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聞いて観て演じて歌舞伎の世界を体感する Discover KABUKI―外国人のための歌舞伎鑑賞教室― 外国人のための歌舞伎ワークショップ

イベント・レポート

No.032

歌舞伎や文楽といった伝統芸能の公演が行われる国立劇場。ここで毎年6・7月に開催されているのが、独立行政法人 日本芸術文化振興会が主催する、初めて歌舞伎を観る方にもわかりやすい解説付きの公演「歌舞伎鑑賞教室」です。2019年も6月は2日から24日に渡り、計46回が開催されました。今回は、その一環として6月17日に行われた、外国人の方も楽しめるよう工夫された「Discover KABUKI―外国人のための歌舞伎鑑賞教室―」と、初の試みとなる「外国人のための歌舞伎ワークショップ」の模様をお届けします。


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2019.08.07

歌舞伎の“いろは”をやさしく解説

東京・半蔵門、皇居内堀沿いに建つ国立劇場 大劇場に到着すると、開演30分以上前にも関わらず劇場の外も中も大勢の人。劇場に入ると、ツアーのような大人数のグループから一人で来ている方まで、海外の人を中心に多くの人がわくわくした様子で開演を待っています。

開演前の大劇場の様子

薄暗いなか、ポップミュージックのような音楽が流れ、舞台が回りながらせり上がるというダイナミックな演出で、「Discover KABUKI」が開演しました。会場が明るくなると、ナビゲーターの中村虎之介さんと木佐彩子さんの登場です。

鑑賞教室では、実際に歌舞伎の演目を鑑賞する前に、「歌舞伎のみかた」と題された解説が入ります。「Discover KABUKI」は、英語と日本語を交えた特別バージョンです。まず、効果音を奏でる「黒御簾(くろみす)」や三味線の入ったナレーションである「竹本(たけもと)」など、歌舞伎の音の役割について紹介されました。続いて、ニューヨークから訪れているという二人の女性が観客代表として舞台上へ呼ばれ、「ツケ」や「見得(みえ)」の解説を聞きながら実演したり、女性の役を演じる「女方(おんながた)」の基本姿勢について教わったり。最後は舟に乗って花道から退場した二人は「Really fun(とても楽しかった)」、「Amazing(素晴らしかった)」と嬉しそうに感想を語っていました。

続いて今日の演目のあらすじが英語で説明され、いよいよ舞台が始まります。

今回上演されたのは、南北朝の動乱を描いた軍記物語『太平記』を題材にしている『神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)』の「頓兵衛住家(とんべえすみか)の場」。南朝方の武将・新田義興(よしおき)を謀殺し、その弟である義峰(よしみね)をも捕らえて褒美の金銭を得ようとする渡し守の頓兵衛と、その娘で、義峰に一目惚れしてしまうお舟が中心となる物語です。

前半、義峰に対する恋心をストレートに表現するお舟に対して客席から歓声が上がる場面も。後半は一転、誤って頓兵衛に刺されてしまうお舟が、父親への孝心を感じながらも義峰を命がけで救おうとするドラマチックな展開になります。恋心や親への孝心、また金銭への執着といった万国共通の人間の姿が描かれた物語には、言語の壁を超えて多くの観客が共感できたのではないでしょうか。

『神霊矢口渡』の上演の様子。舞台の上部に英語字幕が表示されている。

左から、娘お舟(中村壱太郎)、渡し守頓兵衛(中村鴈治郎)

写真提供:国立劇場

歌舞伎のおもしろさを体全体で体感

公演の後に休憩時間を挟み、「外国人のための歌舞伎ワークショップ」が始まります。今回が初めての開催となるこのワークショップには、鑑賞教室を観劇した30名ほどが参加しました。最初は大太鼓の演奏体験です。大太鼓は三味線などに合わせて演奏されるだけでなく、さまざまな効果音も担当するそう。体験では、遠くから押し寄せては砕ける波の音を再現しました。講師役の方の模範演奏を聞くとシンプルな音のようですが、強弱のつけ方やリズム、特に間の取り方に参加者の皆さんは苦戦しているようでした。

