太田記念美術館の公式Twitterは、開催中の展覧会に出品している作品や季節に合わせた作品など趣向を凝らし、学芸員全員でツイートしています。
2012年の開設から徐々にフォローも増え、現在のフォロワー数は13万人を超えました。幅広い層がツイートを楽しんでおり、海外からのリプライが来ることも。「#おうちで浮世絵」というハッシュタグ付きでツイートされた《家内安全ヲ守十二支之図》は「かわいい」「頼もしい」と話題になり、2.4万いいねがつきました。
「#おうちで浮世絵」は、新型コロナウイルス感染拡大防止のための臨時休館により、会期途中で中止となってしまった「鏑木清方と鰭崎英朋 近代文学を彩る口絵 ―朝日智雄コレクション」展の作品を、Twitter上で紹介しようと2020年2月28日から始められました。展示作品の画像だけでなく各章の展示パネルも紹介され、実際に展示をみることができなくとも展示構成や展覧会の意図を楽しむことができます。
3月1日以降は小中学校が休校となり、自宅で過ごす方が増えてきたことから、家にいても浮世絵を楽しめるようにと、さまざまな作品が紹介されるようになりました。江戸時代に流行した疱瘡(ほうそう)除けの赤ミミズクや疫病除けに効果があるとブームになった妖怪アマビエを受けて半人半魚の人魚など、お守りになりそうな作品がアップされました。また、同じころにツイートされた《風俗三十二相 つめたさう》に描かれているのは、感染症予防に効果的な手洗いの様子です。
当時こうした浮世絵が制作された背景を伺うと、流行り病にかからないように、あるいは病気回復のおまじないとしてつくられ、おそらく部屋の壁に貼ったり枕元に置いたりしていたと推測されるようです。基本的におまじないということで、いつの間にか民間に信仰されたモチーフが題材となりました。
例えば赤ミミズクは、疱瘡にかかると失明することがあったため目の大きいミミズクが、昔から病魔を退けるという考えがあった赤色で表現されたものです。こうした災難除けの効果を期待したものには奇妙な生き物だけではなく、鍾馗(しょうき)や桃太郎といった力のある人物が描かれることもありました。また、話題になった《家内安全ヲ守十二支之図》についてはあまり例が多くないようで、縁起の良い生き物として短期的に流行したものと考えられるそうです。
作品の選び方について、日野原さんは「なかなか外に出られず気分が滅入りがちな時ですので、見て楽しい、気持ちのなごむ作品を選んでいます。また、季節の行事やニュースにちなんだ作品や、この時期開催するはずだった展覧会の作品なども紹介しています」とのことです。所蔵作品を把握している学芸員の方が、テーマを思い付いてから選ぶこともあれば、作品をみていてこんな切り口でも紹介できるとアイデアが出てくることもあるそうです。
「#おうちで浮世絵」のハッシュタグは、浮世絵を所蔵している他の美術館にも広がっています。
鮮やかな色やユーモラスな表現が楽しい浮世絵ですが、江戸時代の風俗や絵解きのような仕掛けなど、現代の私たちには発見しづらい見どころもあります。そこで太田記念美術館のツイートには、モチーフや画題に関したわかりやすく楽しい解説や、作品の細部に目を向けるような文章が添えられています。
以下のツイートで女性が着ている浴衣の柄に目を向けると、解説にあるとおり、巻物をくわえて印を結んだ忍者や頭に鉢巻を巻いた助六姿のコウモリを見つけることができます。このツイートには、文字で埋め尽くされた背景に対しても「グラフィックデザインみたい」とコメントが寄せられ、現代の私たちが見ても斬新な浮世絵の魅力を発見できた読者もいたようです。
「それほど人気のなさそうな作品の反応がとても大きかったり、自分が知らなかった見方や情報をコメントしてもらったりすることがあります。自分一人の知識では気が付けなかった発見となり、とても勉強になります」と日野原さん。
投稿をする際に気を付けていることを日野原さんに伺うと、このような回答をいただきました。
「あくまで浮世絵の面白さを知ってもらうことが目的ですので、作品本来の正しい内容を前提とした上で、今の人々にも共感できる切り口を紹介するようにしています。個人的な強い思い入れや偏った解釈、過度なウケ狙いは書かないように心掛けています。」
画像に関しては、どこの箇所を大きくするか、縦と横の比率をどうするかなど、Twitterのタイムラインに上がった時に表示されたことを想定してトリミングされています。
大切なのは大きな反響を得ることではなく、作品の魅力が正しく、効果的に伝わること。そのために、解説の正確さと画像の見せ方に細心の注意を払っているそうです。
SNSだからこそ気軽に親密なコミュニケーションがとれ、ツイートをする側・見る側、その両方に思わぬ出会いや発見があるのかもしれません。今後も浮世絵の魅力を多方面から伝える太田記念美術館の取り組みに注目していきたいです。