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——江戸東京たてもの園:身体を使って建築を知る「けんちく体操」

学校と文化施設をつなぐ、ティーチャーズ・プログラム[後編]

イベント・レポート

No.005
event report 05
江⼾東京たてもの園に移築されている昭和初期の銭湯建築「⼦宝湯」

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2017.01.05

江戸東京たてもの園でのティーチャーズ・プログラムのレポート第三弾は、特別編として「けんちく体操」の様子を詳しく紹介します。


先生だらけの「けんちく体操」

江戸東京たてもの園の「ティーチャーズ・プログラム」で学校の先生方を対象に行われた「けんちく体操」。けんちく体操は、身体で建築の形のまねをするものです。この日は発案者でもある「けんちく体操博士」こと、イサーム・よね(米山勇)さん、「けんちく体操マン1号」こと高橋英久さん、そして学芸員の田中裕二さんが「けんちく体操マンV3」として登場しました。

「これまで10年以上『けんちく体操』をやっていますが、今日のように子供がまったくいないのは珍しいです」と、けんちく体操博士(以下、博士)。実は博士は、江戸東京博物館の研究員。当時同僚だった体操マン1号と一緒に子供を対象にしたワークショップとして2002年に始めたものでした。今や国内だけでなくドイツ、スウェーデン、南アフリカなど海外にも広まるけんちく体操。身体さえあればどこでも楽しめますが、3つの約束があります。それは「身体以外は使わない!」「自分の好きなようにやる!」「体操が完成してもすぐにやめない!」です。けんちく体操マン1号からこの約束事についての説明があり、いよいよ実践に入りました。

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左から、けんちく体操マンV3、けんちく体操マン1号、けんちく体操博⼠

建築は、3次元の構造物

「333mのタワーは?」とクイズで始まります。参加者の一人が「東京タワー!」と答えると、博士が東京タワーにまつわる小話をします。東京タワーの特徴は333mの高さを支えるトラス構造と、空に向かって高く細く伸びてゆく三角のシルエット。「まずは一人で東京タワーになってください」。参加したほとんどの人が両手を上へ伸ばし、足を開き、その象徴的な形を表現しました。「体操が完成してもすぐにやめないでそのままじっとしていてください」と、博士はたくさんの東京タワーから最も優れた2名を選出。「こちらの方は人とは違う演技をしたいという熱意が足先にまで感じられます」と、コメントしました。

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東京タワーの優秀作

その後、浅草のランドマーク「アサヒスーパードライホール」、江戸東京たてもの園に移築されている「前川國男邸」などを演じ身体がほぐれてきたところで今度は二人一組での挑戦です。はじめのお題は「東京スカイツリー」。この日初めて会った人同士がペアになり、話し合いながら演技していきます。博士に選ばれたのは3組。「今回はこちらのお二人がピカイチです。建築は3次元の構築物。構造や空間の表現がポイントです。この二人は360度どこからみてもスカイツリーですね」。

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東京スカイツリーの優秀作。右のチームが最優秀。
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グループワークの学びにも

そのほか「東京都江戸東京博物館」「東京ゲートブリッジ」に挑戦したあと、今度は3名一組で「子宝湯」や「国立代々木競技場 第一体育館」などのお題が出ました。

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江⼾東京博物館
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東京ゲートブリッジ
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江⼾東京たてもの園に移築されている昭和初期の銭湯建築「⼦宝湯」

そして最後は9人ずつの2チームに分かれ、大技での対決です。各チームともそれぞれリーダーが任命されました。お題は東京・築地にあるインド風の「築地本願寺」。それぞれ写真を見ながらじっと考えたり、まずは身体を動かしてみたり。「組み体操のように組んだらどうだろう」「二人で向かい合ったらいいのでは」と、さまざまな意見を出し合いながら徐々に築地本願寺に近づいていきます。

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チーム内で話し合いながら、⼀つの建物になっていく

両チームともリーダーの「完成!」という声で、博士の審査に入ります。「どちらもよくできていますが、築地本願寺特有のアクの強さが表現されているのはこちら」と、勝者が決まりました。「全体を見ながら指示をしていたリーダーが、最後に定位置に立ちスッと手を広げたときに完成度が増しました」とチームワークも好評価。チームの人数が増えるに連れて、会場の熱気も高まっていきました。

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勝利したチームの築地本願寺

「同じ建物でも、違う表現が生まれるこの体操は、参加するたびに新しい発見があります。けんちく体操で建物の見方も変わったのではないでしょうか」とけんちく体操マンV3。「ぜひ、子供たちにも教えてください。きっと子供たちは一生懸命やります」と博士が締めくくりました。
子供も大人も楽しく学べるけんちく体操。即興のチームで行う身体表現は、グループ学習の要素もあるでしょう。そして伸ばしたり、曲げたり、ねじったりと身体を思い切り使いながら形を表現することは、ある種の建築体験なのかもしれません。

文・構成/佐藤恵美

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