「TABF 2022」は4つのエリアで構成されました。美術館に入ってすぐの1階入り口付近の「ENTRANCE」では活動を始めたばかりの方や小規模の方も含めた出版社、ギャラリー、書店、アーティスト、その奥の「PRINTER」は印刷、製本、製紙会社のブースが並びます。地下2階の「EXHIBITION SPACE」では、積極的に出版物を刊行しているギャラリー、書店、アーティストらが出展し、アトリウムの「ZINE’S MATE」には、個人で活動を行うアーティスト、出版社が集まりました。
声優・斉藤壮馬が選んだアートブックとは?
TOKYO ART BOOK FAIR 2022
イベント・レポート
No.0432022年10月27日(木)から10月30日(日)にかけて、東京都現代美術館にて開催された「TOKYO ART BOOK FAIR 2022」(以下、「TABF 2022」)。個性的なアートブックを制作する作り手たちが集結し、来場者に直接その魅力を届けます。2009年から開催され、今回で12回目を迎える「TABF 2022」では、出版社、ギャラリー、アーティスト、印刷所など、国内・海外から約200組の出展者が集まりました。この会場で、普段から都内の美術館に足を運ぶというアート好きで、読書家としても知られる声優・斉藤壮馬さんに、1時間で2万円分のお買い物をしてもらう企画を実施。数あるアートブックのなかから、斉藤さんは何を選んだのでしょうか。
多様なアートブックのなか、フランスの出版文化を感じられるエリアも
TABFでは、ひとつの国や地域を取り上げて、出版⽂化を紹介する企画「Guest Country」を実施しています。6回目としてフィーチャーしたのは「フランス」。地下2階の「EXHIBITION SPACE」では、セーヌ川に軒を連ねる屋台を模した「Bouquinistes」、フランスの現代美術界を牽引し続けるイヴォン・ランベールの展示スペース「60 Years of Yvon Lambert」、アニエスべーのショップ等で配布してきたアートフリーペーパーを振り返ることのできる「agnès b. loves art!」などが設けられました。
フランスの出版文化を肌で感じつつ、さっそくお買い物へ。
海外の書店や出版社も出展する「EXHIBITION SPACE」で最初に立ち寄ったのは、川内倫子の写真集やホー・ツーニェンの展覧会図録を刊行する「torch press」。斉藤さんの目についた『ユージーン・スタジオ 新しい海』は、偶然にも会場である東京都現代美術館で、2021年11月から2022年2月にかけて開催された展覧会の図録でした。装丁にキズなどがみられるため、定価3,800円のところを3,000円で販売されていました。一般書店に流通しないような書籍がお買い得に手に入るのもTABFならではです。
次に吹き抜けになっているアトリウムに展開された「ZINE’S MATE」へ。個人で自由に制作する冊子「ZINE」が数多く並ぶこのエリアは、新しい才能と出会える場所でもあります。ZINEや書籍だけでなく、ステッカーやトートバックといった雑貨も並ぶなか、斉藤さんが着目したのが「視覚哲学」というパネルを掲げたブース「SI RUIDA」でした。イラストレーター、デザイナーのス ルイタツによる『Visual Philosophy Thoughts on I and We』は、生命と宇宙をグラフィックデザインで表した一冊。ゆるいタッチで描かれたイラストとテキストで構成されています。
続いて出版社などのブースが立ち並ぶ1階の「ENTRANCE」へ。展覧会図録やアート関連の書籍を刊行する青幻舎やHeHe、詩歌集やコミックなどを出版するナナロク社といった版元に混ざって、個人で活動するアーティストや宇宙航空分野の研究・開発を担うJAXAも。エリアのなかほどでは、2022年で創業150周年を迎えた資生堂による文化誌『花椿』の創刊85周年記念号が配布されました。書籍だけではなくTシャツなどのグッズ類も販売され、賑やかな雰囲気。
そんなエリアで、ひまわりの咲く野原を撮影したポスターが斉藤さんの目に留まります。写真家の東野翠れんによる出版レーベル「shushulina publishing」です。ポスターが付いてくる写真集『花、音、光』と迷いながらも、『Pendant 1957–2018』を選びました。この本には、東野のイスラエル人の祖父が約60年前に撮影した写真と、東野自身が2018年までの約6年間の身のまわりの出来事を切り取った写真が収められています。
「ENTRANCE」で斉藤さんがもうひとつ気になったのが、石の写真の表紙が印象的なブース「YOU ARE HERE」。小熊千佳子、谷川公朗らが2022年夏に訪れたスウェーデン・ボーフスマルモン島の情景をまとめた写真集『Bohus Malmön』は、島に招いてくれた友人家族らとの個人的なひと夏の記録集でもあります。
「ENTRANCE」の奥にあるエリアが「PRINTER」。多種多様な紙を取り扱う竹尾や、展覧会図録やアート系の書籍を手がけるサンエムカラー、東京印書館といった印刷所が出展しています。そのなかの「ALBATRO DESIGN」は、活版印刷、リソグラフなどの特殊加工を担う印刷所「PRINT + PLANT」を有した東京のデザインスタジオ。斉藤さんは、グラフィカルなモチーフが活版で印刷されたカードが引けるガチャをまわすことに。
選んだアートブックから垣間見られる自分自身の感性
すべてのエリアを1時間ほどで回ったところで、お買い物は終了。斉藤さんにTABF 2022の感想を尋ねると、「もしゆるされるなら、1日ここで過ごしたいと思うくらいでしたね。多種多様なアートにまつわる本やグッズがたくさんあって」とのこと。個人が制作したプライベートなZINEから、書店で売られている出版社が刊行した書籍まで、ジャンルはアートを中心に音楽、哲学、自然科学など、実に幅広い本が扱われているのがTABFの特徴です。自身で制作した楽曲も発表する斉藤さんは、音楽にまつわるものにも興味を引かれた様子。購入したものをあらためて並べると、斉藤さんは「無機質なものっていうよりかは、すこし温かみがあるようなものを選びたい気分だったのかな」と振り返りました。
買う側の気持ちや個性が自然と表れる買い物。多様なアートブックが集まるTABFは、自らの感性にふれるもの、さらにこれまで知らなかったものとの偶然の出合いが生まれる場所といえるでしょう。
会場では上述の展示や販売ブースに加えて、カラフルなリソグラフ作品を展示した特別企画「Risopioneers」、TABF初の試みとなるフランスと日本の絵本を配した子ども向けコンテンツ「Kidsʼ Reading Room」も設けられ、会期中にはトークショーやワークショップも開催されました。どんどん発展していくアートブックを多角的に見て、手に取ることのできるTABFは基本的に年に1回の開催。作り手と直接やりとりして、お気に入りの本を探せるアートと本好きにはたまらないイベントです。
Text:相川マキ
Photo:北浦敦子
TOKYO ART BOOK FAIR 2022
会期:2022年10月27日(木)17:00-20:00
2022年10月28日(金)~30日(日)10:30-19:00
会場:東京都現代美術館 企画展示室B2F、エントランスホールほか
入場料:一般 1,000円(税込)
https://tokyoartbookfair.com/
[展示エリア(企画展示室B2F)]
主催:一般社団法人東京アートブックフェア、公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
[公募ブースエリア(エントランスホールほか)]
主催:一般社団法人東京アートブックフェア
特別協力:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
斉藤壮馬(さいとう・そうま)
山梨県出身。81プロデュース所属。主な代表作に『ブルーロック』(千切豹馬役)、『アイドリッシュセブン』(九条天役)、『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(レーン・エイム役)などがある。SACRA MUSICレーベルにてアーティストとしても活動中。