「ズドンドン、ドンドンドンドンドンドン」と打ち寄せる波の音を大太鼓で表現します

続いて4名の役者が講師となって登場し、男性役である「立役(たちやく)」と女性役である「女方」の演技体験です。女方の体験では、基本の姿勢から学んでいきました。肩甲骨をくっつけるように肩を下げ、太ももをつけてつま先を内向きに、顎を引いて手を胸の前に添え、首をかしげてすり足で……と、女性らしい歩き方には気を配ることがたくさんあるようです。

基本を学んだ後は振袖を着用して、2人1組で、恥ずかしがっている女性の演技を練習します。袖で手を隠して口元に当てたり、お互いに見つめ合ったり顔を隠したり。少し照れくさそうな参加者もいましたが、男性も女性もとても可愛らしい雰囲気が出ていました。

女方はすり足で歩く練習から始まります
振袖を着ることで、自然とおしとやかな身のこなしに

立役の体験では、「ツケ」の音に合わせて「見得」をします。歌舞伎独特の演技である「見得」は、登場人物の気持ちの高ぶりを表す迫力あるポーズです。足の踏み出し方、手の動き、体重の移動、頭の振りなど、数秒ながら考えることがたくさんあります。最初は思うように動くことができなかった参加者も、最後にキレのある頭の振りができると満足そうな表情でした。

ツケは、2本の「ツケ木」を「ツケ板」に打ち付けて鳴らす音のことを言い、役者が走るのに合わせて鳴らしたり、重要な見せ場で動きをより大きく見せるために使われたりします。講師の演じる見得に合わせてツケを打つ体験では、演者を見ながら動きに合わせて打つのが難しそうでした。最後にグループ全員で見得をしましたが、皆さん動きが揃っていて格好良かったです。

挑戦するツケはわずか4音ながら、なかなか見得の動きにぴたりと合わせられません

参加者からは「役者の動きに対するツケの打ち方は事前に決まっているのか」「役者は全部で何人くらいいるのか」などの質問がされ、歌舞伎に対する興味の深まりが伺えました。

ワークショップの後に、埼玉の大学で日本文化を学んでいるというスペイン出身の留学生のホセさんにお話を伺いました。大学の教授とクラスメートと一緒に参加したというホセさんは、来日2年目にして歌舞伎を見るのは3回目ですが、今回のようなワークショップの参加は初めてとのこと。特に女方の体験が非常に楽しかったのと同時に、歩き方など動きがとても難しかったそうです。また、大太鼓で体験した波の音のような効果音の意味を理解できたので、次に歌舞伎を鑑賞するときは、より一層感情移入することができると思うと語ってくださいました。

スペイン出身のホセさん

「歌舞伎鑑賞教室」は、戦後の娯楽の多様化で歌舞伎から疎遠となってしまった若者の鑑賞の手引きとなるようにと、国立劇場が開場した翌年の1967年から開催されました。「Discover KABUKI」も2015年より始まり、今回は一歩踏み込んで演技・演奏体験のできる「歌舞伎ワークショップ」も同時に開催されました。毎回満席となるほどの人気で、若者や外国人の方々の潜在的な関心の高さがうかがえます。歌舞伎に興味はあるけれど難しそうと敬遠していた人も、「歌舞伎鑑賞教室」の丁寧な解説と創意工夫に富んだアプローチで、歌舞伎の世界にぐっと近づけるのではないでしょうか。

Text:澤口えりか
Photo:櫛引典久

Discover KABUKI―外国人のための歌舞伎鑑賞教室―「神霊矢口渡」
国立劇場
国立劇場 大劇場
日程:2019年6月17日(月)14:30開演/19:00開演
6月18日(火)14:30開演
料金:学生 (全席) 1,500円、1等席 4,000円、2等席 1,800円
※英語・中国語・韓国語・スペイン語・フランス語・日本語のイヤホンガイド付き

外国人のための歌舞伎ワークショップ
国立劇場 大劇場
日程:2019年6月17日(月)17:00-18:00
参加費:無料(歌舞伎鑑賞教室のチケット購入者が対象)
※英語通訳付き
https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_l/2019/20196discover-kabuki.html

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