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石川直樹 東京の記憶を旅する
No.006
飯田橋〈中編〉 age4-12
石川直樹[いしかわ・なおき]
石川直樹の通った暁星学園は、1888(明治22)年、フランスの男子修道会〈マリア会〉の修道士たちが開国間もない日本で創立した国内でも最古のカトリック系学校。質実剛健な男子校であると同時に、キリスト教の理念が教育の基礎となっている。中編ではここで過ごした小学校時代の記憶を中心にたどる。


4-1――男子校

暁星学園の制服は、フランス海軍の軍服をモデルにしたという、金の襟章と金ボタンのついた黒地の詰め襟。小学校のうちだけ半ズボンで、冬場は足がかなり寒かったです。半ズボンと言っても、膝まであるハーフパンツのような丈ではなく、太ももが露わになるような丈で、冬はとてもとても寒かった。
幼稚園のみ男女共学で、小学校から高校までは男子校だったので、12年間、男の子の中で過ごしていたことになります。校内にいる女性は保健や事務の先生とフランス語の先生くらいでした。中学・高校ではさすがに「それってどうなんだ」とちょっと寂しく感じましたが、小学校の時は、特に疑問も抱かずに通学していました。
フランス人が作ったカトリック系の男子校といっても、ミサやフランス語の授業があったり、フランス国歌を歌ったりといったこと以外は、日本の一般的な小学校と同じです。フランス語はわずかなセンテンスと単語くらいしか覚えていませんが、フランスの国歌だけはまだ脳裏に刻まれていて、歌えます。子どもの頃に覚えた歌の記憶は、ずっと残るものですね。

飯田橋 2015/12/9
飯田橋 2015/12/9

4-2――普通の子

小学校の成績は中くらい。いじめられていたこともなく、そこそこ活発な普通の子だったと思います。不意打ちで半ズボンの太ももを思いっきり叩いて手形をつけたりつけられたり、背負っているランドセルの蓋を気づかれないように開けたり開け返されたり、秋になると学校前の並木の銀杏から落ちてきて道を覆う、あの臭い実をわざと踏んで歩いてみたり。小学生ならではの他愛なくもくだらない遊びがたくさんあり、よくやっていました。
高校サッカーでは頻繁に全国大会の上位に入る学校だったため、小学校からサッカー指導に力を入れていましたね。ぼくも4年生のときから入部し、毎朝5時起きで、母がつくった拳よりも大きな巨大おにぎりを持って練習に通いました。体罰は今のように問題視されていない時代だったので、ビンタや、こめかみを拳骨で挟んでグリグリされるといった程度のものは日常的で、当時はそういうものとして受け止めていました。こめかみのやつは痛かった…。

4-3――洗礼は受けない

教会でミサが毎週おこなわれていたほか、小学校から高校まで、日本人の神父さまが授業をする「宗教」という科目がありました。一般的な学校で行われる「道徳」や「倫理」の時間は逆になかったので、それらに相当していたのだと思います。
旧約聖書や新約聖書を読んだり、聖書の一節をひもときながらも「愛とは何か」といったことを話してくれていましたが、子供にとってはお世辞にも面白いものではなく、いつも退屈していました。性教育なども宗教の時間におこなわれていたので、まだ子どもですから、だいぶふざけて、はしゃいでいたように思います。
小学校のとき、カトリックの洗礼を受けるかどうか母に聞かれましたが、「いや、受けない」と即答していました。当時はサッカーの練習が忙しかったし、宗教の時間に習ったようなことを突き詰める気持ちは全然なかったので、やめました。今から思うと、子どもながらに随分はっきり断ったものだと思います。家族では結局、ぼくと祖父(石川淳)だけが洗礼を受けませんでした。

4-4――信仰

ぼく自身は今は無宗教というか、いわゆる日本人的な曖昧な作法で宗教とつきあっています。クリスマスも正月も祝い、神社に行っても寺に行ってもお詣りします。その後、ヒンドゥー教やイスラム教、チベット仏教、ミクロネシアの精霊信仰、その他さまざまな宗教の国や地域に行くことになるわけですが、その地の信仰に依拠する行事や施設には、いつも敬意を払って接するようにしています。あれほどつまらなくて真面目に聴いていなかった宗教の時間ですが、知らず知らずのあいだに、普遍的な信仰心や、あらゆる宗教を尊重する考え方といったものを身に付けさせてもらっていたように思います。

飯田橋 2015/12/9
飯田橋 2015/12/9

(後編に続く)

石川直樹(いしかわ・なおき)

1977年東京生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により、日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞。『CORONA』(青土社)により土門拳賞を受賞。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)ほか多数。最近では、ヒマラヤの8000m峰に焦点をあてた写真集シリーズ『Lhotse』『Qomolangma』『Manaslu』『Makalu』『K2』(SLANT)を5冊連続刊行。最新刊に写真集『国東半島』『髪』『潟と里山』(青土社) 、『SAKHALIN』(アマナ)がある。

石川直樹[いしかわ・なおき]


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