東京のアートシーンを発信し、創造しよう。

MENU
MENU

Biodiversity Heritage Library(BHL;生物多様性遺産図書館) 伝説の生き物

パブリックドメインで巡る世界の美術館

No.004
John Ashton,Curious creatures in zoology, London: John C. Nimmo, 1890.
Image courtesy of BHL

パブリックドメインとは、著作権を有さない公共の知的財産のこと。世界には、そのような所蔵品をインターネット上で公開している美術館があります。パブリックドメインとなった所蔵品を取り上げ、その魅力をあらためて紐解きます。


Share
2020.12.23

パブリックドメイン(公共の知的財産)となった所蔵品をオンラインで公開している世界の美術館を巡るシリーズ。Biodiversity Heritage Library(以下BHL)は、アメリカ自然史博物館、ロンドン自然史博物館などの博物館や図書館、研究機関が共同設立した世界最大の生物多様性に関する文献のデジタル化プロジェクトです。昨今の気候変動のなかで急速に変化する生態系を理解するためには、研究者が多様な自然史の文献に容易にアクセスできることが必要とされてきました。そのような課題を解決するべく、BHLは世界中の施設に収蔵されている文献のデジタル化に向けて2007年に設立され、現在では、15世紀から21世紀までの数十万冊、5,800万ページ以上の文献をオンラインで公開しています。今回はその膨大な資料のなかから、妖怪のイラストや立体作品を手がける妖怪造形家の天野行雄さんに、世界各地で古くから知られている「伝説の生き物」の図像をピックアップしていただき、日本の妖怪との関連性にも触れながら解説していただきます。


ジョン・アシュトン『Curious creatures in zoology』(1890年)よりキュクロープス

John Ashton,Curious creatures in zoology, London: John C. Nimmo, 1890.

Image courtesy of BHL

1890年に刊行されたジョン・アシュトンによる『Curious creatures in zoology』は、『奇怪動物百科』(高橋宣勝翻訳、博品社、1992年)として翻訳もされた書籍。古来の書物に描かれた生き物が収録されています。そのなかのひとつ、詩人スルーパーが描いたギリシャ神話の巨人族キュクロープスは怪物的で、日本の妖怪のよう。この神は単眼で、製鉄を司ります。日本にも鍛冶の神で単眼の天目一箇神(あめのまひとつのかみ)がいます。この神が零落した存在ともいわれる一本だたらは、単眼で一本足の怪物。鉄を生成するには熱く溶けた鉄を見つめ、フイゴを踏み続けなければならず、片目片足を損傷してしまうこともありました。鉄にまつわる神や妖怪が単眼一本足なのはそのことが反映されているといいます。スルーパーの怪物の足は重なっているだけで、ひょっとすると一本足ではないかもしれませんが、時代も土地も違うギリシャの神と日本の妖怪の姿に共通項があることは非常に興味深いものです。

ジョン・アシュトン『Curious creatures in zoology』よりビショップ・フィッシュ

John Ashton,Curious creatures in zoology, London: John C. Nimmo, 1890.

Image courtesy of BHL

16世紀スイスの博物学者コンラート・ゲスナーの動物誌で紹介されたビショップ・フィッシュ(海の司教)の図像。魚でありながら、人のようないで立ちをしています。ビショップ・フィッシュは、1531年にポーランド沖で発見されたといわれており、正体についてはイカ、アザラシなどが候補にあげられています。アシュトンは、「神の恵みをもたらす海には、地上と対応するもの全てが海にあり、司教や修道士も存在していた」という当時の詩人たちの解釈を紹介しました。大航海時代、未開の海を開拓し、発見される未知の生物に、当時の人の信仰や理が反映した解釈がなされている点が面白いといえるでしょう。

中村惕斎(なかむらてきさい)『訓蒙図彙(きんもうずい)』より獬豸(かいち)

Liodor Serrurier,Encyclopédie japonaise :le chapitre des quadrupèdes avec la première partie de celui des oiseaux, Leyde [Netherlands]:Brill, 1875.

Image courtesy of BHL

『訓蒙図彙』は江戸時代に作られた百科事典です。虎や象など実在の生物に混じって幻獣も載っています。獬豸は麒麟や貘と比べると、あまり馴染みがないでしょう。獅子のような容姿で、額に一本、角が生えています。人の争いがあると現れ、その善悪を見極め、理の通っていない方をその角で突き殺します。法を守る幻獣ということで、中国や台湾では法律を扱う役人の装飾品にデザインされることも。この獬豸が韓国に伝わると角がなくなり、獅子のような見た目になりました。やがてそれが日本に伝わり狛犬となったともいわれています。だとすると気づかないうちに、実はかなり目にしている幻獣なのかもしれません。

Text:天野行雄(妖怪造形家)

天野行雄
妖怪造形家。1970年生まれ。アートユニット「日本物怪観光」を主宰。妖怪をモチーフにしたイラストや立体作品、ワークショップなどを手がける。出版物にイラストを担当した『怪しくゆかいな妖怪穴』(毎日新聞社、2011)、『妖怪探検図鑑』(あかね書房、2013)、ワークショップの様子について書かれたドキュメンタリー『隅田川の妖怪教室』(講談社、2016)がある。

Biodiversity Heritage Library
オンライン図書館ともいえるBHLでは、生物に関する22万点以上の画像をflickrにて公開しています。研究目的としてだけでなく、アートやデザインの分野で利用する動きも広がっています。
https://www.biodiversitylibrary.org/
https://www.flickr.com/photos/biodivlibrary/ ※左記のflickrの公式ページにてパブリックドメインを公開

公式アカウントをフォローして
東京のアートシーンに触れよう!