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クラウドファンディング 成功の秘訣 MOTION GALLERY 大高健志さんインタビュー[前編]

アーティスト・サバイバル・メソッド

No.016
「MOTION GALLERY」代表の大高健志さん

先輩クリエイターやサポーターによる、アートの制作現場で役立つ情報をお届けするシリーズ「アーティスト・サバイバル・メソッド」。

 

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2019.10.30

芸術系大学の学生・卒業生に集まってもらった前回の座談会を受け、疑問・不安解決の手立てを探っていきましょう。今回は「制作・発表にかかるお金のこと」として、映画『この世界の片隅に』『カメラを止めるな!』の成功も記憶に新しい、クラウドファンディングを取り上げます。クリエイティブ系に特化したクラウドファンディング・プラットホーム「MOTION GALLERY」代表の大高健志さんにお話を聞きました。


クラウドファンディングとは

クラウドファンディングは大きく「投資型」「非投資型」に分かれ、さらに投資型は「融資型・ファンド型・株式型」、非投資型は「購入型・寄附型」に細分化されます。それぞれ出資、リターン、課税の方法が異なります。その中でもMOTION GALLERYを含めクラウドファンディング・プラットフォームの多くは、非投資・購入型です。支援者はクレジットカードや銀行振込などでプロジェクトに出資し、リターンとして金銭ではなくモノや体験を受け取ります。その際かかる税金は、商品の売買同様、消費税と所得税です。

それでは、大高さんに実際にどのようにクラウドファンディングが展開していくのか、利点・注意点などをお聞きしていきましょう。

――立ち上げのきっかけを教えてください。

僕は会社を辞めて東京藝術大学大学院に入学し、映画製作を学んでいました。制作を行うなかで、文化活動や社会活動の初期衝動である「美術史に影響を与えたい」「芸術や社会に対して自分の価値観を打ち立てたい」という思いと、そのためのお金を儲けることとを両立させる大変さを実感しました。日本では経済活動に直結しない文化事業に対して、国や公的機関からの支援を募るのが難しい。そこで民間から資金調達をするクラウドファンディングに着目しました。

金銭ではなくモノや体験でリターンするクラウドファンディングでは、支援者は投資というビジネス的なものさしではなく、共感・応援というものさしで支援をしてくれます。そこがクリエイティブな活動とマッチするのではと思い、MOTION GALLERYを立ち上げました。

クラウドファンディングの流れ

――クラウドファンディングの一連の流れを教えてください。

MOTION GALLERY では、資金調達プロジェクトを行う人を「プレゼンター」、支援する人を「コレクター」と呼び、「プレゼンター」がプロジェクトを申し込んでからリターンを実行するまで、一貫してサポートを行います。

プレゼンターからプロジェクトの申し込みを受け、第一に行うのが実現可能性を判断する審査会です。MOTION GALLERYのスタッフが、プロジェクトのスタートとゴールが不明瞭でないか、設定金額や期間に無理がないか、完全な寄付を求めるチャリティー活動や投融資目的ではないか、などを見ていきます。審査の結果、掲載の決定したものはリターン方法やプロモーション方法を一緒に考え、プロジェクトページをMOTION GALLERYで掲載します。掲載終了後、集まった資金はプレゼンターに振り込み、プレゼンターはその資金を元手にプロジェクトを進め、リターンを実行します。

クラウドファンディングの流れ(「MOTION GALLERY」より)

――初めてのクラウドファンディングだと、目標金額に行くか不安になります。

資金調達の仕組みは、目標金額に達した時のみファンディングが実行される「All or Nothing 方式」と、目標に達成しない場合でも集まった分だけ実行される「All in 方式」の 2 種類です。前者は、目標金額に及ばなかった場合、集めた資金は返金されます。後者の場合、たとえ集まった金額が少なくてもプロジェクトの遂行やリターンの義務はあります。

プロジェクトを実行した結果、残念ながら失敗してしまうケースもあり得ます。その際、プラットホーム側は実行性までは担保できませんので、プレゼンターがコレクターに納得してもらえるよう、しっかり対応することが重要です。

――クラウドファンディングを行う利点はなんですか。

プロジェクトの意図や情熱を伝える表現力や伝達力、周囲を巻き込む力が鍛えられますね。

アーティストは「自分が表現したいもののために作品を制作している」と誤解されているように思います。本当に素晴らしい芸術作品は、パーソナルを突き詰めてパブリックになっていく、個人の思いや世界観が普遍的なものとして受け取れるようなものです。そこまで達している作家や作品かどうかは一見わかりにくいので、一括りにされてしまう。作品の意図やその真価を理解してもらい、購入や上映・上演してもらうためにも、プレゼンテーション能力は大事です。

経営者とアーティストの両方の視点を持つ大高さん

一番大事なのは、作品への熱意と嘘をつかないこと

――クラウドファンディングを成功させるコツはありますか。

クラウドファンディングは、実現できるかわからないものをやろうとするプレゼンターの情熱に対し、コレクターが共感・応援することで、才能の芽が生まれてくる仕組み。そのため、自分が考えていることにいかに正直かが大前提です。

「共感してもらえそう」「流行っているから」ではなく、「自分がどういうことをしたいか」「なぜみんなから資金を集めたいのか」を、自分の言葉でわかりやすく伝える。上辺だけの言葉は見る人にバレてしまうし、もともとファンだった人たちから見ても「いつもと言っていることが違う」と興味を失ってしまいます。それに、嘘が混じっていると自分自身も「応援してください」と言えなくなってくるんです。

――リターンについての注意点はありますか。

自分が関わった証や直接作品づくりに関わるプライスレスな体験など、より作品を理解できる、作品が自分のものになっていく実感が湧きやすいものが良いですね。また、支援額の対価にふさわしいかを考えてグッズなどを制作しがちですが、プロジェクトとあまり関係のないリターンにした場合、支援がただの消費行動になってしまう可能性もあります。

商品として魅力的なリターンを設定した場合、確かに資金は集まります。けれども、その特典が欲しいだけの人は、作品を見にきてくれないでしょう。本当に興味を持つ人に作品を届け、関わってくれた人たちとクラウドファンディングを通して繋がる。その方が、ファンがファンを呼び、作品がより社会に広まっていく。結果的に自分の実現したいことが成し遂げられると思います。

クラウドファンディングには仕組みや手続きなど、知っておきたいこと、やらなければならないことがたくさんあります。しかし一番重要なのは、自分の表現活動を突き詰め、それを正確に伝えることのようです。

後編では、3つのプロジェクトを例に、具体的なポイントを見ていきましょう。

(後編に続く)

Text:浅野靖菜
Photo:竹見洋一郎

MOTION GALLERY
2011年に設立され、2,800件以上のプロジェクトを実現させてきたクラウドファンディング・プラットホーム。
https://motion-gallery.net

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