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巨大壁画のあるアートホテル、BnA_WALL

新しいアートスポット

No.010
BnA_WALLの一室。クリエイティブユニットのmagmaが手がけたゲームをテーマにした「HARDCORE GAME ROOM」。実際にゲームで遊ぶこともできる

2021年4月、日本橋にオープンしたホテル「BnA_WALL(ビーエヌエー・ウォール)」。その特徴は、26室すべての部屋がアート作品となっていることです。さらにカフェ・バーのある共有スペースには、ホテル名の由来ともなっている地下から続く約6m四方の巨大な壁があります。アートのあるホテルにとどまらず、独自の方法でアーティストへの支援も続けるBnA_WALL。運営するBnA株式会社の代表、田澤悠(たざわ・ゆう)さんに話を聞きました。


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2023.01.16

作品のなかで生活する体験

アートスペースとしてもユニークな取り組みといえる「BnA_WALL」は、作品に宿泊できるホテルです。各部屋の内装を手がけたのはYOSHIROTTEN、SIDE CORE、渡辺真子 a.k.a. Mako Principalといった23組の気鋭のアーティストやアートディレクター。作品のタイトルとアーティスト名が書かれた扉をあけると、そこには作品世界が広がります。壁や家具、照明、什器に至るまで、部屋そのものがアートとなり、これまでにない宿泊体験に誘われるでしょう。

アーティスト、YOSHIROTTENによる「Float」。赤、黄、青、緑など光の色を変えることができる。メディテーションルームのような一室

「アートとの出会いの機会を増やしたい」と、このプロジェクトをスタートしたBnA株式会社の代表、田澤悠さんは話します。
「作品のなかで一晩を過ごす経験はなかなかないと思います。夕飯を食べて帰ってきたとき、就寝前の静かな時間、朝起きた瞬間など、私たちは生活のなかで心理状態も変わっていく。そのときにどのように作品が見えるのか。出会ったときの感動だけではなく、作品のさまざまな表情を楽しんでもらいたい、というのがBnAのプロジェクトです」

BnA株式会社代表・田澤悠氏
オフィスや問屋が並ぶ日本橋大伝馬町にあるBnA_WALL

その構想の源は、共同代表である建築家の福垣慶吾(ふくがき・けいご)さんに出会ったことがきっかけでした。
「彼は当時、あるオフィスの内装にストリートアーティストを起用した設計を手がけていました。僕はそのとき民泊の事業をしていたので、それを聞いて宿泊にアーティストとの協働を組み合わせるのは面白いのではないか、と。実験的に池袋の民泊の部屋をリノベーションしたのが2015年でした」と田澤さん。
そのプロジェクトが反響を呼び、2016年に高円寺、2018年に秋葉原、2019年に京都・河原町と、「BnA」の名を冠したアートホテルを開業していきました。日本橋のBnA_WALLは4軒目のプロジェクトとなります。

さまざまな素材や柄の壁がランダムに並んだ部屋「PLAY WALL/ROOM」はアーティスト、BIENによるもの。舞台のセットのような空間で過ごすことができる

アーティストの仕事の場所として

アーティストとの協業という点で、珍しいシステムも取り入れています。それは宿泊費の一部をアーティストに還元するシステムです。
「ホテルのプロジェクトを続けながらアーティストにも還元したい、とこの仕組みを考えました。作品を納めて終わりではなく、アーティストには継続的に関わってもらいたいという思いもあります」

アーティスト、コリュによる「桜色の絨毯の部屋」はその名の通り、柔らかな桜色で包まれた一室(★) Photo by Tomooki Kengaku
まちの記憶を追想する部屋「昼がみた夢 - daytime's daydream -」はスイートルーム。東京の路面や壁面をスキャンしてつくられたタイルが床に敷き詰められている。「外で遊ぶこと」をテーマに制作する匿名アーティストチーム、SIDE COREによる(★) Photo by Takeshi Sasaki
立体作品をつくる椋本真理子の「DAM room」はダムをモチーフにつくられている。テーブルや時計、照明などは必見(★) Photo by Tomooki Kengaku
天井にミラーボールが回る部屋「SUSHI WARS」。アーティストは渡辺真子 a.k.a. Mako Principal(★) Photo by Tomooki Kengaku

