東京都江戸東京博物館を支える魅力のひとつ「えどはくカルチャー」は、江戸と東京の歴史、生活文化、美術、それらに加えて考古や建築、文学、芸能などを紹介する講座・講演会で、なんと年90回も開催されている。主に、同館で開催される企画展や特別展の関連講座と、展覧会の内容に限定しないテーマを扱う「江戸と東京を学ぶ」シリーズの二本柱で成り立っている。
東京都江戸東京博物館 えどはくカルチャー
イベント・レポート
No.021東京都江戸東京博物館の見どころは、展覧会だけではありません。豊富な講演、寄席など、楽しく学べるプログラムも数多く開催されています。今回はその一つ、江戸と東京の歴史や文化について学ぶ講座「えどはくカルチャー」をレポートし、講師の小澤弘さんにもお話をうかがいました。
ロングヒットの名物講座
その「江戸と東京を学ぶ」の中でもトップクラスの人気を誇るのが、「浮世絵師列伝」シリーズである。講師を務めるのは同館名誉研究員の小澤弘さん。先日、「浮世絵師列伝VII番外編」を受講してみた。「VII」というくらいだから、長寿講座であることがうかがえる。この日は、「浮世絵名品100選」と題し、名作をつぎつぎに紹介。大きく投影された画像に、小澤さんによる軽やかでユーモラスな解説が加わり、会場は終始、和やかな雰囲気に包まれていた。講座終了後、小澤さんに話をお伺いした。
収蔵品をより深く知りたくなる
「浮世絵名品100選の中には、江戸東京博物館の収蔵品も多く含まれています。講座では、作者の生い立ちや社会での評価、そのあと後世にどのような影響を与えたかを解説するとともに、当館の収蔵品をしっかり見て欲しい。講座を聞く前と聞いた後では、きっとコレクションの見え方も違ってくるはずです」
両国の地で当時のアーバンライフを知る
講座では、葛飾北斎の《富嶽三十六景》が取り上げられ、中には万年橋や両国橋を描いた作もあった。いずれも、江戸東京博物館から程近く、帰りがけにゆかりの地を散策したくなる。
小澤さんは、同館の設立準備の段階から関わり、展示や保存、研究などいろいろなセクションがある中、とりわけ教育部門に力を注ぎ、教育普及の重要性を提唱し続けてきた。
「武家や町人によって創られた江戸文化を知ることは、当時のアーバンライフを知ること。食や文化、服、劇場、興行、いろんなものが結びついていました。その点、両国にあるこの博物館は、まさに地場。周辺を散歩したり、周りの文化施設をめぐるのも、江戸を学ぶことにつながります。ですから、教育とはいえ、遊んで、楽しめる内容を目指しました。講座は毎日開いてもいいと言っていたほどで、博物館の中だけにとどまらず、“出前講座”と銘打ち、大学や商業施設に赴き、講座を開いたこともあります」
熱心な受講者が集う講座
今なお、小澤さんは大学の教壇に立ち、各地の講演会にもしばしば招かれる。大学や外部の講座と比べ、この「えどはくカルチャー」の特筆すべき点は何か、聞いてみた。
「『えどはくカルチャー』の受講者は知的好奇心がとても強く、外部の講座と比べて熱心な印象を受けます。浮世絵名品100選はあくまで私の観点です。最終的には、受講者の皆さんそれぞれが選ぶようになると素敵ですね」
ユーモアをまじえた語りで浮世絵の裾野を広げる小澤さんの講座「浮世絵師列伝」を始め、「えどはくカルチャー」は実際の作品を目にできる博物館の力を活かした好企画であった。
構成:新川貴詩
Photo: Shu Nakagawa
えどはくカルチャー
東京都江戸東京博物館の職員が主体となり、江戸と東京の歴史や生活から文化、考古、建築などを紹介する講座・講演会。その数、年90回を超えるなど、数の多さも特徴。
小澤弘(おざわ・ひろむ)
東京都江戸東京博物館名誉研究員・淑徳大学人文学部客員教授。
1947年生まれ。明治大学大学院文学研究科博士課程修了。調布短大教授、江戸東京博物館都市歴史研究室長・教授を歴任。専門は日本芸術文化史。国際浮世絵学会常任理事。モナコ「京都-東京~サムライからマンガまで展」共同監修者。ボストン美術館など日本美術品の調査研究も行う。著書に『都市図の系譜と江戸』、共著に『「熈代勝覧」の日本橋』ほか。