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特別編「日本と世界のアートフェアの違いとその楽しみ方」小山登美夫+山本裕子+ローゼン美沙子

新進ギャラリストに聞くアートとマーケット

No.004
左からMISAKO & ROSENローゼン美沙子さん、小山登美夫ギャラリーの小山登美夫さん、ANOMALYの山本裕子さん

新進ギャラリストを紹介するこの連載では今回は特別編として小山登美夫ギャラリーの小山登美夫さん、ANOMALYの山本裕子さん、そしてMISAKO & ROSENのローゼン美沙子さんによる座談会を開き、アートマーケットの現状について語っていただきました。海外にも頻繁に赴く3人が注目するアートマーケットの状況とは?


Text: 新川貴詩

Photo: 桧原勇太


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2023.06.14

日本と他のアジア諸国とのアートマーケットの違い

ローゼン 国際的なアートフェアでいうと、いまのアジアではArt Basel Hong Kong(アート・バーゼル香港)Frieze Seoul(フリーズ・ソウル)が二大巨頭ですね。

小山 うん、そのふたつはヨーロッパのギャラリーも多く出展しているし、活気がある。それと、台北。台北はとてもコレクターがいっぱいいます。

山本 今日の話の結論を先取りしてしまいますが、香港や韓国はアート作品の税制が優遇されているからですね。コレクションするメリットも大きい。*

*編集部註)韓国では美術品は取引価額が6,000万ウォン以上の場合のみ課税対象になり、所得税・贈与税がかかりにくい制度になっている。

小山 関税もかからないから輸出入も簡単にできる。だから香港や韓国のアートマーケットが盛んになるのもよくわかる。それに、Frieze SeoulにはBTSが来たりもする。日本のアートフェアもアイドルを招けばいいのに。*

*編集部註)器など用途のある美術作品は関税がかかることもある。

ローゼン アイドルに限らず国際的な日本のアーティストを招いたりしたら盛り上がりそうですよね。

2022年9月2日に初開催したFrieze Seoul(フリーズ・ソウル)。初日に数百万ドル以上の売上を達成したと報じられた。
https://www.frieze.comより

山本 昨年から始まったフリーズソウルに出展したとき、事前の問い合わせがものすごくたくさん来ました。韓国のコレクターは、フリーズに対してとてもサポーティブな感じがして、国をあげてウエルカム!な雰囲気が伝わってきました。

小山 韓国は現代アートのマーケットが美術全体の市場の80%を占める印象です。日本は20%が現代アートという感じかな。

ローゼン それだけ現代アートが根づいているんですね。

山本 韓国では美術のコレクションを財産として継承できる制度になっているようです。それが例えば財閥がアート作品を手に入れるきっかけになっている。その点、日本は戦後に財閥は解体したからコレクションをする基盤もないし、個人のコレクションにも相続税もかかりますし。

ローゼン 日本は税制もですが、税関の体制もアート向けに整ってはいません。以前、海外から日本に作品を運ぶときに、そのアーティストのオークション価格を調べた税関の人が、その金額で追徴課税を求めてきた。オークションの価格は一時的な額であって、普段の価格ではないのに。*

*編集部註)美術品の課税価格算定について、日本では課税価格の算定機関が法定に定められていない。アメリカでは米国美術鑑定士協会、米国鑑定士協会が、イギリスでは学芸員、アートディーラーらの有識者にて構成される審査パネルが、フランスでは国家資格をもつ競売吏が算定する。

小山 ひどい話です。これは社会的な問題だから、強調しておきたいところです。

ローゼン アートに関する税制を整理してほしい。日本のアートマーケットが立ち遅れている最大の問題だと思います。

日本のアートシーンは観光や食事も魅力

ローゼン 海外のギャラリストたちは、日本のアートシーンをどのように見ているのでしょうか。

山本 国内にも規模は小さいながら、いくつかアートフェアがありますよね。まずは例年3月開催の「アートフェア東京」、最近だと秋に開催されている「アートコラボレーション京都」

ローゼン 新しい国際アートフェアとしては、今年の7月に横浜で開催される「Tokyo Gendai」があります。ギャラリストの間でも話題に上がっていてみなさん期待はしていそうですね。

小山 ただ、日本にマーケットはないってことはみんな知っている。

ローゼン 一方で、日本にはいいアーティストがたくさんいることも知っている。

小山 うん、国際的に活躍する日本のアーティストはアジアの諸外国に比べても多い。例えば村上隆さん、奈良美智さん、杉本博司さん、草間彌生さんなど少なくとも10人はいる。

山本 日本のアートマーケットは複雑で、海外と比べると、状況が見えづらいですね。日本に富裕層がたくさんいるのに、その人たちは何にお金を使ってるのか見えない。税制が整えば日本の代表的なアーティストの作品を日本に残せるかもしれないのにね。

