この日の参加者は、東京都内の小・中学校の先生方。午前中に東京都江戸東京博物館(以下、江戸博)の展示室を見学しながら、江戸博が提供している常設展示室のワークシートに挑戦。午前中に制作のポイントをつかんだら、午後からグループごとに1枚のワークシートをつくります。
先生たちがつくる、鑑賞ワークシート[前編]
東京都江戸東京博物館のティーチャーズ・プログラム
イベント・レポート
No.014東京都歴史文化財団が、都内の小中高校の教員を対象に毎年開催している「学校と文化施設をつなぐティーチャーズ・プログラム」。教員に都立文化財団の教育普及事業を体験してもらい、授業に役立てていただく取り組みです(昨年度の様子はこちら)。9回目となる今年は、東京都立の美術館、博物館、ホールなど7つの文化施設で行いました。そのうち、7月に東京都江戸東京博物館で行われた「ワークシートの作り方」のプログラムを2回にわたってレポートします。前編では鑑賞ツールを作成するポイントについて、学芸員のレクチャーを交えて紹介します。
ワークシートはなぜ必要?―ワークシートことはじめ
「そもそもワークシートはなぜ必要なのでしょう?」。展示室の見学の前に、江戸博学芸員の津田紘子さんのレクチャーがありました。
ワークシートとは、展示を楽しむための鑑賞ツール。ですが「ただ楽しい」というだけではなく「これは何だろう?」「ここがわかった!」など興味を引き出し、鑑賞を理解に導くきっかけになるものです。
そして、実際に展示を見てワークシートを解いていきます。江戸博が提供しているワークシートの小学生版を使って、見学時間60分で体験してみました。
1つ目のワークシートのテーマは展示室入口にある大きな橋。これは江戸のシンボル「日本橋」を再現したものです。ワークシートの課題では、日本橋の飾り「擬宝珠(ぎぼし)」をスケッチしたり、現在の日本橋との違いや、渡ってみた感想などを書きます。先生たちは1問目ということもあってか、擬宝珠のスケッチに夢中に。
続いて2つ目のテーマは「大名かごに乗ってみよう」です。江戸時代に大名が乗っていた「大名かご」。解説を見ると、このかごで20日以上の旅を続けたそう。実際にかごに乗った感想を書いたり、質問に答えたりします。
そして3つ目の「体験しよう!」では、町火消各組のシンボル「纏(まとい)」や「千両箱」を持ち上げ、下肥が入っていた「肥桶」を担いだり。これが、意外とどれも重いのです。先生たちも「これは大変」と江戸の暮らしの苦労を実感していました。
最後のテーマ「くらべてみよう 道具のいま・むかし」では、日用品から江戸時代と現代の暮らしの違いを比べる内容。例えば洗濯機や炊飯器が、江戸時代にはどのような道具だったかなどを、展示を見ながら考えました。
教員によるワークシートづくりのポイントとは
こうしてあっという間に60分が終了。江戸から現代までの人々の日常生活や歴史などを紹介する東京都江戸東京博物館の常設展示室は、面積約9000㎡。校外学習で訪れた小学生が、限られた時間のなかですべてを丁寧に見て回ることはできません。
そこでワークシートをつくる上で大切なのは、見学時間と問題数の設定だそう。「そのバランスが崩れると、ワークシートを解くことに一生懸命になる余り展示をきちんと見ることができず、時間がなくて展示室を走り回る、といったことが起きてしまいます。子供の理解度やレベルに合わせたり、日頃の学習とも関連させたり、より興味を深めるためのポイントを絞ったりなど制作者の工夫次第で、より楽しい学習に導くことができます」と、津田さんは言います。
ワークシートの課題のテーマとしては、展示替えの少ない模型やパネルがおすすめ、と津田さんからのアドバイス。1問1答や記述式などの回答方法も紹介され、午後はいよいよオリジナルのワークシートづくりに入ります。4つのグループに分かれて制作しますが、教師の視点からどんなワークシートが完成するのでしょうか。後編では、その様子をお伝えします。
取材・文:佐藤恵美
インフォメーション
学校と文化施設をつなぐ ティーチャーズ・プログラム
夏休み期間中に都内の小中高校の教員を対象に行っているプログラム。東京都立の美術館、博物館、ホールなどの文化施設で教育普及事業を体験し、授業に役立てていただく取り組みです。