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六本木アートナイト2016[前編]

イベント・レポート

No.016

毎年恒例の一夜限りのアートの祭典「六本木アートナイト」。今年は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」などの国際会議に合わせ、10月21日(金)~23日(日)、2夜3日間の開催となりました。この「六本木アートナイト2016」を2回に分けてレポート。前編では、今年のメインプログラム・アーティスト名和晃平の作品、同時開催された「東京キャラバンin六本木」などを紹介します。

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2017.01.16

都市と地域を結ぶ名和晃平の有機的なインスタレーション

今回のテーマは「アートのプレイグラウンド-回る、走る、やってみる」。森美術館のある六本木ヒルズ、サントリー美術館や21_21 DESIGN SIGHTのある東京ミッドタウン、国立新美術館を中心に、神社や公園、商業ビルなど街じゅうを“遊び場”として、70名の作家による約200作品が集結。時間を忘れてアートを体感する人々の表情も開放的です。

まずは、メインプログラム・アーティスト、名和晃平が六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、国立新美術館で展開したインスタレーションから。プラントハンター西畠清順、バルーン(風船)ユニット「デイジーバルーン」とのコラボレーションのもと、文化の夜明けを象徴する「森」をテーマに、彫刻《Ether(エーテル)》を軸に展開していました。名和が2013年・2016年の「瀬戸内国際芸術祭」で滞在制作した過疎の島、犬島と、東日本大震災からの復興を進めている宮城県牡鹿半島で2017年に開催される「Reborn-Art Festival 2017」もつないでいます。西畠が世界中から集めた希少な樹木とあいまって、名和が石巻の漁師から借りた多数のブイが果実のようにも見えます。

六本木ヒルズでは「成熟した森」をイメージ。約8mの《Ether(エーテル)》と約6mの《White Deer》は、日本列島創生の神話をモチーフとして、3年ごとに更新している犬島の小さな作品を連想させます。液体が流れて床に広がる様子を上下反転させて積み重ねた形を表す《Ether》は、(無)重力と生命力を象徴。鹿の精霊《White Deer》が日本列島を旅しながら成長し、長い冬を過ごして六本木にたどりつき、《Ether》と出会うというストーリー。古来「神の遣い」とされながら、都市開発などで餌がなくなり、人里に降りてくる迷い鹿なのです。

ミッドタウンの作品は、新しい命の象徴である若い植物が育つイメージ。一方、国立新美術館の作品は老木をイメージしたもので、オリーブの枯れ木が荒波のように絡み合い、雲の荷車を押す「風の民」が《Ether》を中心に回っています。燃やせばエネルギーを生み出す、老いの力。いずれも日本画や世界の神話などを想起させる“彫刻の庭”のようでした。

デイジーバルーンとコラボレーションした東京ミッドタウンの作品
国⽴新美術館ではプラントハンター⻄畠清順とコラボレーション

カンパニー・デ・キダムの幻想的なパフォーマンス

六本木ヒルズの名和作品は舞台空間にもなり、さまざまなパフォーマンスによって表情を変えます。「文化の夜明けをイメージした」という淡いブルーの照明が瞑想的・幻想的です。

10月20日のプレビューでは、まず、フランスを拠点とするスペクタクル・パフォーマンス・グループ「カンパニー・デ・キダム」の新作公演「FierS a Cheval~誇り高き馬~」を鑑賞しました。白い羽のような衣装をまとったパフォーマーたちが、軽快な音楽や余情を醸し出す音楽とともに輪舞し、リングマスターが与える力で、光り輝く馬の姿へと姿を変えていきます。

風船による造形は、スペクタクルというよりもアナログですが、人間が操る優雅な動きは、ファンタジックな世界をよりリアルに感じさせます。

カンパニー・デ・キダムの光り輝く⾺が舞う
撮影︓櫛引典久

ハイブリッドな「東京キャラバン in 六本木」

続いて同時開催プログラム「東京キャラバン in 六本木」のプレビュー公演。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの文化プログラムを先する東京都のリーディングプロジェクトとして、劇作家・演出家・役者の野田秀樹が発案。「多種多様なアーティストが出会い、“文化混流”することによって新しい表現が生まれる」というコンセプトのもと進行中の、新しいムーブメントです。多様なジャンルの日本人アーティストが国内外を訪問し、現地のアーティストたちと国境や言語、文化、ジャンルの違いを超えてワークショップと制作を行い、「文化サーカス」を繰り広げていきます。

今年8月、オリンピック開催中のリオデジャネイロで生まれた「東京キャラバン in RIO」。9月に宮城・福島で生まれた「東京キャラバン in 東北」。名和も関わった2015年の「東京キャラバン~プロローグ」とも融合した作品が、今回の「東京キャラバン in 六本木」です。デイジーバルーンも衣装で参加。

リオからはサンバの前身「ジョンゴ」のミュージシャンやダンサー、カポエイラ・パフォーマー。東北からは仙台すずめ踊りの高橋組。そして、東京スカパラダイスオーケストラ、マダム・レジーヌらドラァグ・クイーンなど多彩な出演陣。なかでも人間国宝である能楽師の 津村禮次郎つむられいじろうや金津流獅子躍かなつりゅうししおどり は、かつて六本木が谷あいの里だった時代の風を呼び込むよう。現代的なパフォーマンスと郷土芸能が混じり合い、演者がステップを踏むと、色の付いた足跡が地面に付き、重なっていきます。

「『大きな物語』を見つけることは難しい現代でも、ある程度の大きさの物語を積み重ねることで、人々の『気運』をつくることはできる。デジタルメディア時代に、目の前で息をしている人間への興味を、未来を担う子供たちにも抱いてもらいたい」という野田。「足元の地面を掘っていけば地球の反対側と出会う」というシーンでは、1987年の夢の遊民社作品「明るい冒険-見よ、ポロロッカ空に逝く!」を思い出しました。ポロロッカとは、満月と新月の日に、月の引力でアマゾン川に起きる大逆流現象なのです。この「地球の反対側」というキーワードは後編へと続きます。

構想が固まったところで学習室に戻ると、すでにワークシートづくりに入っているグループもありました。ここから30分ほどでワークシートをつくり上げていきます。A3サイズの紙を半分に折って中面に枠をつくり、パンフレットから写真や図を切り抜いて貼り付けたりして、その場にある素材を活用し、どんどん形にしていきました。

⾦津流獅⼦躍の獅⼦をバックに東京スカパラダイスオーケストラが演奏(10⽉20⽇のプレビューより)
撮影︓櫛引典久
演者たちのステップが⼀枚の絵となる(10⽉20⽇のプレビューより)
撮影︓櫛引典久

文・構成:白坂ゆり

インフォメーション

六本木アートナイト

生活の中でアートを楽しむという新しいライフスタイルの提案と、大都市東京における街づくりの先駆的なモデル創出を目的として2009年にスタート。六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、国立新美術館の3エリアを結ぶ六本木の街を舞台に、アートばかりでなく、デザイン、音楽、映像、パフォーマンスなどジャンルを超えて展開。これまでは春に一夜限りで開催していましたが、8年目7回目を数える2016年は、10月21日~23日、2夜3日間にわたり開催されました。

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