ローゼン たとえばアメリカなら、毎年、美術館に多額の寄付をしたり、コンサルタントが持ってきた作品をぽんと買う人がいます。日本にはまだない習慣ですよね。

山本 何度も言いますが美術館に寄付しない理由も、税制です。寄付しても税金がたいして優遇されるわけじゃないし。猶予って……。*

*編集部註)美術品に係る相続税の特例として、平成30年度に「特定の美術品に係る相続税の納税猶予制度」が整備され、長期寄託契約を結んだ特定の条件のもとで課税価格の80%に対応する相続税の納税を猶予する制度が整備された。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/bijutsuhinsozoku/

ローゼン 話を戻すと、海外のアート関係者は、日本に来るのを他の理由で楽しみにしているのは確かです。

小山 そうなんだよね。一番の理由は、食べものがおいしいから。

ローゼン 東京に支店を持つ海外のギャラリーも多いですね。それはアジアのハブという役割ももちろんだけど、家賃が安いし、食べものがおいしいし、文化も豊かだから。あと、治安が良いことも理由かな。

山本 ええ、インフラも整ってるし、マンパワーも優秀。

ローゼン 昨年、MISAKO & ROSENとXYZ Collective で企画し、有志のギャラリーで熱海で実施した「温泉大作戦2022」は楽しかったですね。世代を超えてさまざまな都市のギャラリストとアーティストと温泉旅行に行き、コンファンレンスをしたりするんですが、その後は温泉を楽しんで浴衣を着て大宴会でわいわいやって。コレクターを連れてきているギャラリストもいました。

山本 ええ、あれは楽しかった!

ローゼン みんな一緒にごはんを食べて、観光して、情報を交換する試みです。

conference
「温泉大作戦2022」コンファレンスの様子

山本 アートフェアの開催地は都市の魅力とも関係していますよね。

小山 うん、台北もソウルも香港も街が楽しい。だから何度も行っちゃうよね。

ローゼン 京都も! アートフェアに行ったついでに観光も楽しめることは重要だと思いますね。アートマーケットのいまを知るにはアートフェアを見に行くのがいいですね。一年中、世界のいろんな都市で開催されているので、アートを学びたい人もコレクションしたい人も、観光と合わせて出かけてほしいです。

2023年 いまから観に行ける注目のアートフェア

MISAKO & ROSENが解説する、世界のアートフェア(会期順)。こちらに紹介できなかったアートフェアも多いので、旅行プランの一つの参考として活用してください。★印付きが特にお勧めです。

Art Basel (スイス)の会場の様子(2021年)

6月
Liste Art Fair Basel(スイス) 2023年6⽉12~18⽇
https://www.liste.ch/
Liste Art Fair Basel(リステ・アートフェア・バーゼル)、近年若⼿だけのフェアでもなく中堅や⼤御所も混ざったフェアとなっていた印象が強い。そしておもしろいギャラリーを⾒つけるのには最も適したフェアだ。Liste Art Fair Baselを卒業したギャラリーによる寄附も⾏われておりNADA(ナダ)のようにアソシエーションとして機能し始めている。

Art Basel (スイス) 2023年6⽉15~18⽇(予定)
https://www.artbasel.com/
Art Basel(アート・バーゼル)は、世界で⼀番有名なアートフェア。2022年末、⻑らくディレクターとして活躍してきたマーク・スピーグラーからノラ・ホロウィッツにディレクターが交代した。

★ JUNE ART FAIR (スイス) 2023年6⽉15~18⽇(予定)
https://june-art-fair.com
Liste に⻑らく参加していたオスロのギャラリーVI VII とコペンハーゲンのギャラリー、クリスチャン・アンダーソンにより2019年に誕生した完全招待制のフェアが June(ジューン)。アートバーゼルの開催されるコンベンションセンター近くに建つ、スイスを代表する建築家ヘルツォーク&ド・ムーロンによる建物の中で開催されている。

7月
Tokyo Gendai 東京現代(横浜) 2023年7⽉6〜9⽇(予定)
https://tokyogendai.com/ja/
マグナス・レンフリー⽒が⽴ち上げた海外資本のフェア。アートマーケットの⼩さい⽇本でどういった存在になるのだろうか。「東京」とあるが開催会場はパシフィコ横浜。

9月
The Armory Show(ニューヨーク)2023年9⽉8〜10⽇(予定)
https://www.thearmoryshow.com/
1994年にグラマシー国際アートフェアを前⾝としてニューヨークで誕⽣したアートフェア。ギャラリストにより創設されたフェアであり、メンバーは著名なギャラリストのマシューマークス、コリン・デランド、パット・ハーン、リサ・スペルマン、ポール・モリスである。いまでも世界の最良のギャラリーが多く出展している。

