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多様な人々が共存するために 東京都庭園美術館のフラットデー〈後編〉

SDGs × アート

No.006
東京都庭園美術館「ベビーアワー」の様子

東京都庭園美術館で行われている「フラットデー」は美術館に行くことに不安がある人も気兼ねなく来館できる日です。前編では障害のある方もゆとりを持って鑑賞できる「ゆったり鑑賞日」について、ツアーを担当するアート・コミュニケータにお話を聞きました。後編では、赤ちゃん連れの方がベビーカーのまま鑑賞できる「ベビーアワー」を中心に、美術館の担当者の話を交えながら取り組みに迫ります。


(前編はこちら)

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2024.12.03

赤ちゃん連れでも気兼ねなく来館できる

東京都庭園美術館の「フラットデー」は、誰もが安心して美術館に訪れることができるように行われている取り組みで、「ゆったり鑑賞日」と「ベビーアワー」の2種類があります。ベビーアワーは、普段はベビーカーが入れない本館に、特別にベビーカーのまま赤ちゃんと入ることができる日です。ゆったり鑑賞日と同様に、アート・コミュニケータが1組につきひとり付き添い、話をしながら展覧会を鑑賞する事前申し込み制の「ベビーといっしょにミュージアムツアー」も行っています。

取材をしたツアーの回の参加者には4カ月の赤ちゃんも。アート・コミュニケータは手にパペットを着けて、あやしながらツアーをまわっていた

アート・コミュニケータとの事前ミーティング

フラットデーは、東京都庭園美術館の教育普及担当の大谷郁さんと、社会共生担当の増田万里奈さんが中心となり運営しています。
ベビーアワー開催日に行われる「ベビーといっしょにミュージアムツアー」の参加者はまず、本館1階のウェルカムルームで受付をし、ここから出発します。集合しているアート・コミュニケータの中には、パペットを手に着けた人、人形をサコッシュにぶら下げている人などがおり、小さなお子さんに対応する準備が整っていました。大谷さんも受付を担当し、ツアー参加者とアート・コミュニケータの顔合わせに立ち合います。ツアーをするアート・コミュニケータとは、事前に打ち合わせを行なっているとのこと。「アート・コミュニケータには、展覧会ごとに、事前にオンラインで情報を共有し、運営について確認を行う機会を設けています。展覧会の担当学芸員も趣旨や見所などをレクチャーし、質問などにも応じます。アート・コミュニケータの方々が展覧会を下見するための期間も設けています」と大谷さん。

指人形と、取材日に近かったハロウィン仕様のパペットを用意し、準備万端。10年以上活動するベテランのアート・コミュニケータも

取材日当日は、小さなお子さん連れの方が多く来館していました。通常はベビーカーを使用できない本館にも、この日はベビーカーで入ることができるからです。
ベビーアワーの来場者には、「ママ友にベビーアワーを教えてもらい、赤ちゃん連れでも受け入れてくれそうな雰囲気だと思い初めて参加した」という方や、「東京都庭園美術館のInstagramで知り、初めて子ども連れで美術館に来た」という方が多くいらしていました。
ツアーに参加した方に感想を聞くと、「アート・コミュニケータと一緒に回ることで、ランプやラジエーターレジスター(暖房器用カバー)の一部屋ごとのデザインの違いなど、細かいところをより見ようという気持ちになりました。以前もベビーアワーに来たことがあるのですが、この前よりも詳しく、また違う観点で、この美術館を楽しめました」という話を聞けました。

「展示物には触れられませんが、ウェルカムルームに触って遊べるスペースがあったので、子どもも満足していました」と語るお父さん。ツアーを担当するアート・コミュニケータも付き添う

美術館スタッフによる見守り

大谷さんは、「監視スタッフや警備の方は、この美術館のことをよくわかっている人ばかりです。そういった人が段差やコーナーの近くに立ち、お声がけや見守りなどのケアをしてくれています」と言います。段差の前に立っていた監視スタッフに話を聞くと、「車椅子は操作に慣れている方もいらっしゃるのですが、ベビーカーだとこの段差が難しいことがあるので、こちらで誘導しています」とのこと。

ベビーカーが安全にスロープを上がれるよう見守るスタッフ

運営面での課題も

しかし、運営面での課題は残っており、特にフラットデー当日は一般の方も事前予約のみとなっていることの周知が難しいようです。事前にチケットを買わないと入館できないという趣旨を来館者に理解していただくため、チケット売り場で担当者が説明することも。「ウェブやSNSでの告知は特にご年配の方に届けにくく、情報格差にも配慮しなくてはいけないと気づきました。今後も引き続き、周知の方法を模索し、改善していきたいと思っています」と増田さんは言います。

ベビーアワーの開催時間中は、ゆとりのある環境でベビーカーを走行しながら鑑賞できる

さまざまな人が共存できる美術館へ

最後に、フラットデーを担当する増田さんと大谷さんのお二人に、フラットデーが今後目指す方向性について聞きました。

増田さん「フラットデーは通常開館日に行なわれ、以前のように休館日に開催していたときでは出会わなかった多様な人たちと出会う環境になっています。フラットデーを開催することで、さまざまな人が美術館を訪れて共存できている状態を目指していくという意識を、美術館に関わるスタッフたちが持てることに意義を感じていますし、これからも常にその意識を持ち続けていきたいです」

大谷さん「どうしても混む展覧会もあり、運営に苦慮することも数多くあります。しかし、みんながいつでも美術館で共存できる状態を目指したいと思っています。学芸員や現場に立つスタッフなど、私たち迎える側も、このようなプログラムがあることで、普段はなかなか気づけないことを改めて考える機会にもなっています。そういう意味でも、今後もフラットデーを続け、私たち職員やスタッフの意識を更新することにも意義があると思っています」

フラットデーの実施には、美術館の各セクションの連携や意識の共有が不可欠です。全国でも先駆的な取り組みとして2023年から本格的に始動した、すべての人に開かれた美術館の挑戦。この取り組みの継続と発展が楽しみです。

フラットデーを担当している学芸員の大谷郁さん(左)と増田万里奈さん(右)

Text: 吉田杏
Photo: 小野博史

東京都庭園美術館 「フラットデー ー障害のある方も赤ちゃん連れの方も、誰もが気兼ねなく来館できるプログラム」

主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都庭園美術館
開催場所:東京都庭園美術館
住所:東京都港区白金台5-21-9
https://www.teien-art-museum.ne.jp/visit/gallery-day/

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