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アムステルダム国立美術館 永遠の花々

パブリックドメインで巡る世界の美術館

No.003

パブリックドメインとは、著作権を有さない公共の知的財産のこと。世界には、そのような所蔵品をインターネット上で公開している美術館があります。パブリックドメインとなった所蔵品を取り上げ、その魅力をあらためて紐解きます。


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2020.10.14

パブリックドメイン(公共の知的財産)となった所蔵品をオンラインで公開している世界の美術館を巡るシリーズ。前回に引き続き、着目するのは中世から現代にかけてのオランダの芸術を中心に収蔵するアムステルダム国立美術館。17世紀の黄金時代に発展したジャンルのひとつ、静物画も数多く所蔵されています。当時のオランダは、園芸文化の発展が目覚ましく、人々の園芸植物への関心が高まっていたことや、宗教改革により聖書を主題とした宗教画から解き放たれ、世俗的な題材が取り上げられるようになったことなどから、花は静物画の恰好のモチーフとなりました。今回は、花を主役に据えた静物画を多く描いた3人の作家を取り上げ、練馬区立牧野記念庭園記念館の学芸員・田中純子さんに解説いただきます。


ヤン・ブリューゲル(子)《ガラスの花瓶に入った花の静物》1625~1630年頃

ガラス瓶に何げなく挿したように見える花束の素朴さが特徴的です。色合いもやわらかなのは、バラやアイリスといった人目を惹く花もなく、当時オランダの人々を熱狂させたあの輝かしいチューリップもないからでしょうか。同名の父や弟子たちによって、花瓶や籠を使って一かたまりに集めた花を描き、昆虫や貝殻などを添えるスタイルが確立されました。17世紀のオランダでまさに花開いた花の静物画を見て、当時のオランダの人たちは、そこに自然のありようを、ひいては神の存在を感じたのではないかと想像させられます。それは時を経て、園芸家、石井勇義の墓に刻まれる「自然神之賜 花自然之姿」に通じるように思います。これは植物分類学者、牧野富太郎の言とされています。

アブラハム・ミグノン《花と時計の静物》1660~1679年頃

花の華麗さに一瞬目を奪われる作品。中央に位置するバラが明色で求心性を発揮し、周囲の花々はあちこちを向き、そこに大きな旋回を感じます。一方で、対角線上にある、斜め上に伸びんとするアイリスと首を垂れた赤いシャクヤクが好対照をなしています。頂点に位置するケシをはじめ、すでに開いた赤い花々が導き手となって、台の上に置かれた時計に目が行くでしょう。時が刻まれ花の色も移ろうと語りかけるかのようです。青い布に結ばれたカギは天国の門を暗示しているのかと考えをめぐらしてしまいます。花々にとまる昆虫や奥に隠れた花々をみつけるのも一興です。

ラッヘル・ライス《大理石のテーブルの上にある花の静物》1716年

光があたるバラやケシの白、ピンク、うす黄色、そしてサーモンピンクという色調が、なんとも言えないやさしい雰囲気を生み出しています。白いバラは、花弁の基部に赤い模様(ブロッチ)が入って印象的。これらの花々は花瓶の口に近いところに集中しています。上部は、斜め上向きのアイリスを取り巻くケシやカーネーションの茎のうねりが優雅で、絵全体に動きを与えています。首を重たげに垂れたバラは、この絵の構図を引き締める存在。花弁も葉も透けるような薄さが感じられ、はらりと散ってしまいそう。ガラスの花瓶には窓が映り、絵の明るさの所以が分かります。ライスの静物画は精密かつ写実的。それは、若い頃、科学者であった父のコレクションの標本を描いた経験が活かされているのでしょう。

Text:田中純子(練馬区立牧野記念庭園記念館学芸員)

アムステルダム国立美術館
オランダ最大の美術館であるアムステルダム国立美術館では、レンブラント・ファン・レインの《夜警》をはじめとした、オランダ絵画のコレクションが特色。中世から現代までの時代ごとに80の展示室で構成されています。本記事で取り上げた作家以外にも、バルタザール・ファン・デル・アスト、アブラハム・ヘンドリック・ファン・ベイレンなどによる花の静物画を所蔵しています。
https://www.rijksmuseum.nl/en
https://www.rijksmuseum.nl/en/rijksstudio ※左記の美術館公式サイトにてパブリックドメインを公開
住所:Museumstraat 1, 1071 XX Amsterdam, オランダ
開館時間:9:00~17:00
入館料:大人€ 20,00(オンライン € 19,00)、18歳以下は無料

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