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Next Tokyo 発見隊!
No.009
NPO法人 黄金町エリアマネジメントセンター(横浜・黄金町)

2020.9.2

横浜・黄金町で2020年9月11日に開幕予定のアートフェスティバル「黄金町バザール2020」は、今年で13回目となります。運営を担っているのは2009年に設立したNPO法人黄金町エリアマネジメントセンター。「黄金町バザール」の企画運営のほか、約50組のアーティストを有する国内最大級のアーティスト・イン・レジデンスも運営しています。特異な歴史を刻んだ地域で、「アートによるまちづくり」をミッションに、どのような活動に取り組んできたのでしょうか。事務局長の山野真悟さん、広報担当の神田美樹さんに話をうかがいました。

NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター事務局長の山野真悟さん(右)と広報担当の神田美樹さん(左)
NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター事務局長の山野真悟さん(右)と広報担当の神田美樹さん(左)

黄金町の歴史とともに、活動していく

横浜駅から南へ約5km、京浜急行電鉄日ノ出町駅と黄金町駅間の高架下とその周辺に、常時50組ほどのアーティストやクリエイターが滞在しています。ここは2008年よりアートフェスティバル「黄金町バザール」を開催している、「黄金町(こがねちょう)」と呼ばれるエリアです。
戦前は問屋街として栄え、戦後は特殊飲食店が建ち並ぶようになったこの地域が、国内最大級のアーティスト・イン・レジデンスとなったのは、2003年、行政や警察、地域住民などによって設立された「初黄・日ノ出町環境浄化推進協議会」(以下、協議会)を発端としています。2005年に神奈川県警による通称「バイバイ作戦」によって、250店もの特殊飲食店は一斉摘発され、以後、地域再生と治安維持に向けたさまざまな地域活動のなかで、2008年に「黄金町バザール」が生まれました。

線路沿いの大岡川との間に連なる元特殊飲食店を改装したスタジオ
線路沿いの大岡川との間に連なる元特殊飲食店を改装したスタジオ

高架下のスタジオ「黄金町スタジオ」。「電車の音が最初は気になりますが、意外とみなさん慣れてしまいますね」と神田さん
高架下のスタジオ「黄金町スタジオ」。「電車の音が最初は気になりますが、意外とみなさん慣れてしまいますね」と神田さん

「『黄金町バザール』は、2004年に横浜市が始めた創造都市事業の一貫でもありました。特殊飲食店だった空き家を市が借り上げ、アーティストやクリエイターの活動の場となるスタジオにしようという構想でスタートしたものです」とNPO法人「黄金町エリアマネジメントセンター」事務局長の山野真悟さんは話します。
当時、福岡を拠点に美術作家やコーディネーターとして活動していた山野さんが、このまちに訪れたのは2007年。まだ「黄金町バザール」の名もない準備期間に、ディレクターとして1年の契約で声がかかりました。初めて訪れた黄金町は、不法投棄のゴミが散乱する荒れた印象のまち。任務が終了したら福岡に帰る予定で、長く暮らすつもりはありませんでした。ですが、山野さんが現在に至るまで10年以上も黄金町を離れなかったのはなぜでしょうか。

山野真悟さん
山野真悟さん

「第1回の『黄金町バザール』の開催中、地域再生を目的としたNPOを立ち上げる話が出ました。それが現在の黄金町エリアマネジメントセンターです。『黄金町バザール』も1回だけの予定でしたが、継続し、地域再生とアートの両輪で活動していくNPOが必要だということになりました。そこで『黄金町に残らないか』と誘われ、迷わず残ることを決めた。おこがましいようですが『この難しい状況でやっていけるのは自分だ』と思ったのです」
その「難しさ」とは、この地域の稀有な特徴にあります。「ここはエアポケットのような場所」と山野さんが表現するように、地域再生活動を行うまちの人たちの多くは黄金町エリアの周辺に住んでいること。そしてアーティストをはじめとする、行政、警察、企業、大学など、多様なステークホルダーが存在すること。法人の広報を担当する神田美樹さんは、「同じ問題でも立場によって考え方が異なりますので、一つのことを決めるときも、なかなか進まない場合もあります」と現場の実感を話します。

