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新しいアート拠点 アーティゾン美術館

新しいアートスポット

No.001
アーティゾン美術館外観(写真提供:アーティゾン美術館)

2020年1月18日、ビジネスパーソンが行き交う京橋に、新しくアーティゾン美術館が誕生しました。同館は65年以上にわたって同地で活動を続けてきた前身のブリヂストン美術館が所蔵する石橋財団コレクションとその活動内容を引き継ぎながら、「創造の体感」をコンセプトに新しいアートの見せ方や美術館のあり方を提案しています。6月23日(火)~10月25日(日)まで開催している二つの現代美術展とコレクション展とともに、その取り組みをレポートします。


アートと文化の地平を拓く

アーティゾン美術館が建つ京橋は、江戸時代には職人の街として栄え、昭和には画廊や古美術商などが集まるエリアとなりました。現在、その地を舞台にアートや文化を核にした新しい街づくりを目指す「京橋彩区」プロジェクトが進行しています。アーティゾン美術館は、2024年の「京橋彩区」グランドオープンに先立ち、開館しました。

前身となるブリヂストン美術館は、実業家の石橋正二郎が収集したコレクションを公開するため、1952年に同地に開館、その運営母体である財団法人石橋財団は1956年に設立されました。京橋の一等地にある敷地と、モネやルノワールといった印象派や青木繁をはじめとする日本の近代洋画家の作品で親しまれてきたコレクションを受け継ぎ2020年に新しく誕生したのがアーティゾン美術館です。館名のアーティゾン「ARTIZON」は、「ART」と「HORIZON」(ホライゾン:地平)を組み合わせた造語です。幅広い世代、地域のお客様に対応する「多様性」、印象派中心のイメージから脱却し、新しい時代の夜明けを感じさせる「先取性」、既存の枠組みだけでなく、異なるものがぶつかり合うことで創造されるアートの新しい地平を目指す「開放性」、そして外国人にも理解しやすい「国際性」。この4つの基準から命名された館名は、同館の目指す新しい美術館像を示しています。

現代のニーズに対応したシステム

美術館は、地上23階建ての「ミュージアムタワー京橋」の低層階にあり、1~3階がカフェやショップ、4~6階が展示室ゾーンです。展示室は約2,100㎡、天井高も4.2mと、大掛かりな現代美術の展示もできる広さとなり、複数階に分かれていることで企画展とコレクション展が同時に開催できるようになりました。館内の隅々には、来館者への細やかな配慮が見受けられます。来館者を誘導する館内サインは、極細のLEDを用いた「スリットライト」により、文字やピクトグラムが浮き上がり、目に入りやすくなっていました。

デジタル化の取り組みも先進的なものがあり、ITを駆使したさまざまなサービスも提供しています。例えば、所蔵作品や展覧会に関する画像やデータへは、館内の端末でアクセスできます(感染防止のため現在休止中)。アーティゾン美術館の公式アプリをスマートフォンにダウンロードすれば、所蔵作品の音声ガイドや作品解説を楽しむことも可能です。また、チケットはオンラインでの「日時指定予約制」を採用し、枚数に余裕がある時のみ、窓口でも当日分のチケットを販売しています。来館者がじっくりと作品に向き合えるようにという意図からで、日本の美術館では早期の導入となりました。

展示だけでなく幅広い層への教育普及活動にも取り組んでおり、大人から子どもまで、学校や企業など幅広い層を対象にしたプログラムが用意されています。

1階部分。御影石の壁や人造大理石の床など異なる素材がシックな色合いで統一され、極細のLEDを用いた館内サインも軽やかな印象

さらに充実した古今東西のコレクション

4階のコレクション展では、新収蔵品を軸とした「印象派の女性画家たち」「新収蔵作品特別展示:パウル・クレー」の二つのコーナー展示が、企画展と同時期に開催されています。印象派を代表する女性画家ベルト・モリゾ、メアリー・カサット、マリー・ブラックモン、エヴァ・ゴンザレスの新収蔵作品5点によって、石橋財団の印象派コレクションはさらに厚みを増しました。クレーの作品は既存の3点から27点と大幅に増えたことで、抽象・具象、色彩の明暗など表現の多彩さに気付くことができます。

