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働きながらデザインを学ぶ[後編]

アーティスト・サバイバル・メソッド

No.011
一人ずつ自分のつくりたい本の企画をプレゼンしていく授業

先輩クリエイターやサポーターによる、アートの制作現場で役立つ情報をお届けします。


働きながらデザインを学ぶ[後編]
ミームデザイン学校

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2018.08.16

土曜日の午後、青山ブックセンターの一角で開かれるミームデザイン学校。後編ではブックデザインコースを紹介します。ブックデザインコースは約15名という少人数制。ブックデザインを実践的に学ぶ講座です。また、この学校を立ち上げた中垣信夫(なかがき・のぶお)さんに、文化を伝えること、これからのデザイナーに必要なことをうかがいました。


一人ずつ自分のつくりたい本の企画をプレゼンしていく授業

トップクラスの講師たちと直接話せる機会

デザインベーシックコースと同じ時間に、別室ではブックデザインコースの授業が行われていました。デザイナーの菊地敦己(きくち・あつき)さんによる「場としての本を考える」講義。本を一つの「場所」ととらえ、新たな本の企画を考えます。第2回のこの日は、既成の本から自分の面白いと思う本を一人ひとり順に紹介し、つくりたいオリジナルの本の企画を発表していきました。

一人ずつ好きな本の魅力を発表していく。講師の菊地敦己さんの突っ込みに笑いのたえない授業

受講生の一人、村岡志津加(むらおか・しずか)さんは、音楽や映像をも本の中に取り込みながら東京の面白さを伝えた、イタリアの人気DJによる著書『I LOVE TOKYO』(ラ・ピーナ、学研プラス)という本を紹介。

「本の企画としては、友人から毎年変わった年賀状が届くんですが、それをまとめたいなと考えています」

そういって村岡さんが出したのは、細かい工夫が施された数通の年賀状。「へ~!おもしろいですね!」「毎年来るんですか?」と口々に受講生から反応が返って来ました。

出版社のインハウスデザイナーとして勤務する村岡さんは、新卒で編集からデザイン・DTPまでを手掛ける制作会社に就職しました。その会社で経験を積み、現職へ転向。

「転職後、どのように自身のデザインの力を伸ばしたらよいか悩んでいたときに、たまたまミームデザイン学校の特別講座に5日間だけ参加したのがきっかけです。ただ講義を聞くだけではなく、講師と近い距離で話もできるし、一人ひとり丁寧に講評してもらえるのが何よりだと思いました」

仕事の上では得がたいプロの知見やアドバイスが身につくほか、同じ目的を持つ仲間がいるのも魅力、と話します。

村岡志津加さん

次代へ文化を伝えていく

中垣信夫さん

ミームデザイン学校を立ち上げたのは、デザイナーの中垣信夫さん。デザイナーとして第一線を走り続け、70歳を目前にした頃「これからは自分の作品をつくるより、自分たちが大事にしてきたことを次の世代へ伝えていきたい」と考えたといいます。

「アナログ時代のデザインでは、同じ机の上で紙を切ったり、線を引いたりしながら会話があった。やがて手作業がコンピューターに変わり会話も減り、人間と人間ではなく、人間と機械の関係になりました。この時代のデザインは人間性を失っていってしまうのではないか、という懸念がありました」

講師はさまざまな媒体で活躍するデザイナーやアート・ディレクターのほか写真家、印刷所、編集者、音楽家も。これまでの講師の数は100人を超える。毎年新しい講師陣を選ぶのはおもに中垣さんだが「僕も習いたいと思う人を選んでいます。例えば、菊地敦己さんは僕の常識だと思っていることを覆すようなデザインをされます。実際話をきくと、新しい感覚で社会を捉えていてとても面白いです。似た考えの人ばかり集まるよりも、違う考えの人が入ることで活性化するのだと思っています」と話します。

ブックデザインコースの講師、菊地敦己さん(右)

これまで、ほかのデザイン講座やデザイン学校に通った経験もある二口さん。ミームの魅力は講師陣の豪華さと、基礎が学べるところだといいます。

「実際に活躍するデザイナーの話を直にきいて、手を動かせる。それが何よりの魅力です。アプリケーションの使い方がわかり、より即戦力が身につく学校もありますが、ミームは体系的にデザインの概念を学んだり、職人的な手作業が身についたりします。デザイナーにとって、そこが一番大事な部分だと思います」

これからのデザイナーに必要なこと

休憩時間に、それぞれの持ち寄った本や資料を見せ合い、アイデアが膨らむ

学校名の「ミーム(meme)」とは、イギリスの進化生物学者R.ドーキンスが「文化の遺伝子」という意味で創り出した科学用語。中垣さんは「デザインの文化を伝えていく」という意味を込めてこの名をつけました。最後に、これからのデザイナーに求められることをうかがいました。

「僕が主にしてきたブックデザインは、人類の英知を伝える仕事です。その英知をいかに伝えていくかを考えると、今は人の営み全てを体系化し本の中に封じ込めた百科事典も売れない時代。インターネットで調べたいことにすぐにたどりつけても、本をめくるようには見えてきません。点と点、個と個はつながりやすいけれど、同時に社会全体が分断される問題もはらみます。本の役目でもある『情報伝達』がインターネットに代わることで、何が本当に大事な情報なのかがわからない。だからこそデザイナーには、文化をどのように構築していくかが求められているのだと思います」

今いる場所が、過去から続いてきたことを意識しながら、次の時代を考え、伝えていくこと。デザインにとって何が大事なのかを考えるミームデザイン学校は今年で11年目になります。これから先もデザインの『遺伝子』をつないでいくことでしょう。

本の企画を考える受講生のノート

Text:佐藤恵美
Photo:中川周

ミームデザイン学校
[お問い合わせ]

ミームデザイン学校事務局(中垣デザイン事務所内)
◎住所:東京都新宿区西新宿4-31-3-1010
◎E-mail:office@memedesign.org
◎TEL:03-5350-2801(平日12:00-20:00)
http://www.memedesign.org

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