です。

松本菜々

オープンスタジオが周知されていくにつれて、大学関係者だけではなく美術関係者など、今まで会ったことのない人が来てくれるようになりました。

学生時代に自分にしか出せない味みたいなものを自覚することが大切で、昔から持っていた「自分の味」と新しく得たものが混ざり合っていけばいいなと思います。

活動の仕方や拠点を変えながら、少しずつ自分の信用できる表現を獲得していった佐藤さん
松本さんはスタジオ創立以来のメンバーで、内装はメンバーが半年かけて整えていったそう

水口鉄人

はじめは最小限の表現を施したシャープな作品をつくっていて、その時はお客さんからの反応は特になかったんです。だんだんと今のようなカラフルな作品をつくるようになって「楽しそうだね」と言ってもらえるようになりました。

REVはギャラリーのような空間で居心地がいいですね。

「作品の意味が伝わらなくても、面白い、ちょっと気持ち悪い、など、感じたことを聞かせて欲しい」と水口さん

山根一晃

僕は日本各地のアートセンターやアート・コレクティブ(制作や生活を共有するアーティスト集団のこと)をリサーチし、ネットワークをつくるプロジェクトに参加しています。日本のアート業界には、「フルタイムのアーティストとして活動するのが難しい」「国内マーケットが弱い」「東京中心の美術動向」といったさまざまな問題があります。そういった問題を、アーティストや学芸員、キュレーター、ギャラリストが、まずそれぞれの立場を取り払ってともに考えていく場所をつくれないかという目論見です。

今回はその一環で、愛知で開催しているアートプログラム「Minatomachi Art Table, Nagoya」と香川の「竹二郎三郎 丸亀」を紹介しています。

日本のアート業界を改善していくためにも、今の活動を細く長く続けていきたいと語る山根さん。後ろは「竹二郎三郎 丸亀」に所属する竹崎和征さんの作品

Text:浅野靖菜
Photo:稲葉真

今回お話を聞いたアーティストの皆さんは、地域の人々や仲間のアーティストと関係性を築きながらも、自分のペースで制作をしているようでした。日常と程よい距離感のある制作環境や仲間たちの存在が、アーティスト活動を続ける大きな糧となっているのでしょう。

〈芸術系大学の学生の進路について研究する喜始照宣先生のコメント〉

アーティスト志望であっても、芸術系の学校卒業後しばらくして作品制作や表現活動に対するモチベーションが低減してしまう場合は少なくないようです。その理由の一つとして、作品をつくり発表し、それに対して他者から反応を得るというサイクルが回らなくなることがあるようです。予備校、大学時代であれば、同じ目標・関心を持つ人々が周囲におり、自然と表現者の共同体に身を置くことができました。そしてそのなかで、今回紹介されたオープンスタジオのような“ゆるやかなアーティスト間のつながり”が形成されていました。しかし、卒業後は自ら意識的にそうした環境を用意しなければならなくなります。アーティスト活動の継続の問題は、才能やスキル、意欲といった個人的な要素に還元されがちですが、それらを高め維持させるための環境を(他者と協働して)いかに築き上げるかも大事な事柄だと言えます。

喜始照宣(きし・あきのり)
1987年生まれ。園田学園女子大学人間健康学部助教。東京大学大学院教育学研究科博士課程満期退学。専門は教育社会学。

Tokyo Art Navigationでの座談会の様子はこちら
リンク先:https://tokyoartnavi.jp/method/index014.php

SUPER OPEN STUDIO 2019

日程:2019年10月12日(土)~11月4日(月・祝)

場所:神奈川県相模原市、東京都町田市・八王子市、埼玉県比企郡嵐山町

主催:    SUPER OPEN STUDIO 2019 実行委員会(Super Open Studio NETWORK・アートラボはしもと)

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