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東京都現代美術館「MOTコレクション コレクション・オンゴーイング」ギャラリートークをレポート!——後編

イベント・レポート

No.009
event report 09
豊嶋康⼦特別展⽰室にて

東京都現代美術館の、長期休館前の最後の常設展「MOTコレクション」。この貴重な展示をガイドスタッフの竹内美枝さんの案内でまわります。レポートの後編は豊嶋康子、辰野登恵子、宮島達男の作品を見ながら、ツアーガイドの醍醐味にも迫ります。


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2017.01.09

特別展示・豊嶋康子、辰野登恵子と宮島達男

90年代に活動を開始し、コンセプチュアルな作品で近年あらためて注目を集める豊嶋康子。特別展示として、2部屋にわたって作品を紹介しています。
「社会の仕組み、生活の決まりごとや規範といった、既存のシステムに対し、本当にそうなのか、そのなかで『私』を形づくるものは何なのか、と疑問を投げかける作品をつくっています」とガイドスタッフの竹内美枝さん。

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豊嶋康⼦特別展⽰室にて

棚に並ぶたくさんの通帳。そのどれにも「豊嶋康子様」と描いてあり、作家本人の通帳のようです。
「今はもうなくなってしまった銀行の通帳もありますね。豊嶋さんはいろいろな銀行に口座をつくり、自分から自分に振り込むといった行為から、銀行のシステムそのものを問いかける作品を制作しています」。

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豊嶋康⼦《⼝座開設》1996- 個⼈蔵
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豊嶋康⼦《振込み》1996-

また、壁に掛かる木のパネルは、美術館や絵画といった制度や条件に対する批評だそう。竹内さんの誘導で裏面をのぞいてみると、木の細工が施され、その細工はパネルによってそれぞれ違いました。
「説明をきかなかったら、言われるまでのぞこうとしなかったな」という声も。
「思い込みを変える、という意味ではあちらにあった《復元》がおもしろいね」と別の参加者が話します。
「それでは、その《復元》をみなさんで見に行きましょう」。

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豊嶋康⼦〈パネル〉シリーズの前で

「普通は復元って欠けたところを補うけれど、この作品は小さなかけらから全体を想像して、復元してしまっているんですね」と参加者も話します。

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豊嶋康⼦《復元》(2003-2006年)の前で

続いて、2階の展示室へ移動します。2階の特別展示室は、版画や油彩画の作家、辰野登恵子を取り上げています。大きな油彩画は2011年に制作された《ばら色の前方 後方》。
「どちらの色のかたまりが前方に見えるでしょうか。いろいろと想像してみてください」と竹内さん。よく見ると、ピンク、茶色、黄色、青色など色が何層にも重なっています。これが辰野登恵子の「ばら色」なのです。

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⾠野登恵⼦《ばら⾊の前⽅ 後⽅》(2011年)の前で
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⾠野登恵⼦がフランスの⼯房にて、⽯版で制作した作品の前で

そして、最後の部屋へ。そこは真っ暗な空間にデジタルカウンターが浮かぶ、宮島達男の作品が展示されていました。「1から9までを数えるカウンターが無数に点灯しています。その刻み方が遅いものもあれば、早いものもある。生と死などさまざまイメージを想起する作品です」。
こうしてこの日トークは終了。終了後も竹内さんに質問をする参加者の姿がありました。

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宮島達男《それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く》1998

「一番好きな作品は、宮島達男の作品」と話す竹内さんはガイドスタッフを20年以上続けています。宮島達男の《それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く》は東京都現代美術館の展示空間に合わせて制作されました。1998年の設置以来、館とともに歩んできたMOTコレクションを代表する作品のひとつです。
現在、東京都現代美術館で活動するガイドスタッフは、竹内さんのようなベテランも含め29名。来場される方々と美術館をつなぐ橋渡しの役目を担い、ボランティアとして活動しています。
竹内さんがギャラリートークの際に持っていたファイルが気になり、見せていただきました。そこには作品や作家の情報がびっしりと書かれた手書きのノートと、たくさんの資料。「展示替えのたびに学芸員による研修があり、そこで得た情報をファイルにまとめています」。
「今日は常連の方、初めていらっしゃる方などさまざまな方が参加してくださいました。なかには、アイドルグループの嵐の大ファンで、嵐の大野智さんと草間彌生さんがコラボレーションした様子を見て現代美術に興味を持ち、この美術館に初めて来たという高校生もいました」。そうした現代美術ファンが誕生する瞬間に出会えるのも、この仕事の醍醐味かもしれません。

竹内さんのようなガイドスタッフによる「MOTコレクション」展のギャラリートークは、毎日14時から開催!同時開催の2つの企画展「スタジオ設立30周年記念 ピクサー展」「MOTアニュアル2016 キセイノセイキ」とあわせて、ぜひ会場に足を運んでください。

文・構成/佐藤恵美

インフォメーション

コレクション・オンゴーイング

会期2016年3月5日(土)~5月29日(日)
休館月曜日(2016年5月2日、23日は開館)
開館時間10:00-18:00 ※入場は30分前まで
会場東京都現代美術館 常設展示室
展示作家ウィレム・デ・クーニング、トーマス・デマンド、デイヴィッド・ホックニー、ロイ・リキテンスタイン、アンディ・ウォーホル、トム・ウェッセルマン、オノサト・トシノブ、太田三郎、辰野登恵子、照屋勇賢、豊嶋康子、福島秀子、吉岡徳仁 ほか
主催東京都、東京都現代美術館
※「スタジオ設立30周年記念 ピクサー展」、「MOTアニュアル2016 キセイノセイキ」も開催中(ともに2016年5月29日まで)。各展覧会のチケットで「MOTコレクション」もご覧いただけます
URLhttp://www.mot-art-museum.jp/

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