作品をつくって終わりではない、アーティストを支援する姿勢。それは共用スペースにも表れています。BnA_WALLはもともと西陣織の商社だった建物を改築していますが、1階の床を部分的に抜いて地下からつながる壁をつくり、約6×6mの巨大な壁画の展示スペースとしました。壁画制作のため、地下にはアトリエを併設し2〜3ヶ月に一度、展示替えをしています。
「共用部分は、アーティストとお客さんをつなぐ接点の一つです。例えばもともとアーティストのコミュニティがあった高円寺では、集う場所として1階をバーにしました。文化的な観光地である京都では、ミュージアムというコンセプトにしてギャラリーを併設。そのまちの特性を基盤に機能を考えています。日本橋はどちらかというと働く人のまち。『仕事』をキーワードに、アーティストも自分たちの仕事をとおして、まちやゲストと出会っていけるように、アトリエと巨大な壁面をつくりました。壁面が一つのショーケースとなり、仕事につながることも意識しています」

1階のラウンジ兼カフェ・バー「STAND BnA」から地下に続く壁画が見える(★) Photo by Takeshi Sasaki
地下のアトリエ(★) Photo by Tomooki Kengaku

世界で活躍するアーティストを育てる

巨大な壁画というアイデアは、ストリートアートが育ちにくい日本の現状からも発想されています。
「ラスコー洞窟やアルタミラ洞窟にさかのぼると、壁画は先史時代からある芸術。環境や壁の特性を加味して制作されるサイトスペシフィックなアートです。現代だとストリートアートのようなゲリラ的な文脈が強く、バンクシーやカウズなど著名なアーティストが生まれています。ただ日本は欧米に比べると法規制が厳しく、大きな壁画にチャレンジできる場所が少ないんです」
そこで、BnA_WALLの壁を若手アーティストの研鑽の場としても活用していきたいと、田澤さんは考えています。開業から1年ほどは、これまでのつながりでBnAからアーティストに声をかけてきましたが、2023年1月からは公募によって選ばれたアーティストが描いていきます。TokyoDexと協業し実施するそのプロジェクトの名は「BnA_WALL Mural Rookies Project」。世界で活躍できるアーティストを輩出することを目的に、国内外で活動するアーティスト・澁谷忠臣(しぶや・ただおみ)さんをメンターとして迎え、壁画経験のないアーティストを育てます。

2022年11月、シルクスクリーンで描いた田巻裕一郎の壁画《BUILDING 2.5》
Schoko Tanaka《TROPIC》(2021年8月) Photo by Hiroaki Sugita

またBnA_WALLは、アーティストや宿泊するゲストに限らず、近隣に住む人の憩いの場としても開放しています。壁画の展示替え時に行っている親子向けのイベント「BnA_PlayArt」では、地下のアトリエ空間全体がキャンパスとなり、音楽に合わせて自由に絵を描けるワークショップを開催。また「水曜のデッサン会」では、初心者からプロまで幅広い方が参加できるデッサン会を開いています。

「BnA_PlayArt」Instagramより
https://www.instagram.com/bna_playart/

宿泊という機能を起点に、アートの支援や多様な関わりかたを提案する新しいホテル、BnA_WALL。アートも人も、訪れるたびに異なる出会いがあるアートスポットです。

Text:佐藤恵美
Photo:桧原勇太(★をのぞく)

BnA_WALL
住所:東京都中央区日本橋大伝馬町1-1
お問い合わせ:info@bnawall.com
宿泊予約:https://go-bna.reservation.jp/ja/hotels/bna-wall

https://bnawall.com/

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