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東京にも地域ならではの魅力がたくさんあります。知られざる歴史や文化を掘り起こして発信する人たちを取材し、クリエイティブに進化を続ける東京の、ディープな楽しみ方を紹介します。
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新連載コラム「Next Tokyo 発見隊!」の第1回目は、5月に目黒で開催された「寺社フェス 向源」にスポットをあて、主催者である友光雅臣さん(常行寺副住職)にお話をお伺いしました。「寺社フェス 向源」は、宗教や宗派を超え、さまざまな伝統文化をあわせて体験できる、現代向けにアレンジされたイベントです。今回で8回目となるこのイベントは、何がきっかけで始まり、どのような考えで企画されているのでしょうか。
 蟠龍寺(ばんりゅうじ)のお念仏体験
東日本大震災を機に生まれた「向源」
お寺や神社に親しみがあっても、それらを取り巻く文化や宗教には触れる機会が少ないかもしれません。「寺社フェス 向源2018」は、日本の伝統文化や宗教文化を気軽に学べ、体験できる2日間のフェスティバル。茶道や写経、寄席のほか、音楽からヨガ、ワークショップまで子供からお年寄りまで幅広い世代の方が参加できる30ものイベントが開催されました。
 蟠龍寺
2011年から毎年続くこのイベント、2018年のテーマは「アイデンティティ」でした。「『自我』はいずれ変わっていくものですが、いまの自分を見つめてもらえたら」。そう話すのは、発起人の友光雅臣(ともみつ・まさおみ)さん。現在は品川にある常行寺(じょうぎょうじ)の副住職ですが、もとDJという異色の経歴を持ちます。東日本大震災を機に「寺社フェス 向源(以下、向源)」を始めました。
 「寺社フェス 向源」で代表を務める友光雅臣さん
「震災のとき、多くの情報が錯綜していました。『がんばろう』『がんばれ』という声もたくさんありました。そのなかで私は、『今自分は何をすべきか』という自発的な気持ちが最も重要ではないかと思ったのです。外からの情報だけではなく自身が何を考えているのか、そこに向かってほしい。『源に向かう』ことを伝えられたら。そう考えて『向源』というイベントを始めました」と友光さんは話します。
イベントのモデルにしたのは音楽フェスでした。「音楽フェスでは目当てのアーティストだけでなく、ほかのアーティストの音楽も聴けて美味しいものを食べられてトータルで楽しい1日だった、と思える。『向源』も落語を見に来たけれど時間が空いているから茶道のワークショップに参加しよう、とお客様が動けるように色々なイベントが同時多発的に起こります」。
 スタッフはほとんどがボランティア。100人ほどのボランティアスタッフに支えられている
念仏、精進料理、護摩を体験できるお寺巡り
「寺社フェス 向源」は複数の寺社にわたり開催していますが、宗派の垣根なくさまざまな寺社が協力しているのも特徴です。2018年の会場は目黒を中心とする4つのお寺。そのうち3つのお寺を1日で巡るのが「目黒3ヶ寺ツアー」です。目黒近郊にある蟠龍寺(ばんりゅうじ)、五百羅漢寺(ごひゃくらかんじ)、瀧泉寺(りゅうせんじ)を周ります。
「それぞれのお寺で念仏や精進料理などの体験をしてもらい、結果としてお寺の特徴を知ることができるツアーです。3つの寺を巡ることで1つのお寺に行くだけではわからないことも見えてくると思います」と友光さん。
 蟠龍寺のおみくじ。「目黒3ヶ寺ツアー」ではそれぞれのお寺でおみくじやお守りなどのお土産をもらえる
初めに訪れたのは中目黒駅から徒歩10分の蟠龍寺。「山手七福神」の弁財天が祀られることでも知られています。ここでは念仏を体験。木魚をたたきながら「南無阿弥陀仏」と唱えます。その唱え方や木魚をたたくタイミングも宗派によってもいろいろな種類があるのだとか。「ナームアーミダーブッ」「ナームアーミダーブッ」とひたすら唱えると、お経と木魚のリズムに意識が集中していきました。
念仏体験(左)。蟠龍寺から五百羅漢寺へは徒歩5分と近い(右)
念仏体験で心が静まったところで、蟠龍寺から五百羅漢寺に移動し、精進料理をいただきます。精進料理は僧侶が修行で食べる肉や魚を使わない料理、というイメージがあります。ですが五百羅漢寺で提供されるのは会席のような精進料理。出汁にも魚は一切使えないため、野菜の皮からとった出汁と昆布出汁で、丁寧に味がつけられています。
一目では魚の切り身のように見えるが、実は豆腐でできている「鱒(ます)豆腐」。「もどき料理」と呼ばれる(左)。右の写真は一つひとつ味付けが違う春野菜の天ぷら
そして、食事のあとは五百羅漢を拝観しました。堂内には「目黒のらかんさん」と親しまれる300体ほどの五百羅漢像がありますが、その全てが東京都の重要文化財。ほとんどを江戸時代の仏師・松雲元慶(しょううん・がんけい)が彫ったといわれています。

五百羅漢寺の羅漢像
情報に振り回されず「何を考えているか」に向かうため
五百羅漢寺をあとにし、歩いて3分のところに最後のお寺、通称「目黒不動尊」で知られる瀧泉寺があります。お坊さんの案内で見所の多い広い境内をゆっくりと拝観しました。

瀧泉寺(りゅうせんじ)
浴びると病気が治るといわれる独鈷(とっこ)の滝(左)。大本堂の裏手には宇宙を司るという大日如来(右)
大本堂では「護摩(ごま)」の見学。護摩とは、火のなかに供物と願いごとを書いた護摩木を入れて焚き上げる祈願の儀式です。ドンドンドンドンという勇ましい太鼓の音とお経とともに、煌々と火が燃え、煙があがりました。
護摩の見学(左)と最後に記念撮影(右)
目の前のことや無数の情報に日々接していると忘れがちな、自分に向き合うこと。この日は自分のことを考え、見つめる時間になりました。友光さんは、「仏教には知っただけで人生が楽になるような便利な知恵や構造があるとは期待してほしくない」と言います。
「仏教では、釈迦は人間の『生老病死』はしょうがないことだけれど、それをいかに受け止めるかを説いた人と言われています。自分の悩みや行き詰まりに対し、効率の良い解決方法なんて実はないのかもしれません。『向源』を通じていろんな文化に触れながら、感じたことや願ったことを持ち帰ってもらえたらうれしいです」と話しました。
 蟠龍寺の亀
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寺社フェス 向源2018 |
日程:2018年5月5日(土)、6日(日)各9:00-19:00
会場:5日(土)中目黒 正覚寺/6日(日)目黒三ヶ寺[瀧泉寺(目黒不動)、五百羅漢寺、蟠龍寺]
主催:向源実行委員会
http://kohgen.org/
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