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東京文化会館バックステージツアー (建築編)[後編]

建築家・前川國男のモダニズムを体感する 東京都歴史文化財団パートナーシップ会員校限定

イベント・レポート

No.019
⽶⼭講師が絶賛する外壁部分。写真右側がガラス部分を貫いている⼤ホールの壁⾯

日本を代表する建築家・前川國男が生きた時代と、その精神が垣間見えるツアー、「東京文化会館バックステージツアー(建築編)」の後編。屋外から屋上庭園や小ホールを見学し、前川國男建築の特徴を掘り下げていきます。前編に続き、近代建築を特徴付けるキーワードを軸に紹介していきます。


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2017.01.19

内外をつなぐ「空間の連続性」

建築史家の米山勇講師の解説による、バックステージツアー。続いて一行は、屋外へと移動しました。米山講師が、ある場所で立ち止まります。
「私はここが大好きです。この外壁は、実は屋内から続いています(写真下)。大ホールの壁面が貫通するかたちで、ガラスの壁面と斜めにぶつかっているんです。まさに〈内-外〉の連続性というモダニズムの理念を体現している。ここにホールがあるんだな、という内部の機能も表されています」

⽶⼭講師が絶賛する外壁部分。写真右側がガラス部分を貫いている⼤ホールの壁⾯

「屋上庭園」は宙に浮かんだ地面

再び屋内へ戻り、次に屋上庭園へ出ました。この場所は現在、一般開放されていません。この屋上庭園は「コルビュジエが唱えて世界に大きな影響を与えた『新しい建築の5つの要点(近代建築の五原則)』の一つにあてはまります」と米山講師は言います。
「建物に鉄筋コンクリート造を使うようになった20世紀建築において、コルビュジエは『ピロティ』『自由な平面』『自由な立面』『水平連続窓』『屋上庭園』を5つの要点としました。植物があり、建物の入口がいくつもある屋上は、宙に浮かんだ第二の地面です」

屋上庭園。奥が⼤ホールの4階部分。現在は閉鎖されている

広い空間を生み出す「コア」

屋上庭園をあとにし、青色の螺旋階段を降りると小ホールのホワイエへ出ました。螺旋階段の近くにはエレベーターがあります。
「階段、エレベーター、水回りなどを集中させた部分を『コア』といいます。大事な部分を1カ所に集めることで、空間を広々と使うことができるんです。現在でもビルの設計などには当然のように取り入れられている合理的な考え方です」

東京⽂化会館には、⻘と⾚の⼆つの⼤きな螺旋階段がある

コルビュジエが愛した「スロープ」

小ホールのホワイエから、再び大ホールのホワイエへ戻ります。二つのホワイエをつなぐのは、なだらかなスロープ。
「コルビュジエはスロープを使うのが好きでした。国立西洋美術館にも印象的なスロープがあります。スロープは空間と空間をつなぐ通路ですが、その傾斜の美しさはもちろん、人が移動する姿をも美しく見せることができます」
スロープの下の空間はクロークになっています。
「現代では機能とデザインは別もの、といった考えもありますが、モダニズムでは機能とデザインは不可分のものでした」

⼩ホールホワイエとエントランスロビーをつなぐ⻑いスロープ

師とは異なる「前川國男」の特徴とは

大ホールに戻り、こうして1時間半にわたるツアーは終了しました。最後に米山講師が会場からの質問に答えました。「コルビュジエにはない、前川國男独自の特徴はありますか」。
米山講師によると前川國男は「『日本趣味』の風潮に逆らう」デザイン案によって、脚光を浴びるようになったそうです。
「日本が戦争に向かった昭和の初め、公共建築を中心に、日本の伝統的なデザインを取り入れなければコンペに通らない時代でした。ル・コルビュジエのもとで学んだ前川は、それにあらがって近代建築のスタイルを貫いていたため、コンペにはことごとく敗北していたのです。

しかし、たとえば大ホールの外観上部は日本の伝統的な民家などに見られる、屋根の棟(屋根の頂部)に似ています。台形に近い形ですが、最上部辺りでわずかに傾斜がなくなっています(写真下)。実は日本的な情感もほのかに込めていたのではないでしょうか」

⼩ホールの庭園にて。右側の建物が⼤ホールの上部。「⽇本⺠家の屋根のよう」と⽶⼭講師

近代建築を体感できる「東京文化会館バックステージツアー(建築編)」。舞台の照明操作などが体験できる「東京文化会館バックステージツアー(舞台編)」ともに、年に数回開催されています。
開催は不定期のため、東京文化会館の公式Twitterにて情報をご確認ください。

文・構成:佐藤恵美

東京都歴史文化財団パートナーシップとは

学校教育において都立文化施設を有効に活用いただき、学生の皆様へ文化に親しむ機会を提供することを目的とした大学等を対象とする会員制度。
今回のような会員限定イベントや都立美術館、博物館の常設展無料入場、特別展の割引など様々な特典があります。入会は随時募集しておりますので、お問い合わせください。

http://www.rekibun.or.jp/promotion/partnner.html

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