東京のアートシーンを発信し、創造しよう。

MENU
MENU

先生たちがつくる、鑑賞ワークシート[後編]

東京都江戸東京博物館のティーチャーズ・プログラム

イベント・レポート

No.015
⼦供の⽬線で展⽰を鑑賞する⽴⼭先⽣と服部先⽣

都内の小中高校の教員が教育普及事業を体験する「学校と文化施設をつなぐ ティーチャーズ・プログラム」。東京都江戸東京博物館のプログラム「ワークシートの作り方」をレポートする後編では、実際にオリジナルのワークシートを作成していく過程をレポートします。受け持つ子供たちの顔を思い浮かべながらワークシートをつくる教員の視点と、博物館学芸員の視点が融合すると、どんなワークシートができるのでしょうか。


Share
2017.01.15

教員の視点から鑑賞のポイントを考える

午前中に、ワークシートづくりの秘訣と心得を学び、いよいよ午後はワークシートを実際に作成していきます。TAN編集部は、小学校で担任を持つ立山道子先生と、図工を専門で教える服部鮎美先生のグループを密着取材しました。

まずは展示室を自由に見ながら構想を練ります。立山先生と服部先生は、早速展示室の隅でミーティング。「子供の生活に結びつくものを入れたいですね」「一問一答ではなく、見つけたものを書く、記述式の方がいいかも」「江戸と東京で比較できるような構成はどうでしょう」と開始5分も経たないうちに構想が固まっていきます。

「問題数があらかじめ決められていると、該当する場所を探さなければ、と頑張ってしまうけれど、そうではなく子供が自ら見つけたものを書けるのがいいですね」と立山さん。「学芸員さんの展示解説のように、『前もって聞いておくと面白いポイント』を、コメントとして添えるといいかもしれません。大名かごも、かごに乗る体験に加えてこれで21泊22日も移動する、と聞くだけでより大変さがわかりますよね」と服部先生。二人は小学生指導のプロだけあって、子供が楽しみながら学習ができる視点で展示を見ているようです。

⼦供の⽬線で展⽰を鑑賞する⽴⼭先⽣と服部先⽣

ワークシートを互いに評価し、実際に解いてみる

構想が固まったところで学習室に戻ると、すでにワークシートづくりに入っているグループもありました。ここから30分ほどでワークシートをつくり上げていきます。A3サイズの紙を半分に折って中面に枠をつくり、パンフレットから写真や図を切り抜いて貼り付けたりして、その場にある素材を活用し、どんどん形にしていきました。

ワークシートづくりは全部で約90分。そのなかでコンセプトや構想を⽴て、ワークシートを完成させる。半分は構想を練る時間だったので、実質30〜40分でワークシートをつくった。使える素材を選び(左)、台紙に写真を貼ったり、書いていく(右)

30分後、4つのグループの完成したワークシートはすぐにコピーされ、全員に配布されました。そして全員でもう一度展示室へ行き、今度は別のグループのワークシートに挑戦。異なった視点でつくられたワークシートによってさまざまな気づきもあったようです。最後にはグループごとにコンセプトの発表や他グループの評価を行いました。

グループ発表の様⼦

立山先生・服部先生のワークシートを解いたグループからは「それぞれの項目にリードがあったため記入しやすかった」という感想がありました。ただ時間が少し足りなかったようで「書けなかった箇所は宿題などにしてもいいかもしれない」といった提案も出ました。

⽴⼭先⽣・服部先⽣グループのワークシート。横軸は江⼾から現代までの時間軸、縦軸は「街並み」「家の中」「のりもの」とテーマで分かれており、⽣徒⾃⾝が気づいたことを⾃由に書き込める構成

「子供たちに何を見せたいか」を、じっくりと考えられる、貴重な1日

こうしてすべてのプログラムが終了。ワークシートを使う鑑賞教育に興味があって応募した、という服部先生。最後に今日の感想を伺うと「博物館を何度も自由に見られるなんて、こんなに充実した研修はなかなかありません。時間をかけて子供たちに何を見せたいかを考えていくのは貴重な経験でした。一人ではなくグループで、というのも刺激になりましたし、視点や目的の設定などもとても勉強になりました」と話していました。

「施設見学のための視察といっても、普通は1回だけざっと見たり、現地に行かずにパンフレットやホームページで見るだけということも。時間をかけて展示を見て考えられたのがよかったです。ほかのグループのワークシートもとても参考になりました」と立山先生も話します。

日々、学校内での業務に忙殺される教員の方々にとって、博物館で一つの課題にじっくりと向き合って考えたり、他校の教員と意見を交換したり、という時間は貴重なのではないでしょうか。

「今日のプログラムのなかでは先生たちから『ここを学んでほしい』『ここを取り上げたい』というポイントがたくさん出てきました。学芸員にとっても普段から子供たちに接している教員の方々の気づきや意見がとても参考になります」と学芸員の津田紘子さん。

参加する教員の方々にとっても博物館で働く学芸員にとっても、お互いに刺激となり、学び合えるティーチャーズ・プログラム。来年も夏に開催予定です。

構想が固まったところで学習室に戻ると、すでにワークシートづくりに入っているグループもありました。ここから30分ほどでワークシートをつくり上げていきます。A3サイズの紙を半分に折って中面に枠をつくり、パンフレットから写真や図を切り抜いて貼り付けたりして、その場にある素材を活用し、どんどん形にしていきました。

完成したワークシートの数々。乗り物や住まいの変遷などのテーマに絞ったり、幕末に焦点を当てたり、環境問題やオリンピックなど時事に関連したテーマを⽴てたりと、グループごとに⼯夫が凝らされている

取材・文:佐藤恵美

インフォメーション

学校と文化施設をつなぐ ティーチャーズ・プログラム

夏休み期間中に都内の小中高校の教員を対象に行っているプログラム。東京都立の美術館、博物館、ホールなどの文化施設で教育普及事業を体験し、授業に役立てていただく取り組みです。

公式アカウントをフォローして
東京のアートシーンに触れよう!