韓国出身のアーティスト、キム・ガウンさん。2018年から黄金町スタジオを利用している。「とても気に入っていて毎年更新しています。ここにいるといろんな世界やジャンルのアーティストと話ができる。なかなかない環境だと思います」
韓国出身のアーティスト、キム・ガウンさん。2018年から黄金町スタジオを利用している。「とても気に入っていて毎年更新しています。ここにいるといろんな世界やジャンルのアーティストと話ができる。なかなかない環境だと思います」

イベント名に「アート」という言葉を入れない

こうした複雑な状況のなか、第1回目の「黄金町バザール」を企画するにあたり、山野さんが意識したことがあります。それはアートのハードルを下げることでした。フェスティバルのタイトルに「アート」という言葉を入れなかったのもそのため。現代美術は知識がないとわかりにくい側面もありますが、どんな人でも楽しめる作品やプロジェクトを意識しました。また、写真家による写真館、ファッションブランドのコラボレーションショップ、アートブックや作品を扱う雑貨屋など期限付きの店舗を設置し、活気あるまちのイメージをつくりました。こうして1年目は多くの来場者もあり成功を収めます。

田中千智(ちさと)さんによる《107人のポートレート》(2008年)。近隣の店舗をまわって店主のポートレートを描き、店内に展示するプロジェクト。写真左はカレー屋の店内に展示した様子、写真右はスタジオでの制作の様子(写真提供:NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター)
田中千智(ちさと)さんによる《107人のポートレート》(2008年)。近隣の店舗をまわって店主のポートレートを描き、店内に展示するプロジェクト。写真左はカレー屋の店内に展示した様子、写真右はスタジオでの制作の様子(写真提供:NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター)

タイのアーティスト、ウィット・ピムカンチャナポンさんによる《フルーツ》(2008年)。紙でフルーツを作るペーパークラフトに子供が参加していたが、次第に近隣の住民たちも手伝いに来るようになった(写真提供:NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター)
タイのアーティスト、ウィット・ピムカンチャナポンさんによる《フルーツ》(2008年)。紙でフルーツを作るペーパークラフトに子供が参加していたが、次第に近隣の住民たちも手伝いに来るようになった(写真提供:NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター)

2年目からは「黄金町バザール」自体の規模は縮小し、年間を通したアーティスト・イン・レジデンスを含む日常的な活動を行ってきました。なかでも黄金町ならではの作品を紹介します。一つは2009〜2011年、志村信裕さんによる暗い路地裏に映像作品を投影するプロジェクトです。道路への映像投影は道路交通法上難しいですが、夜間の安全性にも貢献するとして、警察の協力により24時間投影し続けました。また、増田拓史さんによる作品は、不法投棄の多かった場所でゴミにアニメーションを投影。これらの作品によって防犯や不法投棄の防止につながったことがありました。

志村信裕さんによる《赤い靴》(2009年、写真左)と《Red carpet》(2010年、写真右)(写真提供:NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター)
志村信裕さんによる《赤い靴》(2009年、写真左)と《Red carpet》(2010年、写真右)(写真提供:NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター)

増田拓史さんによる《A Silent Grass》(2010年)(写真提供:NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター)
増田拓史さんによる《A Silent Grass》(2010年)(写真提供:NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター)

