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アートで創造性を育む! 街に開かれた先端オフィス「THE CAMPUS」

新しいアートスポット

No.008

2021年2月、JR品川駅から徒歩5分のオフィス街に「働く」と「暮らす」を融合した、街に開かれた空間ができました。その名も「THE CAMPUS(ザ・キャンパス)」。文具やオフィス家具で知られる1905年創業のコクヨ株式会社が、自社ビルを改装してオープンした施設です。国内外の12組のアーティストによる作品が25点館内の随所に展示されている「THE CAMPUS」を取材しました。


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2022.09.15

「働く」「学ぶ」「暮らす」を実験する、新時代のオフィスビル

1979年竣工のオフィスビルを、新たなコンセプトでリノベーションした「THE CAMPUS」。5階建ての北館、11階建ての南館の2つの棟を中庭がつなぎ「働く、学ぶ、暮らす」の実験の場として、社員約1000人が働くオフィスでありながら、創造性豊かな空間づくりがされています。

1階のラウンジエリア。左奥には写真家・GottinghamによるTHE CAMPUSのための作品《Untitled》が展示されている。左下のテーブルはダミアン・プーランによる作品(後述)
ウッドデッキに展示された、アーティストユニットのstudio BOWLによる《C A MP U S》は正面からみると「CAMPUS」のアルファベットになる立体作品(★)

施設全体のコンセプト「街に開く」を最も体現しているのが1階のPARKSIDEです。ここには、コーヒースタンドやたくさんのコクヨ製品を試したり購入したりできるショップ、ラウンジを併設。近隣のビジネスパーソンがコーヒーを飲みながらデスクワークをしたり、学生が勉強したり、子どもが遊びにきたりと、さまざまな用途で自由に過ごすことができます。通りに面したウッドデッキには、アーティストユニットのstudio BOWLが手がけた家具のような立体作品が設置されており、家族連れで遊びに来る姿も見られるそうです。

北館と南館の間にある「PARK」という名の中庭には、デザインオフィスのfabricscapeがデザインしたテキスタイル作品(写真右奥)も。社員が休憩中に卓球をする姿も見られる

「パブリックなエリアを設けたことで、これまでの働く場では出会わなかった人たちとの接点ができました。品川の駅周辺はオフィス街のイメージが強いのですが、家族連れや学生などさまざまな人に利用いただき、私たちもこれからのワークスタイルやライフスタイルを考えるヒントをもらっています」とTHE CAMPUSのプロデュースを担当した、経営企画本部クリエイティブ室の安永哲郎さんは話します。

経営企画本部クリエイティブ室の安永哲郎さん

3つの視点で社員が選んだ、国内外のアーティスト

街に開いたオフィスは、新しい働き方の提案でもありました。THE CAMPUSのオープンと同時に、企業理念も「be Unique.」に刷新。誰もが自分らしくいきいきと創造性を発揮できるような社会を理想に、企業として貢献していくという思いが込められています。
アートの常設展示もその一つ。伊藤存、マーガレット・リー、ダミアン・プーラン、ジャスティーン・ヒル、ダン・マッカーシー、SHIMURAbros、横田大輔、やんツーなど12組の国内外のアーティストによる絵画や写真、立体作品などが1階のパブリックエリアや2階の会議室、3階より上層のオフィスフロアなどにも展示されています。

ゲストを迎える2階のレセプションエリアにはTHE CAMPUSのロゴが動く映像が投影されている。Officeの「O」をCampusの「C」に開くモチーフでデザインされたビジュアル・アイデンティティは、社内のデザイナーが手がけた
レセプションエリアにはオールジェンダートイレも新設

こうした作品を選んだのは、キュレーターやギャラリストでもなく安永さんをはじめとする社内のプロジェクトチーム。
「リニューアルに向けて企画を進めるなかで、アートを取り入れようという話は自然と出てきました。取り入れるのであれば、施設のコンセプトに照らし合わせて、自分たちがきちんと意味を感じられることをやろうと。独立性のある企画として立ち上がりました」

そこで「社会の課題を考えるきっかけを生むもの」「作品を通して対話が生まれるもの」「答えがない問いを考えられるもの」という3つの視点を設定し、作品を選びました。

古いアップライトピアノを用いた彫刻作品《PWM》。「ストリートピアノをおきたい」という若手のメンバーのアイデアをもとに、アーティストのWA! moto“motoka watanabe”に造形を依頼した

THE CAMPUSのために新たにつくられた作品の中には、社員と協働して制作したものもあります。フランス在住の作家、ダミアン・プーランは、コロナ禍のため来日できなかったため、Zoomでコミュニケーションをとりながら、ワークショップ形式で社員が塗装を行いました。

「パリとつないでアドバイスをもらいながら数十名の有志で制作しました。当時、コロナ禍で入社した新入社員たちがリアルに顔を合わせたことがない、という問題もあり、研修とは違うコミュニケーション醸成の機会として開催しました。そのときに、プーランさんが『美をつくるのは一人ではできない。みんなでつくるものだ』と話していたのが印象的です。」

社員と協働して制作したダミアン・プーランの作品《Read between the lines》は3カ所に設置。一つは1階のラウンジエリアのテーブルとして使用した(★)。ほかの2つはオフィス内の壁や床に描かれている

アートを通して視野を広げ、成長を促す

安永さんは、施設全体の実験的な取り組みに関心を持つ社外からの視察や見学のほか、社内向けにも1〜2ヶ月に一度、アートツアーを行っています。
「ツアーに参加する社員のアートに関する興味や知識はさまざまです。作品に『何が描かれているのか』だけではなく、そこに社会がどのように映し出されているかということや、その向こう側にアーティストという人間がいることまで思いを巡らせることを意識しています」

映像作家・SHIMURAbrosによる作品《TRACE – SKY – TOKYO STORY 09 (Ed. 1/2)》。小津安二郎監督の映画作品『東京物語』とGoogleストリートビューからインスピレーションを得た作品。1階の社員向けワークラウンジ「COMMONS」に展示。作品は窓の外からも鑑賞できる

1時間ほどかけて社内の作品をめぐったあと、さらに雑談の時間を設けています。
ツアーに参加した社員からは、遠かったアートの存在がより身近に感じられるものとなったという声もあるようです。

写真家・横田大輔による《Untitled》は、新規事業部門が入るフロアに展示(非公開エリア)。

オフィスの内外に刺激を与えるTHE CAMPUS。アートを通じて企業としてのあり方を考えることで、新しいオフィスのあり方の提案にもなっています。その根本には、社員一人ひとりの「個」を尊重し社会に貢献したい、という切実な姿勢がありました。

各会議室に設置されたポスター型の作品は写真家・Gottinghamと社内デザイナーのコラボレーション。キャビネットや机などコクヨのスタンダードな家具(左)と、そこにTHE CAMPUSのビジュアルが配された写真(右)を並置することで、コクヨの過去から未来への連続的な変化を表している

Text:佐藤恵美
Photo:畠中彩(★をのぞく)

コクヨ 東京品川オフィス THE CAMPUS
住所:東京都港区港南1-8-35
開館時間:8:30-19:30
※THE CAMPUS SHOP:10:00-19:30
※コクヨ東京ショールーム:10:00-16:00
※1階の作品のみ公開
休館日:土曜、日曜、祝日、年末年始、夏季休業日
https://the-campus.net/

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