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トーキョーワンダーサイト渋谷、最後のイベント

イベント・レポート

No.026
潘逸舟「搬出」

約12年間にわたり渋谷で気鋭の芸術文化を発信してきたトーキョーワンダーサイト渋谷は、「(仮称)東京都渋谷公園通りギャラリー」として生まれ変わるため、2017年9月に運営を終了しました。閉館前の最後の展覧会は「渋谷自在―無限、あるいは自己の領域」。めまぐるしく変化する渋谷という街で、自らの身体に立ち返り、社会における境界の在り方を問い直すことをテーマに、大野茉莉、西原尚、潘逸舟の3名の作家の作品を約2カ月にわたり紹介。展覧会最終日のTWS渋谷クロージング・イベントでは、西原尚、潘逸舟に加え、オル太+開放回路の3組のアーティストがパフォーマンスを披露し、多くの来場者が駆けつけました。


潘逸舟「搬出」

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2017.01.26

西原尚による全身で奏でる音のパフォーマンス

代々木公園へと上がっていく緩やかな坂道に、トーキョーワンダーサイト渋谷(以下、TWS渋谷)が誕生したのは2005年。それから12年にわたり約200回以上の展覧会やイベントを開催し、最先端のカルチャーが集まる渋谷から、あらゆるジャンルにおける新たな才能の発掘と、多くの実験的なクリエイションを生み出してきました。

そのTWS渋谷最後の夜。縁のあるアーティストや常連のお客さまをはじめ130名ほどの来場者が集まり、会場は熱気に包まれました。

身動きがとれないほど多くの来場客で埋め尽くされた空間で、西原尚(にしはら・なお)さんのパフォーマンスが始まりました。見慣れたものを素材にしたごく普通の音に身体性とコンテクストを加え、聞く人の可能性を追求する作品制作やパフォーマンスを行う西原さん。

トタンでできたバラックのような小屋に、さまざまな音が仕掛けられた自らのインスタレーション作品《音の生活》を舞台に「みなさん、こんばんは」と語り始めます。右手にシンバルを持ち、背中にはロウソクを立てた太鼓。背中に手を回し、そっとロウソクに火を灯します。「最後ということがさみしーよーな、気もしますけど、やってーみーたいー」と語り言葉がやがて歌のようになり、シンバルと笛の音が鳴り出しました。

笛を吹き、おもむろにトタン屋根を外して引きずったり、鈴を手に「誰かー、いますかー」と小屋を1軒ずつ回ったり。韓国の縦笛にドイツの縦笛、キューバの太鼓、中国のシンバルなど世界各地の楽器を使いながら、音と音楽のパフォーマンスを披露しました。

西原尚によるパフォーマンス

上演後に西原さんは「終わりだけど終わりじゃない、というのがやりたかったんです」とコメント。まだ続きがあるような終わり方にしたのは「お客さんの気持ちがまだ固まらないうちに放り投げたかったから」と言います。

自らを梱包し、「搬出」する潘逸舟

西原さんがパフォーマンスを繰り広げている頃、脇ではダンボール箱に入った潘逸舟(はん・いしゅ)さんが「搬出」と題したパフォーマンスを行っていました。「作家自身を梱包し、自らを『搬出』する作品」と潘さん。約1時間かけて、TWS渋谷のエントランスに向かってダンボール箱が移動していきます。

潘逸舟「搬出」

中国人として日本で生まれ育った潘さんは社会におけるアイデンティティをテーマに作品を制作しています。今回の展覧会では、展示室で大きなスクリーンに投影した映像作品と平面作品を展示。パフォーマンス時に設置された廊下の映像では展示室から廊下までの「搬出」の様子を見せています。「作家を作品として捉えた」という今回のパフォーマンスは、少しずつ出口に向かっていくダンボール箱を通して、通常、観客は見ることのできない「搬出」という展覧会の最後の作業を見つめることができました。

「伝承」をテーマにしたオル太+開放回路

西原さんのパフォーマンス後、展示室に移動し、アーティスト集団のオル太と、ソウルの企画集団「開放回路(かいほうかいろ)」のメンバーによるパフォーマンス「伝承 Pang Pang ν (ニュー)」が始まりました。両グループは、2017年より日本と韓国の祭りや芸能を通じて、現代における伝承のあり方をリサーチするプロジェクトを共同で行っています。

オル太+開放回路「伝承 Pang Pang ν(ニュー)」

3つのモニターを囲み、スマホを持った8名の若者が車座になっています。順に立ち上がり、まわりながら「月が~、でたで~た~」と歌い出しました。しばらくすると道具を振り上げて下ろすような仕草や、「カンカン」という音を鳴らし、炭鉱での労働を想起させるような動作が加わります。やがて座卓を囲んで宴会が始まり、別の民謡を踊ったり、儀式のようなものが執り行われました。

オル太+開放回路「伝承 Pang Pang ν(ニュー)」

「今回のパフォーマンスでは、前半に炭鉱節、直利(なおり)音頭、やっちき踊りという3つのヤマの踊りを、後半ではお辞儀や手を洗い口に紙を加える、ハミという清めの風習などを行いました」とオル太のJang-Chi(チャンチ)さん。

「日本と韓国の祭りや民謡、風習からパフォーマンスでの身振りをつくっています。口承によって伝達されてきた多くの民謡は、その時その場で変化して作られてきました。民謡や踊りの緩やかな形や枠組みを通して、オル太と開放回路がその場で新しい身振りを発見してく過程を観客と共有できるのではないかと考えました」

今回のパフォーマンスは、11月にオルタナティブ・スペース「開放回路」での展覧会に先がけた発表でした。「これまで多くのアーティストがこの場所で作品を発表してきました。場所はなくなるけれど、この場所で何が行われてきたかが大事だと思います。それは自然に残っていくものではないでしょうか」

最後に、出演アーティスト、来場者、スタッフで記念撮影

若手の育成と支援を大きな目標に掲げ、多くの作品や交流を生み出してきたトーキョーワンダーサイト。渋谷での活動が終わっても、この場所で生まれたことが別の活動や作品へとつながっていく、そんな未来を暗示するような夜でした。今後はトーキョーアーツアンドスペース本郷・TOKASレジデンシー2拠点での若いクリエーターやアーティストの活躍にご期待ください。

オル太+開放回路「伝承 Pang Pang ν(ニュー)」で配られたコップ

Text:佐藤恵美
Photo:中川周

渋谷自在―無限、あるいは自己の領域
日程:2017年7月29日(土)~9月17日(日)
アーティスト:大野茉莉、西原尚、潘 逸舟
http://www.tokyoartsandspace.jp/archive/2017/06/s0729.shtml

TWS渋谷 クロージング・イベント
日程:9月17日(日)
プログラム:西原尚 パフォーマンス/潘逸舟「搬出」/オル太+開放回路 「伝承 Pang Pang ν(ニュー)」
http://www.tokyoartsandspace.jp/archive/2017/08/s0917.shtml

「トーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)」始動!
トーキョーワンダーサイトは10月1日より名称を変更し、「Tokyo Arts and Space (トーキョーアーツアンドスペース、略称:TOKAS)」として新たに始動しました。なお、「トーキョーワンダーサイト渋谷」の施設は東京都現代美術館が運営するアール・ブリュット作品をはじめとした展示や交流・情報発信を行う「(仮称)東京都渋谷公園通りギャラリー」として再整備されます。
http://www.tokyoartsandspace.jp

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