この10年で変わってきたこと

こうして活動を続けるなかで、徐々に変わってきたこともあります。「かつて黄金町は、『子供たちは行ってはいけない』と言われるエリアでした。ですが、今では小学生が走り回って遊んでいます。物心ついたときから日常にアーティストがいる。その環境で成長した子供たちの将来も楽しみです」と山野さんは言います。
アートを知らなくても「アーティストに出会えてしまう」のが黄金町。アーティストが作品をつくっていると「なんだろう」と子供たちが覗きにくることもたびたびあります。2012年から5年間、レジデンスに参加しているアーティストの山田裕介さんも、「子供たちの出会いからプロジェクトを立ち上げた一人です」と山野さんと神田さんは紹介します。
「遊びに来る子供たちに、のこぎりの使い方や釘の打ち方を教え始めて。ならばいっそ教室にしよう、と『黄金町BASE』というスペースをつくりました。毎週2回、子供たちが放課後に集まってきて、一緒に工作をする、それを2016年から続けています。さらに2019年からは、『アトリエ日ノ出町』というスペースを立ち上げ、絵画教室やこどものためのアート教室、大人向けの銅版画教室など様々な教室を開き、広い世代の方が訪れる場所を運営しています。『アトリエ日ノ出町』の教室は有料で、『黄金町BASE』は無料ですが、両方参加する子供もいるようです」

子供たちが集う「黄金町BASE」(写真左)、山田裕介さん(写真右)(写真提供:NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター)
子供たちが集う「黄金町BASE」(写真左)、山田裕介さん(写真右)(写真提供:NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター)

黄金町エリアマネジメントセンターがスタートして11年。活動を始めた方々の高齢化もあり、山野さんは「若い世代につないでいかなければ」と言います。ここ最近、黄金町で活動する若い世代が増えました。2019年、京急グループが本社を東京から横浜に移転したことを機に企業が誘致され、高架下に飲食のエリア「日ノ出町フードホール」が生まれ、ホステルやカフェを複合した施設「Tinys(タイニーズ)」ができたりと、この場所の地域再生に取り組む新たな企業が見られます。
「日ノ出町フードホールのオープンは新型コロナウイルス感染症拡大の時期とあいにく重なってしまいましたが、大きな方向性としてはこの地域のプレーヤーが多様化してきています。治安問題や経済的再生など、地域の問題はまだ山積みですが、自分たちだけで全てを担わなくていいんだな、と10年をすぎてやっと思えるようになってきました。役割を分散し、我々も焦点を絞って活動する兆しが見えてきたような気がします」
「何でも屋NPO」と山野さんが呼ぶように、施設の運営、イベントの企画、道路のゴミひろい、アーティストとまちの調整、協議会の事務局、と多くの任務をただ一つのNPOで担ってきた黄金町エリアマネジメントセンター。彼らが時間をかけて耕し、種を植えてきた土壌に、少しずつ芽が出はじめているのかもしれません。

大岡川沿いのアトリエで制作する寺島大介さん。「黄金町バザール2020」では、ショッパーやポスターなど身の回りにある印刷された紙にドローイングを施し、インスタレーションを行う
大岡川沿いのアトリエで制作する寺島大介さん。「黄金町バザール2020」では、ショッパーやポスターなど身の回りにある印刷された紙にドローイングを施し、インスタレーションを行う

Text:佐藤恵美
Photo:中川周

NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター

http://www.koganecho.net
〒231-0054
神奈川県横浜市中区黄金町1-4先
高架下スタジオSite-B
TEL:045-261-5467

黄金町バザール2020―アーティストとコミュニティ

日程:第1部=2020年9月11日(金)〜10月11日(日)
第2部=2020年11月6日(金)〜11月29日(日)
休場:木曜日(10月8日を除く)
入場料:<一般>1,000円(大学生・専門学生含む) <高校生以下>無料
時間:11:00-19:00
会場:京急線日ノ出町駅・黄金町駅間の高架下スタジオ、周辺のスタジオ、地域商店、屋外空地ほか 主催:特定非営利活動法人黄金町エリアマネジメントセンター
初黄・日ノ出町環境浄化推進協議会
http://koganecho.net/koganecho-bazaar-2020/

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