もともと石橋財団の所蔵作品は、ギリシアやエジプトの古代美術から近代の印象派や日本の洋画家の作品まで、幅の広さが特徴的でした。2015年から開館までの間に、オーストラリアの作家、日本の近世美術、現代美術を含む184点(2019年9月末時点)の絵画・造形作品と約1,200点の芸術家肖像写真コレクションを新たに迎え、さらに多種多様なコレクションとなりました。コレクションの総数は現在約2,800点に及びます。

「印象派の女性画家たち」では、ベルト・モリゾの師で義兄のマネ、マリー・ブラックモンの夫で版画家のフェリックスなど、関連人物の作品も展示されている
「新収蔵作品特別展示:パウル・クレー」のコーナー。モチーフは図形・記号から人物まで、色彩も暗いトーンやパステルカラーなど、豊富なバリエーションに驚かされる

アーティストの創造力を体全体で味わう

企画展示でも、現代美術家とコラボレーションした意欲的なプロジェクトが今年から始まり、新しい視点や感覚の解放を味わうことができます。6階の「ジャム・セッション」は、石橋財団コレクションと現代美術家の共演による展覧会で、今年から毎年1回開催される予定です。第1回目の鴻池朋子さんの展示では、薄暗い展示室の中、映像作品から鴻池さんの歌声や動物のような鳴き声が聞こえ、周囲には熊や狼の毛皮、ビニール紐などがぶら下がる通路が巡らされています。広報担当者によると、展示室中央の滑り台から襖絵の前に飛び込むことで、感覚がリセットされて新たな気持ちで作品を見ることができるそうです。

会場には、所蔵作品の19世紀フランス絵画が3点展示されています。鹿狩りや農場の様子、森への薪拾いを描いた作品と鴻池さんの作品とが共鳴し、人の営みや自然との関わりがより一層感じられます。

ジャム・セッション 鴻池朋子 ちゅうがえり 展示風景

もう一つの企画展は、5階の「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展 Cosmo-Eggs|宇宙の卵」です。ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展は、イタリアのヴェネチアで2年に一度開催される現代美術の国際展で、パビリオンごとに各国のアーティストが展示を行います。その日本館の建築を石橋正二郎が建設寄贈した歴史的背景もあり、今回の帰国展が実現しました。

作品は、美術家、作曲家、人類学者、建築家という異なる分野のアーティストの協働により制作されました。その起点となったのは、イベント・レポートNo.058で紹介した「Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)」の第1回受賞者で美術家の下道基行さんによる、大津波で海底から陸上に運ばれた津波石をモチーフとした作品群です。日本館を再現した空間には、大きなタンポポの種子のようなオブジェを取り囲むように、津波石の映像を投影したスクリーンが置かれています。種子の部分、大きなオレンジのエアクッションから管を伝っていった空気が、四方八方に設置されたリコーダーに送られ、不思議な音色を響かせていました。壁面には、津波や巨石にまつわる創作神話が刻まれています。

視覚だけでなく触覚や聴覚までも刺激される鑑賞体験は、まさに「創造の体感」でした。

日本館の間取りや床の模様も再現された

京橋を拠点に、多様な人々に向けてコレクションの魅力を発信し、アートを通して新たな世界を見せてくれるアーティゾン美術館。

今後も同館が開拓していくアートの地平と、芸術文化で彩られていく街の完成に期待が高まります。

Text:浅野靖菜
Photo:中川周

アーティゾン美術館
住所:東京都中央区京橋1-7-2
開館時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)、展示替え期間、年末年始
https://www.artizon.museum

日程:2020年6月23日(火)~10月25日(日)
入館料:
日時指定予約制 一般 ウェブ予約1,100円、当日1,500円
高校生・大学生・専門学生 無料(要予約、当日の場合は一般当日チケットの購入が必要)
中学生以下 無料(予約不要)
※入館料のみで以下の同時開催の展覧会すべて鑑賞可能

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子
鴻池朋子 ちゅうがえり
会場:6階展示室

第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展 Cosmo- Eggs|宇宙の卵
会場:5階展示室

石橋財団コレクション選 特集コーナー展示
新収蔵作品特別展示:パウル・クレー
会場:4階展示室

石橋財団コレクション選 特集コーナー展示
印象派の女性画家たち
会場:4階展示室

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