★ Frieze Seoul(ソウル)2023年9⽉6〜9⽇(予定)
https://www.frieze.com/fairs/frieze-seoul
韓国のソウルにはもともと、韓国のギャラリー協会により開催されているKiaf SEOUL(キアフ・ソウル)というフェアが主流だった。2022年にFriezeが初のアジアに進出したのがFrieze Seoul(フリーズソウル)。メインギャラリーのセクションのほか「フォーカスアジア」なるソロセクションもあり、さらにフリーズマスターも⼀緒に開催されている。

10月
Frieze London(ロンドン)2023年10⽉11〜15⽇(予定)
https://www.frieze.com/fairs/frieze-london
Frieze Master(ロンドン)2023年10⽉11〜23⽇(予定)
https://www.frieze.com/fairs/frieze-masters
今では4都市で開催されるフリーズアートフェア。2003年に始まったロンドンのフリーズがオリジナルである。アート雑誌「フリーズ」マガジンを基盤にアマンダ・シャープとマシュー・スロトバーにより創⽴されたフェアとして知られている。建築やカルチャーのトレンドをいち早く盛り込んだフェアとして評価が⾼く、リージェンツパークに毎年テントを張って開催されている。

Paris+ Par Art Basel(パリ)2023年10⽉19〜22⽇(予定)
https://parisplus.artbasel.com/parisplus
2022年にアートバーゼルが始めたパリのフェア。FIAC(Foire lnternationale d’Art Contemporain)国際現代アート見本市のディレクターだったジェニファー・フレイがアドバイザリーボードに引き抜かれた体制で始まったフェア。ディレクターは、パリ・インターナショナルのディレクターだったクレマン・ドゥレピーヌが就任した。

★ Paris Internationale(パリ)2023年10⽉18〜22⽇(予定)
https://parisinternationale.com/
Paris Internationale(パリ・インターナショナル)は2015年にヨーロッパのギャラリストにより始まったフェア。参加ギャラリーは招待制となっており、バーゼルでもないフィアックでもない新しい雰囲気が特徴。毎回、パリの歴史を垣間⾒ることができる廃墟や空いた物件を会場にしている。

★ ACK(Art Collaboration Kyoto)(京都)2023年10⽉28〜30⽇(予定)
https://a-c-k.jp/
2020年に第⼀回を開催予定だったが、コロナにより2021年にようやく開催された。京都府が主体、CADANも実⾏委員会に参画している。

11月
Art Cologne(ケルン)2023年11⽉16〜19⽇(予定)
https://www.artcologne.com/
Art Cologne(アートケルン)は、1967年に国際的なアートフェアとしてスタート。世界初の近現代のアートフェアとされている。現在でも、世界の主流のギャラリーが出展する以上に、ヨーロッパの古くからある⽼舗のギャラリーが多く出展している印象である。

12月
Art Basel Miami Beach(マイアミ)2023年12⽉8〜11⽇(予定)
https://www.artbasel.com/miami-beach
2012年にアートバーゼルがフロリダのマイアミで始めたフェア。冬でも温暖なマイアミは、アメリカの富裕層がホリデーや老後を過ごす場所で、マイアミでビジネスを展開するコレクターも多くいたことから、設⽴された。

NADA(マイアミ)2023年11⽉30⽇〜12⽉3⽇(予定)
https://www.newartdealers.org/
NADA(ナダ)は、New Art Dealers Allianceの略名。アートフェアが有名だが、アートアソシエーションとしてニューヨークを中⼼に多くのギャラリーがメンバーとなっている。フェアは、マイアミがオリジナルで、バーゼルマイアミと同時期に同じ都市で開催ということもあり、ニューヨークのNADANYよりもマイアミの⽅がメジャーな存在である。

小山登美夫ギャラリー六本木
住所:東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F
開廊時間:火-土 11:00 - 19:00
定休日:日曜・月曜・祝日
http://tomiokoyamagallery.com/

ANOMALY
住所:東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex 4F
開廊時間:火-土 12:00 – 18:00
定休日:日曜・月曜・祝日
http://anomalytokyo.com/top/

MISAKO & ROSEN
住所:東京都豊島区北大塚3-27-6 1F
開廊時間:水-土 12:00 - 18:00、日 12:00 - 17:00
定休日:月曜・火曜
https://www.misakoandrosen.jp/

CADAN有楽町
住所:東京都千代田区有楽町1-10-1 有楽町ビル 1F
電話:070-6464-1438
営業時間:火-金=11:00-19:00/土、日、祝=11:00-17:00
定休日:月(祝日の場合は翌平日)
https://cadan.org/cadan-yurakucho/

「CADAN : 現代美術 2023」
7月8日(土)- 10日(月)
会場:WHAT CAFE、T-LOTUS M
入場料:一般500円 高校生以下無料

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