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南千住ぶらり下町音楽祭(南千住)

Next Tokyo 発見隊!

No.003
路地を通って次の会場へ

下町情緒あふれる路地や再開発によるマンション群など、新旧が混在し多様な色を持つまち、南千住。このまちに住む人の日常を非日常に変える「南千住ぶらり下町音楽祭」は、今年で8回目の開催です。主催するNPO法人千住すみだ川を取材しました。


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2018.11.07

⽇慶寺にて、⽩井篤(しらい・あつし)と嶋⽥慶⼦(しまだ・けいこ)によるヴァイオリン⼆重奏
(左)つくばエクスプレス線・南千住駅前に集まった数⼗⼈のお客さんが、オーボエとファゴットの⾳⾊に聴き⼊った
(右)「南千住ぶらり下町⾳楽祭」ディレクターの渡辺佳代⼦(わたなべ・かよこ)さん(写真中央)と、ファゴット奏者の榎⼾絢⼦(えのきど・あやこ)さん

日々の営みに寄り添う音楽を

まちなかの5つの会場を歩きながら、クラシック音楽のステージをめぐる1日限りのイベント「南千住ぶらり下町音楽祭」(2018年10月8日開催)。南千住の北西側には、商店街を中心に古くからのまち並みが残ります。この下町を会場に、国内外の第一線で活躍する5組の音楽家たちが、それぞれ30~40分ずつのプログラムを同時多発的に公演。荒川区の友好交流都市がウィーンであることから2018年は「プロジェクト・ウィーン」というテーマで開催しました。
8年目を迎え、地元に愛されるイベントとなったこの音楽祭を主催するのは、千住地域を中心に活動する NPO 法人千住すみだ川。代表の海老江重光(えびえ・しげみつ)さんは南千住で生まれ育ち、商店街のなかで理容院を営みます。

NPO 法⼈千住すみだ川代表の海⽼江重光さん

「初めて開催したとき、あるお客さんが『公演後に外に出たらまちの表情が変わって見えた』とおっしゃっていたんです。ディレクターの渡辺佳代子さんと始めたイベントでしたが、まちの記憶や日々の営みに音楽が寄り添うような音楽祭になるかもしれない、と可能性を感じました」と海老江さんは話します。
中学校やお寺、駅前などのまちなかに点在する会場をめぐり、クラシックや現代音楽に触れる。30~40分の演奏の余韻を楽しみながら別の会場に向かう道は、たとえ見慣れたまちでも特別な風景に映るかもしれません。

南千住第⼆中学校では、多⽬的室にステージ⽤のスピーカーが4台。クラリネット奏者の⼭根孝司(やまね・たかし)さんと、録⾳技師の野中正⾏(のなか・まさゆき)さんは、クラリネットの多重録⾳のための曲を演奏した

急変するまちから失いたくないもの

「南千住ぶらり下町音楽祭」は初回から渡辺佳代子さんがディレクターを務めます。渡辺さんはオーボエ奏者で、2008年から自身の住む墨田区で下町音楽祭を主催。当時からまちの表具屋や倉庫などを会場にコンサートを行っていました。
「東京スカイツリーの建設に伴いまちが急激に変化するなか、親しんだまち並みや人情といった、大事なものまで消えていってしまうのではないか、という危機感がありました。それでまちなかの既存の建物をめぐりながら下町を歩く音楽祭を墨田区で始めたんです」と渡辺さん。
この会場でNPO法人千住すみだ川のメンバーと出会い、南千住でも銭湯やお蕎麦屋さんを舞台に音楽祭がスタートしました。
回を重ねるごとにファンも増え、いまは運営も地域に根ざしています。当日の受付や誘導を担当しているのは、地元のボランティアや信用金庫のスタッフ。「知り合いが手伝っているから行ってみよう」というお客さんもいます。

路地を通って次の会場へ

演奏の質は一流。ですがコンサートホールなどの会場とは違いカジュアルな服装で参加できるのも大きな魅力です。ディレクターの渡辺さんは「クラシック、バロック、現代音楽などさまざまな音楽を、もっと気軽に聴いてもらえたら。ヨーロッパではまちの至るところで生演奏を聴ける機会があります。何かのついでにふらりと立ち寄ることができる。そんな音楽を聴くスタイルを、これからも広めていけたらいいなと思っています」と言います。

南千住第⼆中学校の別会場では、ピアニストの星野英⼦(ほしの・ひでこ)さんにより、モーツァルトやベートーヴェン、シューベルトなど「ウィーンを愛した作曲家たち」の曲が演奏された

だれでも、いつでも参加できる音楽祭

未就学児は入場できないクラシックコンサートも多いなか、この音楽祭ではだれでもいつでも入場できます。5歳のお子さんを連れたご夫婦は「数カ月前から娘がピアノを習い始めたので、プロの演奏を聴くのもいいなと思い、今日は参加しました。ピアノの生演奏に心地よい時間を過ごすことができました」と話しました。

⻄光寺では、声楽とオペラの3つの公演。最終公演の題⽬は「カルメン」。

メゾ・ソプラノの栗⽥真帆(くりた・まほ)さんが主役・カルメンを、テノールの志⽥雄啓(しだ・たけひろ)さんがドン・ホセを熱演し、ピアニストの経種美和⼦(いだね・みわこ)さんが演奏

また、昔ながらのまち並みや商店が残る南千住。「なつかしいね」「ここで学芸会とかしたよね」と演奏前に話す親子も。会場には高齢のお客さんも多く見られました。クラシック音楽が好きだけれど足が悪くコンサートには行けないため、この音楽祭を楽しみにしている地元の方もいるそうです。

「遠くに行けない方に音楽を届けるということも、この音楽祭の大切な部分です。音楽を誰もが楽しめ、気軽に聴ける機会を増やしていきたいです」と渡辺さんは話します。
下町の風情が残るこのまちで、日常に寄り添い、非日常をつくる「南千住ぶらり下町音楽祭」。普段は南千住に馴染みのないお客さんにとっても、音楽を聴く時間はもちろん、路地を歩き会場を移動する時間にもたくさんの楽しみがあります。曲がりくねった細い道、道行く人との挨拶、軒先に咲き誇る地域の花々。南千住ならではの魅力を発見できるこの音楽祭は、来年も開催を予定しています。

Text:佐藤恵美
Photo:中川周

インフォメーション

第8回 南千住ぶらり下町音楽祭

日程2018年10月8日(月・祝)12:50-17:00
会場南千住の5会場(南千住第二中学校〈2会場〉、日慶寺、西光寺、つくばエクスプレス線・南千住駅)
主催NPO法人千住すみだ川
NPO法人千住すみだ川http://www.senju-sumidagawa.org

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