2016年7月、近代建築の巨匠・ル・コルビュジエが設計した建築作品が世界文化遺産に登録され、その一つである東京・上野の国立西洋美術館も大きな話題となりました。その真向かいに建つ東京文化会館は、コルビュジエの弟子である前川國男(1905-1986)の代表作です。1961年、師の設計した国立西洋美術館から2年遅れて竣工しました。
今回のツアーを案内するのは、「けんちく体操博士」として「日本建築学会教育賞(教育貢献)」を受賞している建築史家・江戸東京博物館研究員の米山勇講師。建築ツアーのスタートです。
「20世紀の初頭に起こったモダニズムは、それまでのヨーロッパで大切にされてきた様式やルールから脱却した新しいスタイルでした。モダニズムが興った頃から100年近く経ったいまでも、その考え方は受け継がれ、私たちは気づかないうちに接しています。前川國男設計の東京文化会館にも随所にモダニズムの特徴が見られます」
東京文化会館バックステージツアー 建築編[前編]
建築家・前川國男のモダニズムを体感する 東京都歴史文化財団パートナーシップ会員校限定
イベント・レポート
No.018専門家のアテンドで舞台裏をめぐる「東京文化会館 バックステージツアー(建築編)」。2017年1月に開かれたツアーでは建築史家・江戸東京博物館研究員の米山勇講師による案内のもと、東京文化会館をまわりました。
毎日のようにさまざまなイベントが開催される東京文化会館でも、年に数回しか実施されない貴重なバックステージツアー。今回は東京都歴史文化財団のパートナーシップ会員校限定で開催された模様を、米山講師の挙げたキーワードをもとにレポートします。
東京文化会館と日本の「モダニズム」建築
限定された「色」
東京文化会館の「大ホール」に集まった参加者のみなさん。普段は出演者しか上がることのできないステージへと誘導されました。ステージから見える客席は、赤を中心に青、緑、黄の4色のシートがまだらに配されています。
「この建築の特徴の一つは色です。機能が重視されたモダニズム建築では、木やコンクリートなどの素材をそのまま見せることが多く、使用する色も赤、青、緑、黄の原色を基調に限定されています。この建物にも随所に登場しますよ」
音響を考慮して湾曲した天井には、三角形の穴。幾何学形態の使用もモダニズム建築の特徴だそうです。
「コンクリート」という素材
ステージからそのまま舞台下手へ。コンクリート打ち放しの壁や柱には、ぎっしりとサインが書かれていました。この大ホールで公演をした、一流の音楽家やダンサーたちによる50年分の足跡です。そのサインは楽屋エリアまで続きます。
「このコンクリート打ち放しも東京文化会館の大きな特徴です。ところどころ見られるコンクリートの曲面はコルビュジェの建築にもよく見られます。近くで見ると、曲面はつるんとはしていません。木の型枠でかたちをつくり、そこにコンクリートを流し込んでいる工程が現れています。表面には木目が見える部分もありますね」
建築のなかに「まちなみ」をつくる
次に大ホールを出てホワイエへ移動しました。「ホワイエから見る大ホールの壁面が、外壁に見えませんか」と米山講師。
「ここは、建物のなかに建物があるような、入れ子の構造になっているのがわかります。階段を10段ほどあがったところにはカフェ、さらにその上にはレストランがあり、さまざまな高さの床が視覚的に連携しています。レストランはガラス張りでホワイエから食事をしている人が見えますよね。こうした空間の複雑性は一つの街並みのようです」
樹木のような「柱」、星空のような「照明」
ホワイエには1.14×1.14mの大きな柱が点在しています。
「樹木のように大きな柱は、空間に親しみやすさをもたらします。柱がないほうが一見開放的かもしれませんが、無機的な印象を与えかねません。
天井を見上げると、照明がランダムに配置されていて、星空のようですね。床の三角形のタイルは木の葉のよう。木々と星空と木の葉。前川國男は森のような空間をイメージしたのかもしれません」
後編では普段は公開されていないエリアを見学し、前川國男のモダニズムを体感していきます。
文・構成:白坂ゆり
東京都歴史文化財団パートナーシップとは
学校教育において都立文化施設を有効に活用いただき、学生の皆様へ文化に親しむ機会を提供することを目的とした大学等を対象とする会員制度。
今回のような会員限定イベントや都立美術館、博物館の常設展無料入場、特別展の割引など様々な特典があります。入会は随時募集しておりますので、お問い合わせください。